第61話 冒険者の中間地点

 翌日。

 黄昏高校に行くため、ガンさんが迎えに来てくれた。

 まだろくに動けないヤッスを抱え、三人で通学する。


「ヤッス、まだ動けないのか?」


「ああユッキ……無理だね。こうして吐き気もなく普通に喋れるようになったけど、体の方は相変わらずさ。獲得したSBPを知力INTをメインに割振ってしまったからだろう。極フリまではしなかったけど……」


 そんなヤッスは昨日の戦闘でレベル5からレベル8に上がっている。

 朝、《鑑定眼》でステータスを覗いてみたら、こんな感じになっていた。



【安永 司】

職業:なし

レベル8

HP(体力):53/53

MP(魔力):105/105


ATK(攻撃力):15

VIT(防御力):14

AGI(敏捷力):17

DEX(命中力):20

INT(知力):180

CHA(魅力):20


SBP:0


スキル

《速唱Lv.8》《看破Lv.7》《鑑定眼Lv.5》《棍棒術Lv.2》《不屈の精神Lv.4》


魔法習得

《初級炎属性魔法Lv.5》

《初級水属性魔法Lv.5》

《初級風属性魔法Lv.5》

《初級土属性魔法Lv.5》


称号:おっぱい監視者バスト・オブサーバー



 本人の説明した通り、知力INTが三桁となっている。

 さらぶ《速唱Lv.8》の補正で+80だから、知力INTは実質260だろう。

 魔力切れを起こして気を失いながらも、高レベルである悪魔デーモンスライム1匹を斃した功績もあり、経験値と言えるSBPに更なるボーナスポイントが付いた形だ。

 さらにスキルや魔法レベルと共に大幅な向上が見られている。

 姉の美桜曰く「デビュー前の魔法士ソーサラーでは、まずあり得ないステータスだわ」と言っていた。


 あとはレベル10に上がるよう頑張れば、ギルドで冒険者登録ができ職業欄で『魔法士』と記載され、ようやく一緒に『奈落アビス』ダンジョンに探索できるようになる。

 変態紳士なのはたまに傷だが、ヤッスなら即戦力になりそうだ。


 ところで「おっぱい監視者バスト・オブサーバー」って称号は何よ?

 ついに審判から監視する側になったのか……意味わからんけど。


 そして俺も今回の戦闘でレベル25と大幅なレベリングに成功を果たしている。

 


【幸城 真乙】

職業:盾役タンク

レベル:25

HP(体力):205 /205

MP(魔力):150/150


ATK(攻撃力):370

VIT(防御力):1050

AGI(敏捷力):110

DEX(命中力):130

INT(知力): 110

CHA(魅力):30


SBP: 0


スキル

《鉄壁Lv.10》《鑑定眼Lv.8》《不屈の闘志Lv.10》《毒耐性Lv.7》《剣術Lv.7》《盾術Lv.10》《隠蔽Lv.8》《不屈の精神Lv.7》《シールドアタックLv.10》《狡猾Lv.6》《統率Lv.7》《隠密Lv.3》《索敵Lv.5》

《アイテムボックス》


魔法習得

火炎球ファイアボールLv.10》

加熱強化ヒートアップLv.8》

点火加速イグナイトアクセルLv.6》

火炎壁ファイアーウォールLv.3》


ユニークスキル

無双の盾イージス


特殊スキル

《パワーゲージLv.1》


称号:鋼鉄の無盾持ちフルメタル・ノー・エスクワイア:VIT補正+50

猪突猛進レックスラッシュ精神的マインド補正有


※特殊スキルはユニークスキルと連動する必殺技スキルである。



 ついに防御力VITが目標だった四桁になった。

俺も高レベルである悪魔デーモンスライム2匹に魔改造ワーム1匹を斃した経験値で大幅なSBP獲得に成功したからだ。

 さらに《鉄壁Lv.10》とレベルがカンストし、装備やその他補正も相俟って物理攻撃では無敵に近い能力値アビリティになる。

 (全装備+150、称号補正+50、《鉄壁》スキル×10補正で、計防御力VIT値:10700)


 またユニークスキルの必殺技スキルとして《パワーゲージ》を習得し、貫通攻撃を受けても1日1回であれば吸収して弾き返すことが可能となる。

 他の技能スキルから魔法レベルまで向上しているし、今の状態なら盾役タンクとして『奈落アビス』ダンジョンの「中界層」も問題なく戦えるだろうし、パーティの仲間達がいれば「下界層」もチャレンジできそうだ。


