第37話 狂戦士との決着

「ガァァァアァァァァ!」


 岩堀の猛撃は続いている。

 いくら巨剣から繰り出される斬撃だろうと、物理的攻撃なら《無双の盾イージス》で防ぐことは可能だ。

 しかし奴は《貫通》を進化させた《穿通》スキルを持ち、その衝撃がダメージとして俺の体力値HPを大幅に奪う。

 このまま、ただ攻撃を受け続けるのは危険だ。


「――《シールドアタック》!」


 魔法陣の盾で攻撃を弾き、カウンターの突撃を浴びせた。


 岩堀は「グォッ!?」と喉を鳴らし、奴の巨漢は軽々と吹き飛ばされる。

 その威力は岩堀を地面に叩きつけ衝撃で岩を砕き、より遠くへと追いやるほどだ。


 通常なら、ここで勝負がついているところだが……。


 岩堀は何事もなかったかのように立ち上がり、ゆらりとした足取りで歩いて来る。

 再び巨剣を掲げて助走をつけながら、こちらに向けて疾走した。


 俺は一度、《無双盾イージス》を解除し、岩堀の進路方向へと展開させた。


「ガァッ!?」


 岩堀は魔法陣盾に阻まれ、それ以上動くことができない。

 これだけ離れた位置だと、いくら攻撃しようと《穿通》スキルの影響はない筈だ。


「みんな、ここは俺が食い止める! 今のうちにダンジョンから脱出してくれ!」


 俺まで離れてしまうと、《無双盾イージス》の効力が薄れてしまう。

 まずは仲間達を脱出させてから、どうするかを考えることにした。


「やーだよ! マオッチを見捨てるなんてあり得ない! 美桜に怒られるじゃすまないからね! それに、あたしがガチになれば、あの程度の相手なら勝てるよん。ただし確実にキルしちゃうけどね~」


 確かに香帆は美桜が背中を預けるほどの高レベルの暗殺者アサシンだ。

 レベル60と化しているとはいえ、彼女が本気になれば十分に勝てるだろう。

 本来なら頼むべきだが、キル宣言されてしまうと頼むに頼めない。


「私も同じよ! 大切な生徒に押し付けて、自分だけ逃げるなんて選択はないわ! こうなったら最後まで付き合うわよ! 一緒に王聡くんを食い止めましょう!」


「ユ、ユッキ! 我が親友を置き去りになどしないぞ! 僕達の友情は不滅なり! 共に戦おうではないか!」


 アゼイリアとヤッスまで言ってくれる。

 特にヤッスは強気な割には膝が震えていた。


 仲間達の言葉に少し涙腺が緩み、うるっとしてしまう。


「わかった! みんなで一緒に戦おう! このまま防ぎながら作戦タイムだ!」


「では、まず僕から……クィーンよ、狂戦士バーサーカーと化した今の岩堀さんに弱点とかないのですか? またはユニークスキルの解除条件とかは?」


「……ごめんなさい、ヤッスくん。私もよくわからないわ。解除される条件は、香帆ちゃんが言うように視界に移る者を殲滅すれば自動的に解除されるらしいわね。また彼が被っている《髑髏の仮面》を引き剥がすか……あるいは破壊するかかなぁ」


「あの薄気味悪い《異能狂化の仮面ベルセルクマスク》だっけぇ? だったら話が早いじゃん。マオッチが防いでいる間に、あたしが接近して顔面ごと真っ二つにするよ~ん!」


「いや香帆さん……多少のダメージはしゃーないけど、できるだけ《仮面》だけを斬るようにお願いできる?」


「善処するわ~。上手くいったら、あたしが泊りに行った際、オールナイトで付き合うんだぞぉ」


「オールナイトって何よ? 変なことじゃなかったらいいよ、別に……」


 一度、このギャルエルフに騙されて額にチュウされたからな。

 あまり不純なことをされると、杏奈に嫌われてしまう。

 せっかく友達になれたってのに……。


「やりぃ。んじゃ作戦を開始しょう! ヤッスは魔法で援護できるぅ?」


「香帆様、問題ありませぬぞ。この僕が必ずや貴女様を導いてみせましょう!」


 こうして緩い感じで作戦が決まった。

 俺はアゼイリアから高級なHP回復薬エリクサーを貰い体力を全回復させる。


 岩堀を引き付けるため、再度 《無双盾イージス》を解除し、自分のシールドとして発動させた。

 奴の赤く染まった瞳孔が輝きを宿し、光線を帯びながら俺の下へと突進してくる。


 狂戦士バーサーカーの豪腕により放たれた巨剣の刃が、魔法陣の盾と激しく接触した。

 ギィィィンという衝突音と共に、俺の体に激痛が駆け巡る。

 《穿通》スキルによる衝撃だ。


「ぐっ……体力値HPを全回復させたとはいえ、攻撃を耐えられて5、6回が限度だ! 香帆さんにヤッス、今のうちに頼む!」


 俺がそう支持した時、岩堀の攻撃がぴたっと止んだ。

 展開された魔法陣越しで凝視すると、身を屈め巨剣を構えている。

 隆々とした肉体から、沸騰するどの熱気が込められた闘気が魔力と化して溢れ出ているのかわかった。


「何だ? 何か仕掛けるのか……そうか! ま、不味い!」


 俺の勘が危険を察知する。


「――《岩砕爆裂斬ロックボム・スラッシュ》!!!」


 刹那、岩堀の魔法剣撃が炸裂した。

 

