第83話 潜入した副担任の思惑
宮脇
エリュシオンのギルドで俺達【聖刻の盾】の受付担当であるインディの本名だ。
また特殊公安警察『零課』に所属する捜査員という裏の顔を持っている。
そういや面影があるぞ。
昨日、ゼファーが言っていた「本命の潜入工作員」とはインディのことだったのか?
にしても、まさか副担任の教師として潜入するとはな……。
「――ユッキ。あの見事なバスト88のEカップ、間違いなくインディ殿だぞ」
ヤッスは名前や容姿じゃなく、おっぱいだけで彼女だと見抜く。
せっかく秋月といい感じになりつつあるのに『おっぱいソムリエ』ぶりは健在だ。
ちなみに以前の副担任の先生は産休のため休職中であるとか。
そんなインディ、じゃなく宮脇先生は俺と目を合わせ、軽くウィンクして見せてくれる。
うん、素顔も爽やかで綺麗な女性だ。
昼休みとなり、俺達【聖刻の盾】は理科室に集まった。
俺よりホームルームの一件を説明する。
香帆と紗月先生は驚く中、美桜だけは事前にゼファーに聞かされていた様子だった。
「指揮するゼファーの考えでは、きっと真乙のクラスか学年に『レイヤの協力者がいる』と踏んで的を絞ったんでしょうね」
「う~ん、姉ちゃん。俺はクラスにはいないと思うけどな……唯一、該当しそうな大野達はあの有様だし、他に渡瀬と接点がるとすれば、杏奈か秋月ぐらいだぞ?」
杏奈は狙われる立場だし、秋月も前周ではリア充グループと同様に利用される立場。
しかも今回は二人とも被害者だ。
他のクラスの連中だって、いくら《隠蔽》スキルでステータスを偽っていようと、とても上級
すると不意に理科室の扉が静かに開かれる。
気配を感じさせない完璧な動作に、俺達は咄嗟に身構えた。
「……私だよ、マオトくん。入っていい?」
インディの声だ。
「イン、いや宮脇先生? ええ、どうぞ」
名指しされた俺は許可すると、彼女はこっそりと理解室に入ってくる。
「ごめんね、驚かして……新人教師の私が一人でここに入るのって可笑しいでしょ? だから誰にも見られないようスキルを発動して訪れたのよ。こうみても潜入捜査は専門だからね」
「確か貴女、特殊公安警察の『零課』に所属する『作業班』ね? ゼファーに使われる立場だったかしら?」
「ミオ様、随分とお詳しいですね? 仰る通り、ゼファーさん直属の部下となります」
以前、美桜から聞いた話によると、『作業班』とは公安警察、警備企画課の直轄部隊だとか。
特にゼファーが指揮する『零課』所属の『作業班』は非合法の違法捜査は当たり前で、先鋭の諜報能力と工作技術を有するらしい。
「学校では『様』はいらないわ。あと敬語も不要よ。わかってはいると思うけど……それで、昨日保護した子達をすぐ解放したってことは、何かしら情報を掴んだってことかしら?」
「いえ寧ろ逆です。パラノイドに寄生された以外は何もないので解放せざるを得なかった感じです。未成年者ということもあり、そう長い期間保護はできない事情もありますので」
流石に何日も家を空けていたら、大野達の親も騒ぎ出すだろう。
周囲にも不審に思われるだろうし、リア充だけに日頃の素行がよい分尚更か。
当然、渡瀬側には何かしらの形で知れ渡っていると思うが。
宮脇は「ですが」と付け加える。
「レイヤの狙いと目的はわかっているので、
「杏奈はわかるけど秋月も?」
「ええ。マオトくん達の報告から、レイヤは野咲さんに拘っているものの、場合によっては他の生徒も『邪神の生贄』として対象にする可能性も浮上してきました」
確かに渡瀬の疑似人格は、「負の念」を宿す者なら誰でもいいとも言っていた。
「なるほど。杏奈ちゃん達だけ保護すればいいってわけじゃないってことね? 手っ取り早い話、レイヤと協力者達を捕えなければ何も解決しないってことね」
「ミオさんの仰る通りです。おまけにあくまで隠密捜査なので、私達特殊公安警察としても、貴女達【聖刻の盾】の力を借りなければ困難だと判断しております」
