第71話 バフォメット戦
相手はレベル55の上級悪魔だし、明らかに格上の存在だ。
緊急避難的措置として逃げる選択もあったけど、俺は戦う意志を固めた。
それに【聖刻の盾】という看板を背負っている以上、知人パーティを見捨てることはできない。
俺の意向に仲間達は頷いてくれた。
特にヤッスは「あのナイスな生乳悪魔め! 必ずブッ飛ばす!」と息巻いている。
【
ヤッスは
《
したがって《闇の波動》スキルのデバフ効果で減少された
だがヤッスの場合、習得した《付与魔法》はまだLv.1なので、通常なら10%程度しか上昇できない。
しかし、この男のエグイところは、《速唱》を極めた無詠唱なので連続して魔法が放てるという妙技がある。
おまけに『
こうしてヤッスは全
「おおっ! 減少した
「……はぁはぁ、皆これで存分に戦えるだろう……僕は疲れたから、後方で少し鑑賞タイム」
再び『
でも「鑑賞タイム」って……やっぱりバフォメットの両生乳をここぞとばかり眺めるつもりだろうか?
相変わらずの変態紳士め……まぁ役割はしっかり果たしているので良しとするか。
「よし! ここは俺達【聖刻の盾】が戦う! コンパチさん達は錯乱した仲間を連れて逃げてくれ!」
「わ、わかった、マオト! お前さん達に任せるぞ!」
コンパチ達は了解し、錯乱状態の二人を強引にロープで縛り拘束する。
他の仲間達と共に、二人を引きずる形で早々に撤退して行った。
「……お人好しだな、ユッキ。ダンジョンじゃモンスターを他のパーティに押し付ける『
「ガンさん、びびってんのか? だったら一緒に逃げたっていいんだぞ?」
「ああ正直、失禁したいほどびびっている……だが仲間を見捨てるほど腐ってもいない」
ガンさんにしては珍しく腹を括ったようで、巨剣を構え前衛に立っている。
でも失禁したいだけあり、膝がガクぶるに震えているけどな。
「ギュオオオォォォォォ――ッ!!!」
鼓膜を突き刺すほどの咆哮。
バフォメットが立ちはだかる俺達に敵意を向けたのだ。
胡坐姿勢のまま、隆々とした両腕をゴムのように伸長させる。
指先の爪が鋼の如く強化され、俺達を斬り裂こうと迫ってきた。
《悪魔の爪》というスキルか。
物理的攻撃だけじゃなく、相手の
「やってやるぜ――《
俺は掌を翳しスキルを発動した。
魔法陣で構成された屈強の盾を大きく展開させ、正面から爪攻撃を完璧に防いだ。
《貫通》スキルでない限り、物理的攻撃では俺の盾で防げないモノはない。
「俺も行くぞぉ! 《
魔法陣の盾を掻い潜り、ガンさんは必殺の剣撃を放った。
破壊エネルギーが地面の岩々を砕き、バフォメットの露出された胸部にカウンターとして直撃する。
「ギャァアァァァオオオオオ!!!」
《貫通》を超える《穿通》効果を持つ強烈な一撃が浴びせられる。
バフォメットの肉体は袈裟斬り状に深く斬り裂かれた。
血飛沫と共に、上級
しかしレベル差と《攻撃半減》効果もあり致命傷には至らない。
《自己再生》スキルにより斬撃を受けた傷口が治癒されようと塞がっていく。
「せっかく王聡くんが見せたやる気、無駄にしないわ! 食らいなさい、『
後衛にいるアゼイリアが《アイテムボックス》から重火器を取り出した。
見た目はもろ現実世界のロケットランチャーだが、砲身フレームに『魔銃』同様の呪文語が刻まれており煌々と青い光輝を発している。
アゼイリアは狙いを定めトリガーを絞り、後方の噴出孔より反動を打ち消すため大量のガスが噴射された。
爆音と共にロケット型の砲弾が発射され、精密にバフォメットの胸部を捉える。
もろに直撃を受ける、バフォメット。
ガンさんの先制攻撃もあり防御する間も与えなかった。
爆風が上がり胸部が抉れている。かなりの大ダメージだ。
「ああ!? お乳様がぁぁぁ!!!?」
後ろに待機している、ヤッスの絶叫が聞こえてくる。
お前、どっち味方だよ……おっぱいなら何でもいいのか?
この男、やっぱ色々とやべーな。
「――美味しいところ頂いちゃうよん!」
気づけば香帆が
俺達が戦っているうちに、こっそりと後方へ移動していたのだ。
上級
「――《
香帆が振るう湾曲の刃が視界を覆うほどの眩い光輝に包まれた。
刹那、黒山羊の頭部のみ宙を舞っている。
それは光で視界を奪う同時に、灼熱を帯びた強烈な斬撃を与える技であった。
切断された頭部が炎に包まれて転がっている。
にしても恐ろしい技だ……瞬殺じゃないか。
そう思ったが――あれ?
「いかん! バフォメットは斬られていない! 今斬ったのは、奴のユニークスキルだ!」
ガンさんが叫ぶ。
彼が言った通り、バフォメットは健在であった。
代わりに、別の黒山羊らしき物体が地面に横たわっている。
首が胴体から切り離された炎に覆われた状態だった。
こ、これは……バフォメットのユニークスキル、《
「不味いわ、攻撃が跳ね返されてしまう! マオトくん、急いで香帆ちゃんを守らないと――」
「いえ、まだ動くのは早計ですぞ、クィーン! 肝心の『白山羊』がおりません!」
アゼイリアの言葉を遮り、ヤッスが《看破》スキルで見破る。
確か、どちらかの山羊が受けたダメージを別の山羊が跳ね返す能力だ。
したがって、『黒山羊』が受けたダメージを『白山羊』が跳ね返すことになる。
だが攻撃した香帆の近くに『白山羊』はいない。
「――うぐぅ!?」
突如、ガンさんが喉を鳴らした。
いつの間にか『白山羊』が彼の隣に立っていたからだ。
そうか! 場所とタイミングは任意で発動できるんだった!
バフォメットは跳ね返す的を香帆ではなく、ガンさんに絞ったということ。
香帆の推定レベル60以上から繰り出される必殺の一撃。
レベル31のガンさんが食らってしまったらオーバーキルだってあり得る。
ならば――!
「【聖刻の盾】屈指の
俺は腕を伸ばしユニークスキルを発動する。
自分の周辺だけじゃなく、視界内であれば離れた場所だろうと
ガンさんと『白山羊』の間に割り込む形で出現した、《
同時に『白山羊』の口が大きく開かれ、口腔内からカッと閃光が放射された。
それは猛烈な熱量を帯びた飛燕の刃。
香帆の必殺技である《
飛燕の刃は《
まったく容赦のない威力……いやそれだけじゃない。
《
だが俺は動じることない。
既に勝利への方程式を見出していたからだ。
「――《パワーゲージ》発動ッ! もらったァ、カウンター返しだ!」
発動した《パワーゲージ》効果により、《
俺は《
そのカンター攻撃には、先程防いだ《悪魔の爪》も含まれている。
バフォメットも自らの魔力で強化した以上の質量を持つ破壊エネルギーだ。
「グギャ!? ギャァァァ……ァァ……!」
直撃を食らった、バフォメットの肉体は一瞬で崩壊した。
これこそがオーバーキルと言わんばかりに。
バフォメットの消滅後、カッンと甲高い音を立て何かが地面に転がっている。
黒曜石に似た『
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