第44話 妹からの試練と探り

「――はい! ガンさん、ジョーカー引きましたぁ!」


「言うなよ、ヤッスゥ! くそぉぉぉぉぉ!!!」


 俺と杏奈が帰宅した後。

 お泊り会恒例のトランプ大会が開催された。


 みんなパジャマ姿であり、特にヤッスは崇拝する美桜の姿に興奮してテンションを上げている。

 といっても、ごく普通のパジャマ姿だ。

 けど相変わらずスタイル抜群で大人びており、より曲線的なボディラインが浮き出されている。


 香帆は最初からお泊りしに来ただけあり、自分のパジャマを着用していた。

 意外にもワンピースタイプの甚平姿で、和柄が爽やかで季節感を感じさせる。

 甚平の裾から、すらりとした色白の脚線美を覗かせ、つい目を奪われてしまう。


 杏奈も自分の家から持ってきたルームウェア姿であり、露出こそ少ないが普段なら絶対にお目にかかれない姿だけに、俺のテンションはMAXを超えている。

 何より風呂上りの濡れた髪をアップにまとめ、白く細いうなじを露わにした姿がなんとも艶っぽく、心の中で何度も「あざーす!」と拝んでしまった。


 ちなみにヤッスには俺の寝間着を貸しており、体の大きいガンさんは親父のガウンを纏っている。


「岩ッチってあれだねぇ。心理戦とかガチで弱っ。だって、すぐ顔にでるもん。やーい、豆腐メンタルゥ~!」


「香帆さん、傷つくから茶化さないでくれ……サッちゃんにもよく言われるんだ」


「サッちゃん?」


 杏奈が小動物みたいに、ちょこんと首を傾げる。

 なんとも可愛らしい仕草だ。


「天堂 紗月先生。姉ちゃんのクラスの担任だよ。ガンさんとは同い年で幼馴染なんだ」


「そうなんだ……不思議な関係だね」


 まぁ、9年間も引き籠っていたガンさんが原因なんだけど。

 異世界でショックを受けたことが理由とは説明できない。


「俺もユッキ達のおかげで始めから出直すつもりで頑張ることにしたんだ……野咲さん、クラスメイトとしてよろしく頼むよ」


「はい、よろしくお願いします」


 一応は同級生同士だけど、杏奈もガンさんの前では口調が改まってしまっている。


「ところで美桜、アゼイ……いや、紗月先生に声を掛けなかったのぅ?」


「掛けたわ。けど先生、土日は『工房』があるから忙しいみたい」


 香帆の問いに、美桜が率直に答えた。

 週末の紗月先生は鍛冶師スミスとして『アゼイリア工房』を経営している。

 素材集めで俺達とパーティを組む以外でも多忙のようだ。

 その分、相当稼いでいるらしいけど。


「そういえばお兄ちゃん達ってゲームとかしないよね? ファンタジー系のアクションゲームだけど、8人対戦とかあるよ。一緒にやろう」


「清花、悪いけどこのメンバーは全員間に合っている筈よ」


「そっだねぇ、妹ちゃん。ファンタジー系はお腹一杯かな~」


「すまない……戦いはリアルで十分だ」


「可憐なる妹殿、来年の成長を楽しみにしておりますぞ」


 美桜を始めとする“帰還者”組はゲームにまで神経を注ぎたくないと断っている。

 まぁ全員が歴戦の猛者だから無理もない。

 加えてまったく関係ない筈のヤッスは、何故か清花の成長を期待している。

 どうせ『おっぱいソムリエ』として言ってやがるんだと思った。

 純情な妹には変なこと言わないでほしい。


「だったら清花、俺と対戦するか?」


「うん、お兄ちゃん!」


 みんなに断われ、清花は寂しそうな表情を浮かべている。

 ここは兄として付き合うことにした。

 杏奈も参戦したいと言い出し一緒にプレーすることになる。

 また変態発言の責任として、ヤッスも無理矢理に参加させた。


「清花ちゃん、強いねぇ。また負けちゃった」


「杏奈さん、これも真剣勝負ですから負けませんよ(お兄ちゃんに相応しい彼女か見極めてやるんだから!)!」


 清花は何故か俺とヤッスを無視して、ひたすら杏奈ばかりに攻撃を仕掛ける。

 なんだろう……妹から、やたらと『負の念』を感じるぞ。



 ゲームを終えると、清花は一人で二階へと上がって行く。

 すると分厚いファイルを抱いて下りてきた。


「なんだよ、それ?」


「お姉ちゃんの部屋から持ってきた、『真乙メモリーズ』だよ。杏奈さん、見ます?」


 なんだって!? つまり俺の幼少期からのアルバムだってのか!?

 つーか、なんで親じゃなく姉ちゃんが所持しているんだよ!?


