第39話 癖の強い新たな仲間

 岩堀は俺に向けて、すっと手を差し伸べてきた。


「ありがとう……キミの言葉に勇気を貰えたよ。俺も後悔したくない……これからは前向きに生きていけるよう目指すよ」


「ええ、それじゃ明日から一緒に学校に行きましょう」


 俺も手を差し出して、硬い握手を交わして微笑む。


「わかった……安永くんもよろしく」


「うむ。これで『おっぱいレンジャー』が揃ったということだな、ユッキ?」


 ヤッスは握手し合う俺達の間に立って、自分の手を添えて頷いている。

 ところで『おっぱいレンジャー』って何よ? いつから俺までメンバー入りしたんだよ?

 そもそもお前、自称『おっぱいソムリエ』だろ?


 とにかく、岩堀が立ち直ってくれて良かった。

 年齢は10歳も離れているけど、「片思い仲間」でもあり何かと共通する部分が多い。

 だから余計に気が合ったのだろう。



 それから俺達は中ダンジョンを脱出し、香帆と紗月先生と合流した。


「サッちゃん、明日から学校に行くよ……今まで心配してくれてすまない」


「うん、うん……本当だぞぉ。学校ではサッちゃんと呼んだら駄目だからねぇ……」


 岩堀の前向きな言葉に、涙混じりで嬉しそうに微笑み答える紗月先生。

 やっぱりこの二人は、俺達に見えない絆があるのだと思った。


 これが幼馴染か……やっぱ強敵な相手だよな。

 ふと、杏奈と渡瀬の関係を連想してしまう。

 俺はあくまで「奪う側」だ。未来の後悔を繰り返さないためにも……。

 

「岩ッチ、すっかり変わったね~、いい感じだよぉ。やっぱマオッチに任せて正解だったわ~」


「そぉ? 香帆さんって……姉ちゃんから何か聞いているの?」


「ん? 何がぁ?」


「いや別に……」


 てっきり美桜からタイムリープした話を聞いたかと思った。

 それで精神年齢30歳の俺に委ねたと感じたんだけど。


 そういや俺が過ごした未来では、香帆と関わることはなかった。

 つーか、今まで彼女の存在すら知らない。

 タイムリープして、初めて美桜に紹介されてからの間柄だ。


 香帆も異世界では「転生者」である。

 同じ災厄周期シーズンで「転移者」の美桜と出会い、一緒にパーティを組んでから親交が深まったと聞く。

 だとしたらタイムリープ前の未来では、香帆は現実世界に戻らなかった可能性もある。

 今回の周期で、美桜が何かしらの手段で彼女を呼び寄せたのだろうか?

 まぁ俺としては、こうして仲間なりパーティに入ってくれてラッキーなことに変わりない。



 探索を終えた俺達は、各々の装備を外し本来の姿に戻った。

 回収した『魔核石コア』は紗月先生がギルドで換金して後ほどみんなで分配されることになる。

 ゴブリンの数の多さに加え、最上級のグレートゴブリンの分もあるので「150万円」くらいの報酬になるのではという予想だ。


 てことは、一人30万か……装備のローンを払っても結構残るぞ。

 今後のことを考えて、高級な回復系薬ポーションを買いあさろうかな。


 などと車中で考えていると。


「……あのぅ、幸城くん」


 岩堀が声を掛けてくる。


「なんですか?」


「そのぅ、安永くんもそうだが……これからは同級生になるんだから敬語は不要だからね。あと『さん』呼びもやめてほしい」


 え? だけど、一回り年上だからな。

 流石にタメ口は抵抗あるぞ。


「僕は構わんよ。しかし親しき間柄になるとはいえ、岩堀さんは年上であることに変わりない。敬語は不要としても、それなりに敬う気持ちは必要だと思うぞ。ユッキはどう思う?」


「ヤッスの言う通りだな。そうだ――『ガンさん』と呼ぼう。それでいい?」


「ガンさん? ああ、苗字が『岩』だからか? うん、それでいい……よろしく頼むよ、ユッキにヤッス」


 こうしてガンさんと年齢の垣根を越えた友達となり、またパーティして正式に組むことになった。

 豆腐メンタルで暴走気味の狂戦士バーサーカーだけど、圧倒する攻撃力を持つ頼もしい仲間だ。


「本当に良かったわね、王聡くん。マオトくんとヤッスくんもありがとう……これからは、私もパーティに加わっていい?」


「紗月先生も? 俺は凄くありがたいよ。なぁ、ヤッス?」


「もちのロンロンです! クィーンが一緒だと、見栄え的にボリューム感……いえ頼もしい限りですなぁ!」


 ヤッスは絶対に、紗月先生のこと「おっぱい」でしか見ていない。

 あまりぶっちゃけると、寂しい胸の持ち主である香帆が鋭く睨んでくるので、奴なりの遠回しで言ってやがる。


 けど異世界で勇者パーティに入っていた実績のある、紗月先生アゼイリアが俺達の仲間になってくれるのは凄く嬉しい。

 ところで鍛冶師スミスの彼女ってレベルいくつなんだ?


