第53話 語られし真実と真相

「わたくしとメルは、この《導きの探索者ダウジングシーカー》の糸を辿って、レイヤの追跡をいたします。発見次第、『零課』のゼファーに報告するつもりですが、場合によっては戦うことになるでしょう。ミオさん達はどうなさいます?」


 由莉亜の問いに、美桜の表情が変わる。

 キッと双眸が吊り上がり、切れ長の瞳は攻撃色に染まった。


「ついて行くに決まっているじゃない――ようやく真犯人・ ・ ・を見つけたんだから。それに弟を陥れたけじめはつけさせてもらうわ!」


「姉ちゃん……真犯人ってどういう意味だ? それに俺を陥れたって……渡瀬は今回の襲撃以外でも、俺に何かやらかしていたってのか?」


「それは……ここでは話せないわ。ただ言えることは、これでようやくお姉ちゃんと真乙も、しがらみから解放されるってことよ」


 美桜の口振りだと、俺達の『タイムリープ』についてのことで違いない。

 けど姉はセカンドライフを楽しむため、15年ごとに過去の時代に遡及していたんだよな?

 実は他に目的があったのか?


 俺も含まれているってことは、別の時代で渡瀬に陥れられるような因縁があったというのか?

 だから一緒にタイムリープしてやり直すよう誘った。

 そういうことなのか?


 俺が戸惑う中、香帆が間に入ってきた。


「美桜さぁ。あたしはフレイア達と先に行っているから、マオッチと姉弟同士で話があるならここですればいいんじゃない? ヤッスと岩ッチはどうすんの?」


「僕ですか……香帆様が行くのであればついて参りましょう。生憎、体はこの有様ですが魔法は使えますので微力ながら戦力にはなりましょう、はい」


「ヤッスが行くなら俺も行く……本当は怖くて足の震えが止まらないけどな。いざって時は《異能狂化の仮面ベルセルクマスク》を使う……香帆さんがいれば暴走するまえに正気に戻れるだろう」


 ガンさんが言った通り、筋骨たくましい両足が生まれたての小鹿並みにガクガクと震えている。まったく筋肉の無駄遣いだと思った。


「んじゃ決まりだね~。スマホで場所教えるから、二人とも話が終ったら来てよねぇ」


「ありがとう、香帆」


「ごめん……必ず駆けつけるよ」


 香帆は頷き「じゃまたね~」と明るく手を振りながら、ヤッスとガンさんを連れて由莉亜達の後へとついて行く。

 相変わらず緊張感のなさそうで軽い振る舞いだが、彼女なりに配慮してくれたようだ。


 おかげで、美桜と二人きりになることができた。


「……姉ちゃん、正直に話してくれ。いったい何を隠している? 遡及する以前の時代、どうして俺にタイムリープすることを進めたんだ?」


「真犯人を炙り出すためよ……杏奈ちゃんを消した犯人のね」


「消した? クリスマス・イブの日、杏奈が失踪することに関してか!?」


「そっ。真乙も気づいているでしょ? 犯人は『渡瀬 玲矢』で間違いないわ……不本意なやり方だったけど、ようやく見つけることができたわ」


「不本意なやり方? 俺をタイムリープさせたことか?」


「それだけじゃない……お姉ちゃんの眷属として、真乙に異世界の力を与えたことよ」


「俺が異世界の力を得ると、何か都合が悪いのか?」


「前に話したわよね? 本来ならお姉ちゃんじゃなく真乙が異世界に召喚される筈だったと。元々、真乙にはお姉ちゃん以上に才能があったってことよ。それは、これまで獲得してきたSBPで証明されているでしょ?」


「ああ、確かに。ヤッスと比べても、俺は規格外だと思っているよ」


「まぁ、ヤッスくんも実際は凄い方なんだけど……理由は前に言った通り厨二病が故の適応力ね」


「それでその事と何が関係しているんだ?」


「強い力を持つということは、それだけトラブルに巻き込まれやすいってことよ。特に“帰還者”絡みの……身に覚えあるでしょ?」


「ああ、ある。確かに……」


「それに異世界の力を得るということは、二度と平穏な世界には戻れない。だからタイムリープする前に覚悟を聞いたのよ」


「けど、それは俺が望んだことだ。姉ちゃんが気にすることないだろ?」


「気にするわよ、だって真乙はお姉ちゃんにとって大切な弟なんだから……」


 そこは一切ブレてない、過保護すぎるほど弟思いの溺愛ぶり。

 つーか、そろそろ弟離れをしてほしいんだけど……まぁ無理か。


 美桜は話を続ける。


「あとね。これは『零課』のゼファーから得た情報だけど、また異世界で何やら問題が起きつつあるらしいわ」


「魔王が現れる災厄周期シーズン発生のことか?」


「それは神々の思惑で種族達を間引くためのゲームであり恒例行事イベントだからね……少し事情が異なるわ」


「事情が異なるって何だよ?」


「嘗ての『魔王戦争』と同じ現象、邪神メネーラが再降臨しようとする動きが見られているそうよ」


「メネーラってあれか? 暗黒の女神で、姉ちゃん達『七大聖勇者』が命懸けで斃した奴だよね?」


「お姉ちゃん達が斃したのは、メネーラが降臨する際に受肉・ ・した仮の肉体よ。基本、神は殺せないし死なないわ。本来なら神界から地上に間接的な干渉はできないのだけど、メネーラは転生者あるいは転移者を通じて、受肉する『生贄』を通して地上で神の力を振るうことができるの……魔王を遥かに凌ぐ邪神としてね」