「ユッキも脅威的にレベルを上げているよな……1年間の差があるとはいえ、僕は未だギルド登録できない初心者以下だ。いつになったら一緒に並び立つことができるのやら」


 ヤッスにしては珍しく羨望を抱き焦りも見せている。

 まぁ俺の場合体質なのか、普通の冒険者よりSBPの獲得数値が大きいらしいからな。

 防御力VITだけなら、間違いなく上位クラスの冒険者に匹敵するだろう。


「しかし、ヤッスだって凄いと思うぞ。何せレベル6で冒険者にもなってない奴が、レベル35のモンスターを斃したんだからな。勇者の姉ちゃんですら、『いくらモンスターの弱点を突いたからって信じられない快挙よ。ヤッス君、凄いわぁ。お姉ちゃん、期待しちゃう』って驚き感心していたくらいだぜ」


「マスターが? ユッキ、何故その時の台詞を録音してくれなかったんだ!? お前という男はぁ!」


 はぁ? 俺、フォローしたのに怒られてるぅ!? どうして!?

 んなのいちいち録音できるかっての! 変態紳士がぁ、テメェでやれよな!


 俺は「チッ!」と舌打ちすると、ガンさんは「まぁまぁ」と年上の大人らしく宥めてくる。


「ユッキと美桜さんが言うように、ヤッスもこれからまだまだ伸びるよ。あとはもう少し攻撃力ATK防御力VITを上げれば、今まで通りの日常生活を送ることができるようになるさ。きっとGW明けにはギルドが登録できる筈だ。その時には、俺も一緒に登録するよ」


 ガンさんは軽々とヤッスを背負いながら柔らかく微笑んでいる。

 彼はあれからレベル30からレベル31と、あまり向上が見られていない。


 以前の中ダンジョン探索では、遥かに格上であるグレートゴブリンを単独で斃しているし、おまけにゴブリンの大半を討伐している。

 普段なら「なんで俺だけレベルが上がらないんだよぉ……」とショックで精神を病んでしまう男が、意外にあっさりとした口調で割り切っている態度が気になった。


「ガンさん、失礼なこと聞いていい?」


「なんだよ、ユッキ? あまりイジったりディスたりしないでくれよ。ヘコんで学校行きたくなくなるからな」


「うん、大丈夫だよ……それより、前に探索した中ダンジョンじゃ結構モンスター斃したよね? その割にはあまりレベルが上がってないように思えるんだけど……何か理由とかあるの?」


「なんだそんなことか。《異能狂化の仮面ベルセルクマスク》を使用した状態で、いくらモンスターを斃しても大した経験値にはならないんだ。そういう弱点というか……縛りみたいなものがあるんだよ」


 なるほど、狂戦士化バーサークするとレベルが上がりにくくなるのか。

 攻撃力ATKを中心に能力数値アビリティがレベル30も増強化ブースト化するユニークスキル……ある意味、チートっぽいからな。


「それにユッキ。異世界の冒険者だって、レベル25くらいからレベルの上昇が難しくなる傾向がある。冒険者の間で『停滞期』と呼ばれている現象だ」


 停滞期? ダイエットとかでよく聞く単語だ。

 なんでもギルドに登録する冒険者は、レベル30以上からエリート扱いになるらしい。


「そういや、ベテラン冒険者であるコンパチさんは俺と同じレベル25のままだな?」


「大半の冒険者達はそうだ。“帰還者”も同様さ。だからギルドでも、レベル30に到達する冒険者は皆から一目置かれているんだよ」


 なるほど、前に俺を犯罪に利用しようとした『名倉 大介』はレベル34の盗賊シーフだった。

 だから初心者同然の俺に対して自信満々にイキってたのか……結局、完膚なきまで叩き潰してやったけどな。


 ならレベル60以上ある美桜や紗月先生アゼイリア、それに疑惑のある香帆あたりは超々エリートってことか?

 そりゃ姉ちゃんもギルドで優遇され、通り過ぎる度にざわつかれるわけだ。


 要するにだ。

 俺は今、冒険者として中間地点に立たされている――。

 そこから英雄として名を馳せるか、平凡な冒険者として留まるかが別れるのだと思う。


 俺としては断然、前者だ。

 ここまで頑張って来たんだから、思いっきり高みを目指す!

 次の目標は、防御力VIT能力値アビリティの五桁だ!



 教室に入るとクラス内が異様な雰囲気に包まれていた。

 このような会話が飛び交っている。


「――おい、聞いたか? 渡瀬、学校辞めたってよぉ!」


「うん、なんでも同居しているお爺さんが倒れたっていう話だよぉ」


「学費が払えなくなったとか? 大人しい奴だけどそんな困った感じには見えない、リア充そうな感じだったのに……」


 渡瀬が学校を辞めたのか?

 正直、「だろうな」と思った。


 あれだけオープンに事を荒立てたんだ。

 それに自分から「しばらく身を隠す」と言ってたしな……。

 けど辞めるにしても、どうやって手続きしたんだ?


 やはり奴は伊能市のどこかに潜伏しているのか?

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