第57話 魔改造ワーム戦

「――何か来るッ!?」


 そう思った瞬間、大口を開けた男顔の人面ワームから高出力の魔力エネルギーが放射された。

 しかし展開された《無双の盾イージス》によって完璧に防ぎ、魔力エネルギーは四散され飛び散って消滅する。


 だが刹那――俺の体に衝撃が走った。


 外傷はないのに、体力値HPだけ致命的に削られていく感覚。

 これは……《貫通》性を持つ攻撃、必殺の一撃クリティカルヒット!?


「ぐぉおぉぉぉ、《不屈の闘志》発動!」


 スキル効果で辛うじて残り「HP:1」で耐え抜いた。

 ちなみに現在は《不屈の闘志Lv.10》とカンストしているので、100%の確率で生き残ることができる。


 しかしピンチには変わりない。

 もう1匹の女顔をした人面ワームが今と同じ攻撃を繰り出そうと大口を開けていたからだ。

 また《貫通》攻撃を受けてしまうと次こそ終わる。


 クソッ! 『HP回復薬エリクサー』で回復したいが、もう間に合わない。

 おまけに無傷な割には、残り体力値HP:1だから立っていることさえ限界ときている。


 絶対絶命と思った――その時だ。


「わたくしの真乙様はやらせませんわ!」


 背後からフレイアの声が木霊する。

 瞬間、ぞわっとするほどの冷気を感じた。


【――凍てつく氷晶、汝らは偉大なる精霊にて必中の射手なり、我が盟約に従い氷の槍と化し反する者を穿てぇ《氷柱突貫アイシクルラッシュ》ッ!!!】


 チラッと後方を振り向くと、フレイアがレイピアを抜き詠唱を唱えていた。

 翳された鋭利な切先から、氷結晶に模した透明色の魔法陣が出現し大きく拡張される。

 すると魔法陣から複数の氷柱がミサイルの如く連続発射された。


 俺は瞬時に《無双の盾イージス》を解除し、その場で項垂れる形でしゃがみ込む。

 氷柱群は攻撃を放とうとした人面ワームの顔面と体に突き刺さり、大ダメージを与え仰け反らせた。

 損傷した部位から紫色した大量の血飛沫が上がり、顔面は形を成さないほどズタズタに引き裂かれている。


 恐ろしい破壊力であり明らかに致命傷の筈だが、人面ワームはまだ生きていた。

 破損した部位が泡立ちながら増殖し復元されている。

 まさか再生能力を持っているのか?


「《不屈の闘志》ですわね。それに《自己再生》スキルもありますの……魔改造されたとはいえ、ワームとは思えない戦闘力……これが《悪魔改造融合デモン・フュージョン》されたモンスター、非常に厄介ですわ」


「真乙、大丈夫? 危なかったわね……お姉ちゃん、ヒヤッとしたわ」


 美桜が駆け寄り、自分の《アイテムボックス》から『HP回復薬エリクサー』を取り出して、俺の頭上から流し液体を浴びせてきた。

 高級な回復薬ポーションだと、飲まなくても液体を直接掛けることで傷が完治し体力が回復する。


 相当上質なHP回復薬エリクサーだったのか、おかげで俺の体力値HPは全回復した。


「ありがとう、姉ちゃん。俺ならもう大丈夫だ」


 俺は立ち上がり戦況を確認する。


 男顔の人面ワームは香帆とメルが相手をして戦っていた。

 二人共苦戦こそはしてないが、思わぬ強敵に戸惑っているように見える。


「フレイアじゃないけど厄介なモンスターよ。人間と融合しているだけあり、ワームとは思えないほど沢山のスキルを習得している。ユニークスキルもね」


「なんだって!?」


 俺は眉を顰め、人面ワームに向けて《鑑定眼》を発動させた。



【魔改造ワーム】

レベル45

HP(体力):405/405

MP(魔力):130/130


ATK(攻撃力):500

VIT(防御力):480

AGI(敏捷力):200

DEX(命中力):200

INT(知力):10


スキル

《虐待Lv.8》……スキルレベル上昇と共に敵の防御力VIT知力INTを-10ダウンさせる。

《咆哮Lv.6》……奇声を発することで60%の確率で相手を錯乱状態にする。

《逮捕歴Lv.9》……スキルレベル上昇と共に精神力=魔力MPが系+90補正。

《ボディアタックLv.10》……体当たり攻撃。ヒットする度にダメージ率+30補正。

《自己再生Lv.9》……損傷した体の部位を再生することが可能。

《不屈の闘志Lv.10》……体力HPが「0」になる致命的な攻撃を受けた時に100%の確率で「HP:1」で耐えることができる。


魔法習得

蠕虫糸ワームネットLv.10》……粘着糸を吐き敵に巻きつかせ拘束する。

毒液嘔吐ポイズンボミットLv.8》……毒液を吐き「毒状態」にする。

溶解液攻撃ソリューションLv.6》……溶解液を吐き敵の装備や肉体を溶していく。また体液から同様の効果を発揮する。


ユニークスキル

悪逆無動の爆風砲アトゥロシティー・ブラストLv.10》


〔能力内容〕

・敵に対して高出の魔力を浴びせる。近距離から遠隔距離攻撃が可能。

・通常攻撃600ダメージを与え、貫通攻撃で+300ダメージを与える。

・レベルが上がる共に貫通の成功率が上昇する。

〔弱点〕

・使用する度、必ず魔力MP100を消費する。



 な、なんじゃこりゃぁぁぁ!?

