第32話 パーティと中ダンジョン

 俺のステータスを確認してから、何故か急に「やる気スィッチ」が入った、岩堀いわほり 王聡きみとし

 学校に行くかは別として、まずは冒険者として俺のパーティに加わってくれることになった。

 一応、引き籠り生活から脱出した解釈でいいだろう。

 幼馴染の紗月先生も「王聡くんが部屋から出る気になっただけでも良かったわ。ありがとう、マオトくん」と安堵し感謝してくれた。

 早速、岩堀と次の週末からダンジョンに行くことを約束し、その場を後にした。



 それから俺の家に帰り、姉の美桜にヤッスを勇者の眷属にしてもらうようお願いした。


「友達思いの真乙なら、そう言うと思ったわ。ヤッス君、話は聞いていると思うけど、これから冒険者として活動するには異世界の力が必要となるわ。“帰還者”でないキミは勇者の眷属、つまり従者になる必要があるのよ。キミにその覚悟はある? ないならキミの記憶を消すことになるわ」


「――ノープロブレム。この安永司、身も心もマスターである美桜様に捧げましょう」


「……そこまで服従しなくてもいいわ。とりあえず契約を結ぶから、後は真乙と仲良くしてあげてね」


 美桜は言いながら、跪くヤッスの額に指を添えて『眷属の烙印』を施した。

 また以前、俺に仕掛けた《強制試練ギアスアンロー》魔法は、もう少しレベルを上げてから行うと言われている。

 レベル2で知力INT以外は低い能力数値アビリティのヤッスでは、きっと激痛に耐えきれず下手したら死ぬかもしれないという理由かららしい。



 それから週末。


 紗月先生が例の高級車で迎えに来てくれた。

 車には既にパーティ仲間である香帆とヤッス、それに岩堀の三人が座っている。

 ちなみに美桜は朝から「私は用事があるから行かないからね。香帆がいれば問題ないでしょ?」と告げて一人で出かけたきりだ。



 俺が乗車した後、進路方向に違和感を覚え始める。


「あれ? 先生……エリュシオンには行かないんですか?」


「ええ、今回は王聡くんのリハビリとヤッスくんのレベル上げが目的だからね。メインダンジョンの『奈落アビス』に行かず、中ダンジョンに行くつもりよ」


 確かにギルド登録と『奈落アビス』の探索はレベル10からだ。

 だからヤッスは該当しないのは頷ける。

 岩堀もレベル30とはいえ、9年間も引き籠っていたからな。

 当然ながらブランクはあるだろう。


「中ダンジョンね……まぁ俺はいいけど、香帆さんだと物足りないんじゃない?」


「マオッチは優しいねぇ。あたしは別にいいよ~ん。キミと一緒だと退屈しないからねぇ。それに『彼』のことも気になるしぃ」


 香帆は軽い口調で言いながら、岩堀をチラ見する。


「お嬢さん、俺のことかい?」


「そっ。おじ……いや、お兄さん。『勇者殺しの狂戦士ブレイヴキラー・バーサーカー』の称号を持っているでしょ?」


 この金髪ギャルってば、今、岩堀に向けて「おじさん」と呼ぼうとしたぞ。


「それがどうしたんだい?」


「以前さぁ、掲示板の『キカンシャ・フォーラム』で閲覧したことあってね……ある災厄周期シーズンで、たった一人で当時の魔王軍を殲滅させた蛮族戦士バーバリアンがいるって話……」


「その口振りだと、ネットで俺の風評が流れているようだね」


「まぁね……なら余計、あたしがいた方がいいしょ? マオッチは問題ないかもしれないけど、ヤッスとアゼイリア先生はあたしが守らないとね」


「……そうか。キミのような高レベルの暗殺者アサシンがいれば、俺も問題ないかもしれないな」


 まるで岩堀と一緒にいることで、二人が危険な目に遭ってしまうような言い方に聞こえてしまう。

 それに異世界の戦いで、岩堀がたった一人で魔王軍を殲滅させたってのか?

 にしてはレベル30って低すぎじゃね?

 姉ちゃんでさえ偽装した上でレベル65だぞ。

 


 それから特に会話なく、伊能市から外れにある目的地へと辿り着いた。


 が、


「――ここって廃墟ホテル?」


 山腹にある林に囲まれた大きな鉄筋コンクリート造の建物前で車は停止した。

 洋風で一昔前はさぞ立派な外観だったかもしれないが、すっかり痛々しく錆びれており、何とも言えない不気味な雰囲気を醸し出している。

 

「そうよ。今は心霊スポットと化しているけど、このホテルの地下に中ダンジョンがあるの。モンスターもそれなりに多いから、一応気を付けてね」


 紗月先生は説明しながら車のトランクを開け、大きなボストンバックを取り出した。

 そのままヤッスに渡している。


「紗月先生、それは?」


「ヤッスくん用の装備一式よ。王聡くんのお礼に造ったの。と言っても、魔法士ソーサラーは軽装備だから、魔杖と魔道具アイテム以外は大したモノじゃないけどね」


 以前、俺が購入した『駆け出し冒険者セット』のようなものだろうか?