「転生者と転移者を通じてって……ひょっとして」


「そうよ。闇の勇者レイヤこと『渡瀬 玲矢』が絡んでいるわ。きっとレイヤが現実世界に帰還したのも、メネーラを地上に復活させるための『生贄』を探すためでしょうね」


 美桜の話では、以前の邪神メネーラが受肉を果たした時も、魔王と称する闇堕ちした転生者が現実世界から「生贄」となる肉体を異世界へ連れてきたそうだ。


 おいおい、待てよ……生贄ってまさか。


「――杏奈のことか? 渡瀬は彼女を生贄として捧げ、邪神メネーラの復活を目論んでいる?」


「可能性は十分にあるわ……けど、お姉ちゃんがタイムリープしてきた時代の中でも、同時期にメネーラは異世界で再降臨しているけど、杏奈ちゃんが『生贄』になったのは二度だけよ」


 美桜の話を聞く限り再降臨したメネーラは異世界に災いをもたらせるも、その時代の勇者や冒険者達が互いに力を合わせ、いずれも討伐に成功しているらしい。

 それを聞いてホッとする反面、ある疑問も残る。


「二度? 姉ちゃんってこれまでタイムリープを何周しているんだ?」


「今回で五回目よ。それにレイヤが犯人だとわかったことで、杏奈ちゃんが生贄にされる、ある法則も発見したわ」


「ある法則? 何それ?」


「――杏奈ちゃんが真乙に好意を持った時代よ。お姉ちゃんの力添えで、貴方達二人は両想いとなり二度ほど付き合った時代があったわ」


「マ、マジで!?」


 美桜の説明によると、今回のような異世界の力を与えず、俺を痩せさせて告白して付き合うことになったのが一回目。

 激太りしたままの状態でも、美桜が煽りまくり半ば強引に告白させて付き合うことになったのが二回目。

 だそうだ。


「お姉ちゃんだって、真乙が以前から杏奈ちゃんに好意を持っていたことは知ってたわ……それでも大切な弟を託す上で、色々と彼女を試したってわけ。杏奈ちゃん、本当にいい子よ……見た目や周囲の評価や価値観は関係なく、自分の判断や感性で男子の内面や本質を見抜くタイプね。だから応援することにしたのよ」


「そうか……やっぱりそういう子だったんだな。つまり俺と付き合っていた時代だけ、杏奈は生贄にされていた……それで姉ちゃんはタイムリープを繰り返す中で、渡瀬が犯人だと絞るに至ったってわけか?」


「ええ、けど確証には至らなかった。知っての通り、レイヤは女神アイリスを欺くほど《隠蔽》スキルがカンストしているみたいね。中学の頃、荒れた時期も異世界から帰還したばかりで環境に馴染めない、よくある話でもあったから表立って罪を犯さない限り『零課』が動くこともなかったわ。お姉ちゃんもそこまで干渉するわけにはいかなったのよ」


 美桜も自分がタイムリープできることを周囲に伏せている。

 15年ごとのルールといい、きっとその能力に何かしらの決まり事があるのだろう。

 

「じゃあ、どうして今回は俺をタイムリープするかを誘ったんだ? 異世界の力を与えてまで……」


「最初に言ったでしょ? レイヤを炙り出すためだって。高校時代の真乙だと気持ちが優しすぎて誰かと戦うことなんて無理でしょ? あの手のタイプに対抗するには、大人としてのズルさも必要だわ」


 美桜の言う通りかもしれない。

 高校生のままだと、中学時代のトラウマもあって物事に悲観的で消極的だったからな。

 30歳の記憶と精神を持つ今だと、《狡猾Lv.5》で心理戦もその辺の奴らには負けない。

 現に、杏奈とのデートでも渡瀬の包囲網を見抜き回避した実績もある。


「そして真乙も異世界の力を身に着けさせることで、杏奈ちゃんを守らせる思惑もあったのよ。おかげでレイヤも真乙に触発されて脅威を覚えたのか、こうして表舞台に引きずり出すことに成功したわ。フレイアもいい仕事してくれたしね、フフフ」


「もしかして、由莉亜さんを巻き込ませたのって……」


「そっ、お姉ちゃんよ。『キカンシャ・フォーラム』を通して、フレイヤと仲の良い香帆に頼んで煽らせたってわけ。彼女の情報収集能力は異世界随一だったからね」


「そういうことか……わざと事態を大事にして『零課』を動かそうとしているのか? 渡瀬を完全に追い詰めるために?」


「ええ、全ては真乙のためよ。四度の失敗は伊達じゃないわ……タイムリープを繰り返す中で、特殊公安警察に入ったのも『零課』がどこまでの組織で機能しているのか実態を知るためだったわ。また弁護士になったのも法を詳しく知る必要があったからよ。今のところ、お姉ちゃんの想定内で事が動いているわ」


 狡猾な笑みを浮かべる、美桜。

 俺を幸せにするため、15年おきに五回も時間を遡及してきたと豪語している。


 ありがたく嬉しい反面、もう色々な意味でやばい姉ちゃんだと思った。

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