 ガチでとんでもないモンスターじゃないか!?


 《咆哮》ってあれだろ? ドラゴンとかが持つスキルじゃね?

 人間版の《恐喝》を進化させたスキルの筈だ。


 そして美桜が言うように人間と融合させたことで、その者が習得していたスキルが引き継がれている。

 《虐待》に《逮捕歴》って……渡瀬の両親ってガチで酷いな。

 そりゃ息子の精神も歪むわ。


 最も危険なのはユニークスキル、《悪逆無動の爆風砲アトゥロシティー・ブラストLv.10》だ。

どうやら俺が死にかけたのはこのスキルの効力らしい。

 貫通で300ダメージ……完璧に俺の体力値HPを超えている。

 《不屈の闘志》がなければ即死だったわけだ。


 強力な魔法(モンスターの場合、魔力が宿された生体機能とも言える)といい、どれも高レベルに鍛えられている。

 これが調教師テイマーに育成されたモンスターの強さなのか。


「もうじき女顔のワームも《自己再生》で復活するわ。フレイアが牽制してくれているうちにお姉ちゃんが斃すから、真乙は香帆達を加勢して頂戴」


「わかったよ……けど《貫通》の前じゃ、《無双の盾イージス》でも完全に防ぎきれない。俺はまだなんとかなりそうだけど、特にメルって子は《不屈の闘志》とか習得しているのか?」


「あの小人妖精族リトルフの子? 盗賊シーフだから無いわね。おまけに職種上防御力VITが低いから、魅了系による抵抗力レジストも低い筈よ。香帆は技能スキルこそ習得しているけど、レベルは高くない方だし抵抗力レジストに関してはメルと似たようなものね」


 つまるところ、香帆とメルではあの人面ワームと相性が悪いようだ。

 戦闘力のレベルでは二人の方が高そうだけど、決めて手に欠けるといったところだろうか?

 

 香帆は『死神大鎌デスサイズ』を出現させて巧みに振り回しては、人面ワームの口から粘着糸を斬って毒液を弾き飛ばしている。

 メルはその隙に素早い身のこなしで死角に入り、短剣ダガーでグロテスクな肉体に斬撃を与えていた。

 しかし下手な物理的攻撃では、傷口か吹き出す血液に触れただけでも《溶解液攻撃ソリューションの効果により武器類が溶かされてしまう。


「接近戦は危険なのです!」


 メルは溶け始めた短剣ダガーを捨て、バックステップで距離を置く。

 《アイテムボックス》から予備の短剣ダガーを取り出し追撃に備えた。


 どうやら、フレイアのような遠隔攻撃が有効な相手のようだ。

 暗殺者アサシンの香帆はよくわからないけど、戦闘に特化してない盗賊シーフのメルはそういったスキルや魔法は持ってなさそうに見える。


 俺なら炎系の攻撃魔法でなんとかなるか……けど。


「――真乙。貴方、新しいスキルを身に着けているわよ」


「新しいスキルだって?」


 美桜に言われ、俺は自分のステータスを確認する。

 確かに技能スキル欄に表記されてあった。


 ――《パワーゲージLv.1》。


「これはカウンター用のスキル……しかも俺が求める強力な効果を持っている」


「きっと職種とユニークスキルに付随する追加型スキルね。真乙がこれまで死ぬ思いで頑張った成果よ。それを次に《貫通》攻撃を受けたら使ってみるといいわ」


「わかった!」


 そう俺が行動に移そうと踏みだした時。



 ギオォォォオォォォォ――――!!!



 男顔の人面ワームが咆哮を上げた。

 けたたましく吠え猛り一帯に反響していく。

 明らかに魔力が込められており、魂さえも揺さぶれてしまう。


「ぐぅっ、うっさいなぁ!」


「ひぃぐぅ――キャァァァァァァァ!」


 対峙する香帆は長く尖ったエルフ耳を両腕で押さえ、なんとか耐え忍ぶことができた。


 一方のメルは可愛らしい顔を歪め発狂した悲鳴を上げている。

 握りしめた短剣ダガーの刃を味方である筈の香帆に向けると、そのまま我を失ったかのように襲い掛かった。

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