 あれでも10万円はしたからな……。

 紗月先生こと鍛冶師スミスのアゼイリアが製造したとなるといくらぐらいなんだ?


 ヤッスはボストンバックの中身を確認し、尊敬するおっぱい……いや、紗月先生に頭を下げて見せる。


「ありがとう、クィーンよ。出世払いで必ずや代金を支払い致します」


「ヤッス、それどれくらいしたんだ?」


 つい気になり訊いてしまう。


「ん? 350万円だ。僕がレベル10になりギルド登録してから、ローン払いが始まる……とりあえず60回払いでお願いしている」


 た、高けぇ。

 相変わらず、ぼったくり臭が半端ない。

 まさかヤッスの奴、おっぱいに釣られてカモられてんじゃね?


 などと脳裏に過らせ、ホテルに入る。

 荒れ放題のロビーで準備を整えることにした。

 

「――着装ッ!」


 《アイテムボックス》を解放し、俺は盾役タンクの姿となる。


 隣で香帆もエルフ族の暗殺者アサシンとなっていた。


 紗月先生も赤髪の鍛冶師スミスことアゼイリアとなるが、以前と異なり白色のロングコートを羽織っており、懐には何やら武器を装備している。

 あれは現実世界でも馴染のある代物だ。


「紗月先……いえ、アゼイリア先生。それって『拳銃』ですか?」


 それは銀色シルバーのフレームに長い銃身を持つ、六連発タイプの回転式拳銃リボルバーであり、フレームには煌々と青色に輝く呪文語が刻まれていた。


「ええ、そうよ。私のオリジナル武器である『魔銃』よ。通常の拳銃と同様に物理攻撃は勿論、弾丸によって色々な効果をモンスターに与えることもできるわ」


 なんでも異世界では造らなかった武器だとか。

 彼女は転生者として記憶や知識は受け継いでも、近代兵器の技術は持ち込むべきじゃないという信念があるらしい。


「サッちゃ、アゼイリア。やっぱりキミもダンジョンに潜るのかい?」


 岩堀が不安そうに訊いている。

 彼も転生者なのか、褐色肌で蛮族戦士バーバリアンのような姿をしていた。

 頑丈そうな分厚い筋肉に覆われた上半身を露出し、胴を護る草摺鎧タシット籠手鎧ガントレット足甲鎧ソルレットなどいった簡素化された防具しか身に着けておらず、背には身の丈以上の刃を持つ巨大な剣を携えている。

 その巨剣の刃は通常の鋼と異なり、大型モンスターの骨を加工したような棘々しいデザインだ。

 

 反面、屈強そうで厳つい巨漢のわりに猫背であり、また常に瞳が泳いでいるためどこか弱腰に見えてしまう。


「そうよ、王聡くん。メンタルの弱いキミのフォローも兼ねてね。マオトくんも私がパーティに加わってもいいでしょ?」


「勿論です。仲間は多いに越したことはないですから」


 ラノベでも鍛冶師スミスが戦うのは定番化しているからな。

 それに高レベルの“帰還者”でもあるらしいから、きっと頼もしい戦力になるだろう。


「ユッキ、すまんが僕の新たな姿を見て欲しい。どうかね? これこそが覚醒した真の姿と言えるだろう!」


 ヤッスは妙なテンションを上げ、女子みたいに俺の前でくるりと回って見せた。

確かに『魔法士ソーサラー』らしく、紺色で鍔の広い三角帽子に外套マントと魔道服の姿だ。

 片手に深紅の宝玉が埋め込まれた『三日月型の魔杖ムーンスタッフ』が握られている。

 さらに何故か左目に片眼鏡を掛けていた。


「どうして眼鏡を掛けてんだ? ヤッスって、そんなに視力悪かったっけ?」


「いや違う、これは魔道具アイテムだよ。魔力を込めることで様々な効果を発揮する万能眼鏡であり、簡易的な『魔眼』のようなモノだ。そうだ、『魔眼鏡』と名付けよう!」


 如何にも厨二病らしいアイテムとネーミングだ。


 そして、あの魔杖に付けられた宝玉も魔力MP知力INTを大幅に増幅できるレアで高価な武器らしく、本来なら上級者が装備しても可笑しくないとか。

 しかもアゼイリアが生成した一級品なので、通常なら1000万円越えはするらしい。

 だとしたら、ぼったくりっぽい350万円の請求額も、実は超お買い得な激安割引だと言える。


「ヤッスゥ、もうレベル2の装備じゃないよ~! 激ヤバァ、けどラッキーだねぇ!」


 ベテラン冒険者である香帆も大絶賛だ。


 初期装備から良さげで羨ましい……だけど俺の3倍以上のローンだから微妙だけど。

 ある意味、ヤッスなりに冒険していると思った。

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