第52話 闇堕ちした勇者
フレイアこと『不和 由利亜』は話を続ける。
「闇の勇者レイヤの悪行は今回ばかりではありませんわ。先日、真乙様達が中ダンジョンで遭遇した『グレートゴブリン』も、レイヤが『
「なんだって!? じゃあ、俺達……いや俺は以前から渡瀬に目を付けられていたのか……」
きっと杏奈に近づく、俺のことが気に食わないと思ったのだろう。
さらに彼女と親交を深めることで、より拍車が掛かったに違いない。
「そのようですわ。まさかここまで表沙汰に行動に出るとは思いませんでしたが……リエンさんとの約束で犯人を突き止めるだけのつもりでしたが、これは重大なルール違反の犯罪ですわ」
「リエン? ファロスリエン、香帆さんのことかい?」
「はい、そうですわ。あの方とは何かと気が合いますの……フフフ」
どこか不敵に見える、由莉亜の笑み。
きっと『キカンシャ・フォーラム』に違いない。
香帆はしょっちゅう遊びに行っているような言い方をしているからな。
未だ俺をネタにしているようだけど、今は指摘している場合じゃない。
「由莉亜さん! よろしければ、渡瀬について知っていることを話してもらえないか!? 普通のクラスメイト達も奴に脅されて酷い目に遭っているんだ!」
「……わかりました。真乙様のお頼みとあればお断りすることはできません。わたくしが入手した情報を全てお話いたしましょう」
由莉亜の口から、俺の知らない『闇の勇者』こと『渡瀬 玲矢』について語られる。
渡瀬は異世界の転生者ではなく、女神アイリスに召喚された転移者である。
当初から優秀な
無事に
しかし私利私欲に駆られたパーティの仲間や貴族達によって、レイヤは偽りの罪を被せられテイムしたモンスターは皆殺されてしまい、彼自身も処刑されそうになる。
だが彼を欺いた裏切り者達は知らなかった。
レイヤの心の中に潜めた深い闇の部分を――。
世間では誰もが温和そうな優男と思っていたが、それは女神アイリスですら見抜けず欺いてきたレイヤの処世術であり、実際は異常に偏執的で暴力的な本性を隠し持っていた。
なんとか逃走に成功するも、追手により深手を負わされ瀕死状態となってしまった、レイヤ。
その憎悪と本質から備わっていた「負の念」により、禁忌とされていた
さらに暗黒の女神メネーラ(後に邪神メネーラとなり肉体を得て地上に降臨する)に導かれ『闇の勇者』として、より強大な力を得たレイヤは復讐鬼と化し実行に移すことになる。
そして元仲間と貴族達に報復を完遂し、一度は救った筈の国をも滅亡に追い込んだ後、女神メネーラとの盟約により現実世界に帰還したと言う。
補足として、女神メネーラによって戻された“帰還者”は特殊公安警察の『零課』ですら把握できないらしい。
渡瀬の場合、闇堕ちする以前の『勇者レイヤ』として魔王討伐の功績により、堂々とギルドに登録し冒険者として活動していたようだ。
「――レイヤは相当危険な“帰還者”です。きっと真乙様の手に負えない相手となるでしょう……ここは、どうかわたくし達に任せてくださいませ」
「教えてくれてありがとう、由莉亜さん。けど、どうして俺のためにそこまで?」
「わたくしにとって
「そ、それって……『キカンシャ・フォーラム』のこと? どうして俺のこと知ってるの? どっかで会ったことある?」
「真乙様が覚えてないのも無理はありませんね。一年前、貴方様はミオさんが施した《
思い出した……這いつくばる俺の姿をひたすらスマホで撮っていた美脚の女子高生だ。
あれ? てことは……。
「由莉亜さんってひょっとして年上ですか?」
「ええ、まぁ。白雪学園の二年ですわ。後輩に貴方様を知る『久住 涼音』さんもおりますの」
久住さん? そういや彼女も白雪学園だったな。
卒業式に俺に告白してくれたクラスメイトの女子……元気なのかな?
「そうだったんですか。先輩だと知らずにタメ口で……すみません」
「結構ですわ。
「うん、ありがと」
やばい、悪評が吹き飛ぶほど超いい子だ。
それに姉ちゃんとは違った、お淑やかさを兼ね備えた美少女ときている。
やたら推してくれているだけに、危なく勘違いしてしまいそうだ。
てかなんで俺のこと推してくれているの?
「ユッキ、楽しそうに話しているところすまない。ヤッスを目覚めさせるため、お前の《アイテムボックス》から『
ガンさん……最後の台詞、やたら心に突き刺さるからやめて。
まるで俺が由莉亜に心を奪われているみたいな言い方じゃないか?
俺はあくまで杏奈一筋だからな!
「わかったよ、ガンさん……てか変な誤解するのやめてくれよ」
俺は《アイテムボックス》から
ついでに目立つ格好なので、『
ガンさんが
「ユッキ、ガンさん……僕達は勝ったのか?」
「ああ、そうだ。ヤッス、お前のおかげだぞ!」
こいつが
ヤッスはゆっくりと体を起こし、何気に由莉亜の方に視線を置いた。
「そこの女子は誰かね? バスト87のDカップ、セーラー服越しの
変態紳士は、由莉亜の美貌よりおっぱいに絶賛している。
ウザいので、あのまま気を失ってくれていた方が良かったと思った。
「フレイアこと由莉亜さんだ。姉ちゃんと同じ
「構いませんわ。それに、もうじき貴方様達の『主』が来られるようです」
由莉亜は路地の方に視線を向ける。
すると遠くから二人の女子高生が駆けつけて来た。
姉の美桜と仲間の香帆だ。
「真乙、無事!?」
「マオッチ、怪我なぁい!?
「ああ、姉ちゃんに香帆さん、見ての通りだ。にしても連絡してないのに、よくわかったね?」
「……フレイアが教えてくれたのよ。ありがと、一応お礼は言っておくわ」
「いえ、ミオさん。貸し一つですわ……まぁ、戦いに関しては既に真乙様達が終わらせておりましたの。ですが当のレイヤは既に逃走した模様です。只今わたくしの眷属が捜索しており、もうじき探し出せるでしょう」
「――フレイア様、犯人と繋がりましたのです! もう逃がさないのです!」
由莉亜の背後で、メルという
気づけば彼女の人差し指に淡く発光する糸が巻かれ、どこかに繋がっている感じで真っすぐ張られていた。
毛糸ほどの太さであり、目を凝らして見ると糸に呪文語が施されている。
「その子、覚えているわ。確かユニークスキル持ちの
「ええ、そうですわミオさん。《
どうやら俺達が話し込んでいる間、メルがずっと追跡してくれていたようだ。
要するにあの糸を伝って進んで行けば、渡瀬がいる場所に辿り着けるらしい。
流石はユニークスキルってところだろう。
「……ふむ。あのメルという少女、72のAカップか。随分と幼い身形のようだが、妖精族ということは、成長がほぼ絶望的――だぁが、しかし! 僕は決して見限らないぞ! どんな貧乳だろうと愛でてこそ乳ッ! だっておっぱいには変わりないんだからぁ!」
ヤッスは、実年齢不明のメルに向けて犯罪ギリギリなことを力説している。
言われたメルは「あの
あいつ、そのうち『零課』に連行されなきゃいいけどな……。
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