第38話 ガルシュルドの過去

「香帆様、失礼ながら何故に我ら野郎共だけの反省会なのです? この面子だとむさくるしいだけで華がないではありませんか?」


 最低な言い方だけど、ヤッスの疑問も筋は通っている。

 一番の戦犯は岩堀だけど、みんなで参加してこその反省会じゃね?


「……まぁ、そうなんだけどねぇ。けど岩ッチもウチら女子がいるより、男子同士の方が腹を割って思いを話せるんじゃない? 特にアゼイリア先生はいない方がいいしょ?」


「わ、私? 香帆ちゃん、なんでよ?」


「幼馴染だからだよぉ。親しい間柄だからこそ、本音を言いにくいってこともあるしょ~。いいから行こう、先生!」


 香帆はそう言うと強引にアゼイリアの手を引っ張って地上へと戻って行く。

 去り際に、俺に視線を向けて片目をつぶって見せながら。

 俺に何か期待しているようだけど……なんなんだ?


 そして中ダンジョンに俺とヤッスと岩堀の男だけとなった。

 何だか、あらためると気まずいな……。

 

 岩堀は両膝を地面につけたまま俯いて何も話そうとしないし、ヤッスなんて「おっぱいがなきゃ話にならん!」と謎の不満を漏らしている。

 ぶちっちゃけ、この二人だけで人生の反省会をしてほしいくらいだ。


 とはいえ、俺から何か言わないとこのままでは話が進まないと思う。

 それにとっとと終わらせないと、いずれモンスターが復活するかもしれない。


「……岩堀さん。アゼイリア、いえ紗月先生から話を聞きました。異世界の勇者リューンという人のこと」


「そうか……サッちゃんが話した通りだ。俺は狂戦士バーサーカーとなり、魔王どころか親友だったリューンまで殺してしまった。それで災厄周期シーズンは終わったものの、異世界にいられなくなり現実世界に帰還したんだ……でも、その時のショックが抜け出せず、9年間も引き籠ってしまった」


 本来なら異世界の伝説となる快挙も、『勇者殺しの狂戦士ブレイヴキラー・バーサーカー』の称号を得たばかりに、負の汚名として歴史に刻まれてしまったらしい。


 そうしてガルジェルドこと岩堀は異世界から追放される形で“帰還者”となった。

 幼馴染で同じ転生者であるアゼイリアも、そんな岩堀を不憫だと思い共に現実世界に帰還したようだ。


「けど、狂戦士化バーサークしたのも勇者リューンの指示だったんですよね? 魔王に追い詰められてやむを得ず……結果は残念だったですけど、勇者も覚悟した上だったんじゃないっすか? 岩堀さんだけが責められる道理はないと思うけど……」


「違うんだ、幸城くん」


「え?」


「今思えば……俺は心のどこかで親友を……リューンを疎ましく思っていた。それが狂戦士化バーサークしたことで、殺意として表だってしまったと考えている」


「勇者に対して殺意があったと?」


「そうだ……」


 岩堀は隠すことなく認めた。


 親友に殺意を持っていたって……どういうことだ?

 俺もよくヤッスの『おっぱいソムリエ』ぶりに翻弄され、よく殴ってやりたい衝動に駆られるけど、それよりも遥かに闇が深そうだ。


「できれば詳しく話してもらっていいですか?」


「わかった。サッちゃんもいないことだしいいだろう……」


 岩堀は頷き、初めて胸の内を話してきた。



 紗月先生と幼馴染である岩堀は、幼少の頃から彼女に密かな好意を寄せていた。

 異世界で転生した時も生まれ育った場所や身分は違えど、お互いの存在を知り探し求め無事に再会を果たしたそうだ。


 その時、岩堀はガルジェルドと呼ばれた蛮族戦士バーバリアンであり、魔王討伐のため勇者リューンとパーティを組んでいたと同時に、勇者にとって無二の親友という立場だった。

 再会を果たした紗月先生ことアゼイリアも鍛冶師スミスとして名を馳せており、ガルジェルドの誘いもあってパーティに加わった経緯がある。


 しばらくは順調に冒険を進め各国の支持を集めながら、徐々に魔王軍を追い詰めていく勇者パーティ。


 だがある日、ふと勇者リューンは親友であるガルジェルドに恋愛相談をしたことがきっかけでバランスが崩れていく。


「……ガルジェルド、僕はね。以前からアゼイリアのことが好きなんだ。魔王討伐した暁には、彼女にプロポーズしたいと思っている」


 勇者リューンはガルジェルドとアゼイリアの関係を知らなかった。

 二人が転生者であることも、女神アイリスの契約で異世界の住人である勇者には伏せられていたからだ。

 