「こらぁ、清花ッ! それベッドの下に保管していた、お姉ちゃんの大事なアルバムじゃない! もう勝手に持ち出したら駄目だからね!」


 そんなエロ本を隠すような場所に保管する姉も姉だと思う。

 隠し場所を知っている妹も妹だけどな……てか、俺の姉妹やばくね?


「うん。清花ちゃん、見たい」


 杏奈は嬉しそうにアルバムを受け取り閲覧しようとする。


「アンナッチ、あたしにも見せてぇ!」


 どうやら香帆も気になった様子で、杏奈にくっつく形で隣に座った。

 

 よく考えてみれば俺が体重130キロを誇るデブちんだった頃の姿が、もろに写っているんだよな?

 魅力値CHA-50の頃だ。


 ページが捲られる中、清花は「フフフ」と不敵な笑みを浮かべる。


「どうですか? 私の・ ・お兄ちゃん……全然違うでしょ? 今は痩せてスタイルいいけすけど、ちょっと気を許すとすぐにリバウンドすると思いますけどね。いや絶対にしますね、もう断言していいでしょう!」


 妹よ、一体何が言いたい?

 まるで杏奈に「また、こんな姿になるから諦めたら?」と言っているように聞こえるぞ。


「マオッチ、話には聞いてたけどガチに太ってたねぇ……けどこの頃も、あたしは可愛いと思うよぉ」


「はい、香帆さん。わたしが初めて真乙くんに出会った時も、この写真より一回り小さいくらいでした。その時から真乙くんは勇敢なヒーローみたいで素敵な男子です」


 美女子達から思った以上の好評価。

 特に杏奈は容姿に拘らず、助けに入った俺の行動を素直な気持ちで称えてくれる。


 そうか……杏奈ってこういう子なんだぁ。

 ショッピングモールで周囲の目に、ネガティブな気分になったけど杞憂だったようだ。

 最初に出会った時も、まだ体重は100キロもあり魅力値CHA-50だった。

 

 杏奈にとって別に太っていようと、俺をヒーローとして素敵に思っていてくれたんだ。

 だから高校で再会して、彼女の方から声を掛けてくれたのだろう。

 けどリバウンドは嫌だから、このままの方向でいくけどね。


 一通りアルバムを見終わると、杏奈から清花にアルバムを渡した。


「ありがとう、清花ちゃん。真乙くんのこと沢山知れて良かったよ」


「は、はい……(な、何……この人。まさか本物の天使なの!?)」


「ちょっとぉ、それ! お姉ちゃんの大事なアルバムなんだから、こっちに返してよね!」


 どこか困惑した表情を見せる清花に対し、美桜は半ギレしながら強引にアルバムを奪い取り、豊満な胸に押し当て大事そうに抱きかかえた。

 俺の黒歴史より、この姉妹達の奇行ぶりの方が問題のような気がする。


 それから就寝することになった。

 香帆は「マオッチ、オールナイトって約束したじゃん!」とゴネていたが、美桜から「明日、色々とやることがあるから駄目よ」と注意され、姉の部屋へと連行された。


 杏奈は清花の部屋で寝ることになる。

 その際、清花は「問い詰めて本性を暴いてやるんだからね……」と意味深なことを呟いていた。

 大丈夫だろうけど、杏奈に変なことしないでほしい。


 そしてヤッスとガンさんは、俺の部屋で泊まることになった。

 けど男三人だと流石に窮屈だ。

 特にガンさんは一人で二人分以上のスペースが必要だからな。

 おかげで、狭いシングルベッドにヤッスと二人で寝る羽目となる。


「……ガンさん、親父の寝室でよければ空いてるよ。もれなく母さんも寝ているけどね」


「ユッキ、流石にお前のお母さんと一緒に寝れないよ……俺もいい歳だし、万一サッちゃんに誤解されたらどうする? それに俺は除け者にされてしまうと、後々気持ちがヘコんでしまうからやめてくれ」


「ごめん……言ってみただけだよ。ヤッス、起きてるか?」


「ああ勿論だ……しかし、ガンさんよ。ユッキのお母様は偉大なるマスターをお生みになったゴットマザーだけに、お綺麗でとても良い『お乳』を持ってらっしゃる。僕なら是が非にお願いしたいけどね」


 おいヤッス、お前は俺の母さんに何しようとしているんだ?

 そんなことよりも、この変態には聞きたいことがある。


「なぁ、ヤッスは『渡瀬』と同じ中学だったんだろ? 奴が荒れていた時とか知っているのか?」


「ん? ああ知ってるよ。実際に目の当たりにしていたからね……聞きたいのかい?」


「まぁね、頼むよ」


 ヤッスは「わかった。いいだろう」とやたら上から目線で言い、杏奈の幼馴染である『渡瀬 玲矢』の過去について語り始めた。

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