「わかっているわ。連中は他にも上級
美桜に念を押され、宮脇先生は困り顔で「はい、ゼファーさんには伝えておきます」と愛想笑いを浮かべる。
「そうだ、思い出したわ! 宮脇先生!」
いきなり紗月先生が豊乳すぎる両胸を上下に揺らし、宮脇先生に詰め寄ってくる。
「な、なんですか? 天堂先生?」
「以前、
見た目は癒し系の美人教師なのに、『BJアゼイリア』ぶりを発揮する紗月先生。
「え、ええ……今も専門機関で調査中でして。来週には必ずご返却致しますので、どうかお待ちください」
「そ、そぉ……まぁいいわ。けどあまり遅いと利子が発生するから覚悟してよね!」
おい、紗月先生。相手は仮にも警察官だぞ。
そんな闇金紛いのことしたら、即アウトだからな。
しかし宮脇先生は大人の対応で「はい、ゼファーさんにきつく言っておきます」と受け流している。
やっぱり有能なギルドの受付嬢だ。
無茶ぶりしてくる冒険者の対応もお手の物である。
「――それで宮脇先生殿は、あのクラスで誰が渡瀬の協力者だと踏んでいるのですか?」
ヤッスが真面目な顔で訊いてきた。
「ヤッス、やはり姉ちゃんが言うようにクラスの中で渡瀬の協力者がいるってのか?」
「ああユッキ、僕はそう思っている。だから宮脇先生も、わざわざ僕達のクラスの副担任として潜入してきたんだろ? でなきゃ他の学年教師か、ゼファー殿のように自由に動ける用務員ポジでいいんじゃないか?」
「流石は
いえ宮脇先生。
こいつはただの『おっぱいソムリエ』という変態紳士であります。
《看破》スキルのおかげで、時折鋭いこと言いますが……。
「実は疑いのある人物を何名か絞っているわ。生徒と教師の両方ね……別のクラスにも『モグリの“帰還者”』がいるけど、とりあえずマオトくんのクラスを中心に洗っていく作戦よ」
マジかよ……姉ちゃん達以外にも、この学校内に“帰還者”がいるのか?
モグリってことは、ガンさんのように何かしらの事情でギルド登録してない連中ってことだ。
「インデッチ、二年に“帰還者”はいないのぅ? 三年はぁ?」
「ええ、
「それで……あんたらは俺達のクラスで誰を疑っているんだ?」
「ガルジェルド、いえ岩堀さん。それはまだ言えない状況です。皆様には通常の学生生活を送って頂きながら、協力を仰ぐ形となることでしょう」
「協力って?」
俺の問いに、宮脇先生は場にそぐわないほど満面の笑みを浮かべる。
「はい、『闇勇者レイヤと協力者を炙り出す』作戦です。時期は二学期以降、したがって一学期と夏休みはその準備期間となることでしょう」
二学期以降か……まぁ期末テストが終わったらすぐ夏休みだからな。
それにまだ疑惑の段階らしい。
てか宮脇先生、笑顔が素敵すぎて逆に不敵に見えて怖いぞ。
所謂、「零課モード」ってやつだろうか?
「ゼファーなりの思惑があるようね。あいつもフレイア同様、ムカつくくらい頭がキレるから……わかったわ。それまで【聖刻の盾】は待機すること。万一、今回のように向こう側から仕掛けてきたら戦うだけよ。あとギルドの活動は平常通りさせてもらうわ」
「それで構いません、ミオさん。それにマオトくんと【聖刻の盾】の皆さんも、どうかご協力お願いします」
宮脇先生は丁寧に頭を下げて見せる。
俺達は了承すると、彼女は物音を立てず気配を消して理科室から出て行った。
「ふぃ~、
「かもね。あのゼファーが傍に置く女よ、只者じゃないのは確かだわ」
ゼファーと同じ
“帰還者”じゃない俺にとって異世界は未知なだけに最近では少し羨ましい部分もあったりする。
特に今の俺はレベルが上がりづらい『停滞期』の状態だ。
異世界と違い現実世界では『
なんとか夏休み中で偉業を成し遂げてレベルアップしていかないと……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます