第77話 リア充達の異変
大野達を保健室に預け、俺達は教室へと戻ることにした。
「とりあえず様子見かな。放課後までこの調子だったら、流石の灘田も親に連絡するだろ?」
俺の問い掛けに、その場にいる全員が「う、うん……」と自信なさげに頷いている。
だよな……あんな態度を見せらえたら誰だってそう思うわ。
いっそ他の先生に相談してみるか?
最も信頼できる教師といえば、仲間である紗月先生か……けど思いっきり迷惑をかけてしまいそうだ。
「ねぇ幸城、あんたのお姉さん生徒会長でしょ? 生徒だけじゃなく先生達にも抜群に信頼されているし、灘田の件も含めて相談してくれないかなぁ……」
秋月は不安そうな眼差しを向け、俺に懇願してくる。
「姉ちゃん? そういや生徒会長だっけ、すっかり忘れてた……けど、ああ見ても物臭なところがあるからな。自分の恨み事は執念深く倍返しだけど……昼休みにでも相談してみるよ」
美桜も“帰還者”絡みのことは協力するって『零課』のゼファーと約束していたからな。
特にこの学校に潜むとされる「渡瀬の協力者」を探すというクエストもある。
大野達の状態異常も案外そいつの仕業かもしれない。
しかし昼休みになると、大野と工藤のリア充グループは何食わぬ顔で教室に戻ってきた。
「おい大野、大丈夫か? 工藤やみんなも……心配したんだぞ」
「ああ幸城君、心配かけて悪りぃ。実はあんまり覚えてないんだけど……部活で無理したようで、なんか疲れちまったかもしれない」
「みんな連休中は何かと忙しかったからな。休んだら調子よくなったよ」
大野と工藤は微笑んで答えてくれる。
陽キャならではの忙しさが祟ったとでも言うのか?
他のグループであるリア充男女からも「幸城君、保健室まで運んでくれてありがとう」と感謝された。
普段通りのリアクションでホッとする反面、違和感を覚える。
朝がああだっただけに余計だ。
彼らと本来、同じグループである秋月も安堵の表情を浮かべて近づいてきた。
「……良かったぁ、みんな元に戻って。心配したんだよ」
「…………」
「佑馬?」
「…………」
秋月が声を掛けても大野は何も答えようとしない。
工藤や他の仲間達も同様だ。
目すら合わせようとしない。まるで彼女を無視しているように見えた。
秋月も異変を察し、強張った表情を浮かべ後ろに下がっている。
親友の杏奈が秋月の傍に寄り添った。
「音羽、まだみんな本調子じゃないんだよ。一緒にお昼食べよ」
「う、うん……杏奈。それじゃね、佑馬、傑」
秋月は手を振って離れるも、大野と工藤達は依然として無視したままだ。
しかも彼女達が離れた途端、リア充同士で輪になり、わいわいと話し始めた。
なんか感じ悪いな、こいつら……。
「おい、どうして秋月をシカトするんだ? 彼女が一番、お前達のこと心配していたんだぞ?」
ついムキになり強い口調で言及してしまう、俺。
まるで前周の杏奈を彷彿させる連中の態度にイラついてしまった。
「んなことより、幸城君。俺らとダベらね? 詫びに昼飯奢るからさぁ」
「え? いや……俺はいいよ」
俺には、爽やかな笑顔を向けて親し気に話してくる大野。
工藤やリア充グループ達も平和そうにニコニコと笑っていた。
なまじ悪意を感じさせない分、逆に不気味すぎて怖い……。
念のため《鑑定眼》でステータスを調べてみたが、状態項目の「状態異常」が消えている。
本人達が言う通り、休んだことで調子が戻ったということか?
まぁ、秋月も杏奈と一緒にいることで孤立せず済んでいることだし。
この場で大野達と揉めても仕方ないか……。
俺は「じゃあな」と手を振り、リア充グループから離れる。
ヤッス達と合流した。
「……秋月さん、なんか可哀想だな」
心優しいガンさんが小声で言ってきた。
「ああ……けど、杏奈が傍にいるからな。まだいい方じゃないか?」
前周じゃ杏奈が同じ仕打ちを受けていた。
親友の秋月が筆頭となって……。
けどそれは渡瀬の仕業だったことが判明している。
手段はわからないが、おそらく洗脳系か何かのユニークスキルが施されたのだろう。
今の大野達もその可能性が高い。
朝の「状態異常」は謎だが、俺達の注意を反らす作戦なのか?
あるいは渡瀬じゃない、別の協力者による仕業なのか?
