第65話 速攻詠唱使い《ヘイスト・アリア》
「真乙くん、コーヒー淹れてきたよ……って、叔母さん何をしているの?」
「何って、初めて家に連れて来たボーイフレンドに色々聞いているのよ。ねぇ、真乙くん?」
「ええ、まぁ……初めて来たって、秋月とか来たことないのかい?」
「音羽はあるよ。他の子はないわ、ましては男子なんて……真乙くんだけだよ」
テーブルの上にコーヒーを置き恥ずかしそうに答える、杏奈。
俺から目を反らし、ほんのりと頬を染めている。
その初心な表情に胸が絞られてしまう。
幼馴染の渡瀬ですらないのか……杏奈はそれだけ俺のことを信頼してくれている。そう思っていいのかな?
これまで「幼馴染」って言葉に壁を感じて翻弄され引け目を感じていたけど、今は 自信を持って杏奈の傍にいていいんだ。
いや傍にいたい、ずっとそう願っていたのだから。
杏奈のことをより知ることで、願望だったことが現実味を帯びてきた。
あとは俺自身、さらなるレベルアップを目指して行こう。
口先だけじゃなく、実際に大好きな子を守れる強さを得るためにも――。
それから三人で会話を弾ませ、楽しいひと時を過ごしていく。
数日後、ゴールデンウィークが到来する。
親父も出張から帰省したこともあり、久しぶりに家族で旅行に行こうかという話もあったが、俺と美桜はヤッスを泊めていることもあったので自宅で過ごすことにした。
結局のところ、妹の清花と両親の三人で温泉宿に泊まりに行っている。
「姉ちゃんは温泉に行かなくて良かったのか? ヤッスのことなら、俺だけで十分だぞ。ガンさんも来てくれるし」
「正直、興味はあったけどね。でも連休中は香帆も泊りたいと言うから、そっちを優先したわ」
美桜もなんだかんだ、香帆のことを大切に思っている。
だから大抵一緒にいることが多い。
ループ前の未来でも親密の間柄だったらしく、社会人となってから共に上京して一緒に暮らしていたようだ。
あの時代、俺と香帆は接点がなく出会うきっかけがなかったことや、美桜も現在のように家へ招くこともなかったので初めて知った。
確かに二人は、異世界で互いに背中を預け合うほどの信頼関係があったことは聞いている。
だから帰還後も仲が良いのは当然だと思う。
でも時折、香帆から冗談っぽく「愛している」という台詞が聞かれていたりするし、まさか本当に付き合っているのかと邪推してしまう部分もあったりする。
それに美桜の方も、その凛とした美貌から男女問わず相当モテているにもかかわらず根っからの男嫌いだ。
一方の香帆も今時の金髪ギャル風で、あれだけイケている美少女なのに、彼氏は疎か男友達の気配すら皆無であった。
やっぱり百合なのだろうか?
……いや、たとえそうだとしても二人が幸せなら別にいいじゃないか。
俺がどうこう思うのは野暮だし、寧ろ弟として応援しよう。
「美桜ぉ、泊りにきたよ~ん! マオッチもよろ~」
連休の初日、香帆が家に訪れた。
ヤンキー系のギャルっぽいカッコ可愛い私服姿。華奢な肩にはお泊り用のボストンバックが担がれている。
「いらっしゃい、香帆」
「どうも香帆さん、ゆっくりしていってね」
「あんがと、マオッチ。ところでヤッスゥはぁ?」
「ああ、俺の部屋でステータスを更新している最中だよ――ようやく『レベル10』になったからね。いよいよさ」
「そっだねぇ。エリュシオンでギルド登録だねぇ。もうじき先生とイワッチが迎えに来るよぉ」
会話した通り、ヤッスはレベル10となった。
俺は「ようやく」と言ったが、実際は眷属となってから僅か3週間程度で成し遂げているので驚異的なスピードだと言える。
この俺でさえ夏休みいっぱい費やしたってのに……そう考えれば複雑な心境もなくもない。
無論、俺達が全面的にフォローした成果と、ヤッス自身も遥かに格上のモンスターや
「これは香帆様、おはようございます」
更新を終えたヤッスが階段から降りて居間へと入ってくる
以前と違い、軽快な動きですっかり自由の身となっていた。
ちなみに美桜の指示で《
「おは~、ヤッスゥ。レベル10になった感想は? ステータス見ていい?」
「ええ、香帆様。同じパーティ仲間なので、どうぞご覧ください。これで僕も冒険者としてデビューできます。まさに万感の思いですぞ」
本人から許可を得たので、俺も《鑑定眼》でステータスを見てみることにした。
どれどれ……。
【安永 司】
職業:なし
レベル10
HP(体力):73/73
MP(魔力):135/135
ATK(攻撃力):21
VIT(防御力):20
AGI(敏捷力):24
DEX(命中力):30
INT(知力):225
CHA(魅力):26
SBP:0
スキル
《速唱Lv.10》《看破Lv.9》《鑑定眼Lv.7》《棍棒術Lv.3》《不屈の精神Lv.6》《二重魔法Lv.1》
魔法習得
《初級炎属性魔法Lv.7》
《初級水属性魔法Lv.7》
《初級風属性魔法Lv.7》
《初級土属性魔法Lv.7》
《付与魔法Lv.1》
称号:
ヤッスも得意分野に極振りする傾向があり、獲得したSBPの大半を
さらに称号である『
まだ初級魔法しか覚えてないようだが、威力だけなら中級者の域に達していると思う。
ん? よく見たら《付与魔法Lv.1》を覚えているぞ。
確か対象とする者の身体強化や武装と防具類の強化など、俗に言う「バフ」効果を与える魔法だと聞く。
さらに新しく習得した《二重魔法Lv.1》は、2種類の魔法を同時に発動できるという技能スキルだ。
なんでも短期間でレベルと
その効果として先に完成させた魔法を魔法陣にストックさせ、後に完成させる魔法と合一して放つか、または連続魔法あるいは二重の効力を行使することができるというものである。
スキルのレベル値が高いほど《二重魔法》の成功率が高くなり、仮に失敗した際は先に完成させた魔法のみ発動され、また
そして初めて獲得したまともな称号こと『
補正がついているレアな称号なので、今後は更新されてもステータス欄に残ることだろう。
最後の『
あえて言わせてもらえば「お前は、おっぱいの何を指導するんだよ!?」っと、ツッコんでやりたいけどな。
「……マオッチと同様、ヤッスも順応しやすい体質とはいえ、短期間でここまでになると脅威でしかないねぇ。味方じゃなかったら今のうちに潰しておくタイプだわ~」
ステータスを閲覧した香帆が、真面目な顔して何やら物騒なことを口走っている。
高レベルの
「今のヤッスくんのステータスなら、文句なしにギルド登録できるわね」
「これも全てマスターのおかげです。この安永、心から感謝しておりますぞ」
「そっ、私も頑張った甲斐はあったわ。これからも応援するから精進するのよ」
いや姉ちゃんは、ほとんど何もしてねーじゃん。
ヤッスよ、言っとくがお前の日常的なフォローの全般は、もっぱら俺とガンさんが担っていたからな。
……まぁ、ヤッスだから別にいいんだけど。
しかし、こんな変態紳士でも即戦力には違いない。
これで俺達【聖刻の盾】も『
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