「紗月先生って、レベルいくつなんですか?」


 勝手に《鑑定眼》で見るのは失礼なので、本人に直接聞いてみた。

 なんか女性に年齢を聞くみたいで妙にドキドキする。


「ん? レベル60よ。でも鍛冶師スミスだから戦闘向きじゃないけどね。普段は《偽装》スキルでレベル30に見せているわ。変なのが寄り付かないようにするためにね……香帆ちゃんはもっと上でしょ?」


「ひぃみぃつぅだよ~ん。“帰還者”には色々な連中がいるからねぇ。自分の情報は自身で護れって、美桜の受け売りだよぉ」


 まさしく二人の言う通りだ。

 俺なんか自分の能力値アビリティが掲示板に漏洩され、もろ犯罪者に目を付けられてしまったからな。


 しかし紗月先生って「レベル60」なのか……。

 評判通りのハイスペックな鍛冶師スミスだ。


「あとね、マオトくん……私ね、普段は工房もあるから、冒険者としては素材集めの参加でいい? その代わり、みんなの装備を造る際は格安にしてあげるからね」


「ええ勿論です。その際はお願いしますよ、先生」


 本心では仲間になるんだから、いっそタダにしてくれよと欲をかいてしまう。

 まぁ流石にそこまで都合よくはいかないだろうけど。

 

「サッちゃんもパーティに入るとは……こりゃ、ますます自分を変えていかないとな。きっかけを与えてくれたユッキに感謝だ」


 そう前向きに呟く、ガンさん。

 彼の恋愛事情に関して本当は脈ありっぽいけど、なんか悔しいから今は黙って伏せておこう。

 当面は片思い仲間ってことで。


 こうして様々な収穫を得て、中ダンジョンの探索は完遂した。


 

 ――翌日。

 ヤッスと共に黄昏高に行くと、クラス内は喧騒に包まれていた。


「誰だよ、あいつ……あんな大男、今までクラスにいたっけ!?」


「どうして大人が制服着てんの!? 歳いくつ!?」


「にしても随分とデケェし厳つい。それに、あの筋肉質……とにかく超やべぇ!」


 どうやら岩堀こと『ガン・ ・さん』が9年ぶりに登校したことで、彼を知らない連中が騒ぎ出している。

 無理もないか……しかしクラスメイトのほとんどが珍獣を見るような眼差しだ。


 そのガンさんは、ただでさえメンタルが弱い性格なのに色々言われるものだから、自分の席で縮こまって座っている。

 ワイルドな見目の割に制服を正しく着こなしており、無精髭も綺麗に剃っていた。

 またロングヘア―も後頭部でお団子に縛っており、少なくても昨日より清潔を意識した容姿だ。


「「ガンさんおはよう」」


「ああ、ユッキにヤッス、おはよう。キミ達がいてくれて安心するよ……にしても酷い騒ぎになってしまった。俺のせいだけど……」


「仕方ないよ。みんな悪気はないと思うし、そのうちに慣れるさ」


「まぁ、人の噂も七十五日というからなぁ。それまで我慢ですぞ、ガンさん」


 ヤッス、それ悪い噂が広まった場合だろ?

 ガンさん、ただ普通に登校して来ただけじゃん。


 それから間もなくして、担任の『灘田なんだ 楠子くすこ』が教室に入りホームルームが始まった。

 灘田は40歳の女教師で婚期を逃したと思い込み、この時代から自暴自棄になっており、俺達が卒業してか問題を起こし強制解雇させられている。

 そんな姿勢もあり生徒間のいざこざには一切興味がなく、後々「杏奈が虐められる」時も見て見ぬ振りを貫いた最低教師だ。


 まぁ当時の俺も同類なので、灘田を一方的に非難する資格はないのだけど……。


 灘田から、適当な口調で「岩堀君は9年ぶりの登校となりましたので、皆で仲良くするように~」と告げられ、クラス中が再び騒然となる。


「じゃあ、年齢26歳のおっさ……いや大人かよ!? 酒もタバコもOKじゃん!」


「堂々とエッチな店にも行けるのかよ~、凄げぇ!」


 などと男子達が妙に興奮し驚いていた。

 それらの言動に、女子達のほとんどが引いている。


「……なるほど、ガンさんといるとそういうメリットがあるのか? これは良き友を得たと思わんかね、ユッキ?」


 ヤッスまで便乗し、両腕を組んで不敵に微笑んでいる。

 何故か勝ち誇ったドヤ顔だ。

 思わねーよ。お前が一番不謹慎じゃねぇか……。


 おかげで、ガンさんは恥ずかしそうに机に突っ伏して顔を隠している。


「……頼む、もうやめてくれ」


 そう呟きながら耳元まで真っ赤にしていた。


 これからの人生、沢山辛いこともあるんだ。

 ドンマイだぜ、ガンさん。

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