 なんとか《無双の盾イージス》により攻撃自体を防ぎ切るも、《穿通》スキル効果で破壊エネルギーの衝撃が俺の体を直撃して襲う。


「ぐわぁぁぁぁぁ――」


 みるみると体力値HPが減り、ついに「0」になる。

 一瞬、人生が終わったと思った。


 しかし技能スキル《不屈の闘志Lv.9》が発動する。

 90%の確率により、俺の体力値HPは「0」から「1」の回復に成功した。

 瀕死状態だが意識と力を振り絞り片手で《アイテムボックス》を出現させる。

 瞬時に『HP回復薬エリクサー(時価5000円)』を飲み、体力値HPを半分ほど回復させた。


「あ、危ねぇ! 今のうちだ! みんな、早く岩堀さんを止めてくれぇぇぇ!」


 俺が指摘した通り、大技を繰り出した岩堀は蹲り身動きが取れないでいる。

 どうやら一度放つと一定の冷却期間フリーズが必要とされるらしい。


「王聡くん! いい加減に目を覚ましなさい!」


 アゼイリアは魔銃のトリガーを引いた。

 数発の弾丸は岩堀の両足にヒットし、水蒸気を放出させて散開する。

 すると、瞬く間に氷の塊となり地面ごと両足を覆った。

 凍氷魔法か?

 両足を封じられ、岩堀はその場から動くことができない。


【――《砂塊撃サンドショット》! 《疾風衝撃派ウインドインパクト》!】


 ヤッスは無詠唱で地属性と風属性の魔法を同時に放つ。

 初級魔法とはいえ、連続で浴びせられると結構な威力となる。

 二つの魔法攻撃は岩堀の上半身に直撃し、巨漢は足場を固定されたまま大きく仰け反った。

 

 岩堀は狂戦士バーサーカーになることで理性を失うが、ある程度の知性はある。

 奴の注意が散漫になった所で、香帆が間髪入れずに間合いを詰めた。


 気が付けば、真正面の至近距離で『死神大鎌デスサイズ』を掲げている。

 疾風のような高速移動であり、超一流の暗殺者アサシンならではの絶技。


「――《漆黒の魂斬殺ジェットブラック・ソウルキル》!」


 香帆が大鎌を一閃する。

 湾曲の刃から漆黒の魔力が放たれ、岩堀が被る《異能狂化の仮面ベルセルクマスク》ごと頭部を貫通した。

ちなみに刃は一切触れてない。


 すると、《異能狂化の仮面ベルセルクマスク》の中心から亀裂が入り、鮮やかな断面を残し二つに割れて落ちた。

 ユニークスキルで構成された仮面は消滅する。


「ギャァヤァァァァァァァァァ――!!!」


 同時に岩堀は発狂したような絶叫を上げ、白目を向いて動かなくなった。


「あちゃ~、やりすぎねぇ。本来の《漆黒の魂斬殺ジェットブラック・ソウルキル》は、物理的攻撃と共に敵の『魂』までも斬っちゃう技だからね……ユニークスキルだけを斬るつもりで手加減したけど、つい岩ッチの精神も崩壊したかもぉ。ごめんね~」


 いや、可愛らしく「ごめんね~」じゃないだろ? 普通に駄目じゃん!

 ただでさえ、メンタルが豆腐のような脆い奴なのに死んじゃったんじゃないの!?


 俺達が絶句する中、岩堀の肉体が萎んでいき元の体形に戻っていく。

 指先がぴくっと動き、ようやく目を覚ました。

 

「……ううう、ここは? 俺の部屋じゃないのか? 何故ここにいる?」


 どうやら無事のようだ。

 けど『魂』を斬られたことで、記憶が錯乱している。

 香帆の説明だと、通常なら体力値HPと共に魔力値MPが同時に消失させる即キル技らしい。

 特に岩堀の場合は魔力値MPが「0」になったことで気を失ったようだ。

 おそらく俺と同様に《不屈の精神》スキルを持っており、少しだけ自然回復したのだろう。


 戦闘態勢を解いた俺達は、面倒だけどこれまでの経緯を説明してみた。


「……そうか。結局、俺は暴走してしまったのか。すまない、みんな……特に幸城くんには大変迷惑を掛けてしまったようだ」


「いいですよ、岩堀さん。久しぶりに何度も激痛を浴びせられ、一度死にかけましたけどね」


「……本当にすまない。なんとお詫びすればいいのか」


 岩堀は頭を下げながら身を縮こませている。

 つい先程まで大暴れしていた奴と同一人物とは思えない。


 とりあえず、アゼイリアが岩堀に『HP回復薬エリクサ―』と『MP回復薬エーテル』を与えて体力値HP魔力値MPを回復させ、ヤッスが炎系の魔法で足場の氷を解凍させた。


「何からなにまで、みんなすまなかった……」


 岩堀はみんなの前で潔い土下座を披露する。

 大柄なだけに、とても哀れに見えてしまう。


「――んじゃ、これから反省会だねぇ。あたしと先生は先に地上に戻っているから、マオッチとヤッスで岩ッチの話を聞いてあげて~」


 香帆が軽い口調で提案してきた。

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