 それを聞いたガルジェルドは大いに悩むことになる。

 親友の気持ちと自分の想いに対する間と葛藤。


 勇者リューンは強さだけでなく、容姿も爽やかなイケメンで性格も心優しい人格者だ。

 女性なら誰でも憧れや恋心を抱くことは間違いなく、アゼイリアとて告白を受ければ心が揺れ動くのは間違いないと思った。


 はっきり言って美男美女のお似合いのカップル。

 野獣みたいな自分とは釣り合わず、雲泥の差だと感じていた。


 だからこそ、ガルジェルドは劣等感に苛まれ、少しずつ勇者リューンだけでなくアゼイリアとも距離を置くようになったそうだ。


 そんな時、魔王と決着をつけるため最終決戦の場となった。


 勇者リューンとガルジェルドは、魔王の罠でアゼイリアを含む他の仲間達と分断され、二人だけが魔王城に転移される。

 そこで魔王と側近の幹部達と対峙することになってしまった。

 なんでも勇者リューンを孤立させ、魔王達で袋叩きにする思惑があったようだ。

 ガルジェルドは逸早く異変と罠に気づき、逸早く勇者の腕を掴んだ彼だけが共に転移された。


 思わぬ形にせよ、ある意味で敵の懐に飛び込み討伐するチャンスを掴んだ二人。

 だが相手は強大な力を持つ魔王であり、加えて上級の幹部達や魔族兵の多くに囲まれた絶望的な状態。

 いくら高レベルの二人だろうと、どうにかなる状況ではなかった。


 否、ただ一つだけ打破する術はある。


「――ガルジェルド。キミの《異能狂化の仮面ベルセルクマスク》を解放してくれ」


「何を言っている、リューン!? 俺が狂戦士バーサーカーと化したら魔王だけじゃない、お前まで襲うかもしれないんだぞ!」


「構わない……世界を救うためだ。とっくの前に覚悟はできている。だからガルジェルド……アゼイリアのことを頼む」


 その言葉を聞いた瞬間、ガルジェルドの迷いは消失した。

 自分は生き残りたい。

 生きてアゼイリアと一緒にいたい。

 そう思いながら、《異能狂化の仮面ベルセルクマスク》を被り狂戦士化バーサークしたと言う。



「――後は幸城くん達が知っての通りだ。俺は魔王軍を殲滅したと同時に、親友であった勇者リューンを巻き込み殺した。自分の保身のために……心の奥では、アゼイリア、いやサッちゃんを勇者に取られたくないと思っていたんだ」


「う~ん。けどやっぱり仕方なかったじゃないんですか? 岩堀さんだけ責められるのは可笑しいし、身を挺した勇者の英断で称えられる話だと思うけど……」


「それでも俺がリューンを殺したことに違いない。だから逃げたんだ、異世界から……“帰還者”となってからも、何もする気になれず9年間も引き籠っていた」


「だったらどうして俺の誘いに乗ったんです?」


「そろそろ今の自分を変えたいと思った……ずっとサッちゃんに心配を掛けさせていたし。彼女も立派な大人の女性だ。いつまでも俺なんかに付き合う必要もないだろ?」


 そういや紗月先生、あれだけナイスバディの美人だったのに浮いた話がなかったよな?

 タイムリープする前も結婚は疎か、誰かと付き合った噂すらなかった気がする。

 ってことは、紗月先生もずっと岩堀のこと気に掛けていたってことか……。


 あれ、待てよ?

 だとしたら岩堀って割と脈ありじゃね?

 

「岩堀さん、俺が言うのもなんですけど、もう少し紗月先生と向き合った方がいいですよ……後悔する前にね」


「なんだって?」


「俺にも好きな子がいます。ようやく友達になれた感じですけど……彼女には『幼馴染』っていう厄介な相手がいまして……けど、もう後悔したくないから、このまま突き進んで行こうと思っています。“帰還者”じゃない俺が『冒険者』を目指すのも、これまで悲観的だった自分に自信を持つための決意であり戒めだと思っていますから」


「まるで過去に酷い失敗をしたような口振りだね……まだ若いのに」


「ええ、まぁ。岩堀さんほどハードじゃないですけど……あんな人生は二度とごめんですね。今はこうして、それなりに強くなって仲間もいて楽しいですよ」


 俺の言葉に、岩堀はフッと笑みを浮かべる。

 立ち上がり向き合った。


「それなりにか……幸城くん、キミは十分に強いよ。何せ、《異能狂化の仮面ベルセルクマスク》をまともに防いだ、ただ一人の男だからね」


「ははは。一度、死にかけましたけどね……だけど《穿通》スキルは反則っすよ」


「こう見てもピーク時は《穿通Lv.10》でカンストしていたんだけどね……今は退化して《穿通Lv.2》だ。他に取得した技能スキルや魔法はレベル1~3まで落ちてしまっている。自業自得だけどね……」


 やっぱりピーク時のレベル67だったら、一撃で瞬殺されたってことか……おっかねぇ。

 今後はスキル対策の強化を目指す必要があるぞ。

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