何かが起ころうとしているのは確かだ。
後手に回る前になんとか先手を打ちたいところだ。
あるいは既に始まっているのか――。
「……やっぱり姉ちゃんに相談してみるべきか」
一応、【聖刻の盾】のリーダーだからな。
俺が相談すれば『
そう考えていると、いつの間にかヤッスが単独で傷心する秋月の傍に近づいていた。
「――おい、ギリCカップ。なんなら、しばらく野咲さんと一緒に僕達の傍にいるといい。あんなしょーもない連中と戯れるより余程マシだろ?」
「……ありがとう、安永。一応、礼だけは言っておくわ。けど誰がギリCカップよ! 幸城とガンさんは信用できるけど、女の子のおっぱいしか興味のないアンタがクラスで一番の不審者なんだからね! このド変態ッ!!!」
ヤッスなりにフォローしたつもりだろうけど、とにかく言い方が最悪だ。
おかげで火に油。秋月はブチギレてしまった。
チッと舌打ちして、ヤッスは俺達の元に戻ってくる。
「……ったく、人が気を利かせてやっているのに失礼な女だ。そう思わないか、ユッキ?」
「いや、お前の言い方……もう少し優しい言葉で誘ってやれよ」
「前に話したろ? あのギリCカップ、中学二年頃から色気づき僕を裏切り、大野達のような陽キャのリア充に靡いた……その前までは気の合う同志だと思っていたのにな。したがって内心ざまぁだと思っている。例えるなら復讐系ラノベに救済は皆無だと豪語する読者と同じ心境だよ」
やっぱり最悪だ、こいつ。
特にお前の場合、オタクや厨二病だけじゃなく『おっぱいソムリエ』ぶりが主な原因だろうが。
そこを自重すれば、秋月だって離れることなかったんじゃね?
さらにヤッスは「しかしながらだ」と口にする。
「だからと言って仲間を簡単に見限る輩も好きじゃない。たとえ魅了か洗脳を受けていたとしてもだ。だから
「要はヤッスなりに秋月を気に掛けているってことだな? 素直にそういやカッコイイのに……」
時折見せるシリアスモード時のヤッスは、俺から見ても知性溢れる涼しい容貌をしたイケメンだ。
しかし奴の脳内の8割が「おっぱい」のことしかないので、プラスである筈の
それから昼食後、姉の美桜に相談することにした。
理科室にて俺達【聖刻の盾】メンバーが集結している。
「――ねるほどね。レイヤ絡みなのは、ほぼ間違いないようね」
「姉ちゃんもそう思うか?」
「ええ、異変だって真乙のクラスに限定されていることだし見え透いているわ。大方、そのクラスメイトの子達を利用して、杏奈ちゃんに『負の念』を与えようとしているんでしょうね」
「……野咲さんを邪神メニーラ復活の生贄にするためでしたっけ? 最初に聞いた時は驚いたわ。まさか私のような
アゼイリアこと紗月先生が豊満な両胸を強調させながら両腕を組んでいる。
冒険者の姿とは異なる軽くウェーブが入った茶髪で癒し系のセクシー教師だ。
「サッちゃんは先生としての立場があるから無理しない方がいいんじゃないか? このご時世だ。ちょっとしたことで世間から難癖つけられるからな」
ガンさんは密かに想いを寄せる幼馴染を安否している。
一見して教師の立場で自由が利きそうだけど、特に他学年の生徒同士だと俺達生徒より深く入り込めない部分もあるか。
「まぁ、生徒間同士のことはマオトくん達が適任ね。けど担任の灘田先生に関しては私も探りを入れておくわ」
「教師同士だからウチらより、紗月先生の方が適任だねぇ。けど話を聞く限り、その『秋月 音羽』って子もレイヤに目をつけられたっぽいよねぇ……やっぱりマオッチに相談したことが原因かなぁ?」
香帆の問いに俺は首肯する。
「きっとそうだと思う。最初の渡瀬が描くシナリオでは、秋月を首謀者として杏奈を陥れる算段だったけど、肝心の秋月が強い意志を持って第三者の俺に全てを打ち明けてくれたおかげでその目論みが崩れたんだと思う……そんな親友思いの彼女に杏奈を虐める理由はないからな」
特に美桜の弟である俺に知られたことで、渡瀬の中では自然体として辻褄を合わせる予定が、秋月のファインプレーで思惑が狂ったに違いない。
そうなった原因も、俺が杏奈と親交を深めたことがきっかけだけどな。
渡瀬はその腹いせに彼女を孤立させようとしているのか……。
「今の段階だと、そのクラスメイトと無神経な担任をマークすることしかできないわね。おそらく持久戦を覚悟しなきゃならかいかも……けど、こちらにも強みはわるわ」
「姉ちゃん、強みって何?」
「――目には目を。ようやく『零課』が本腰を入れて動くのよ。明日になればわかるわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます