第15話 覚醒したユニークスキル

「グゥホォォォォォォォォォォォォク!!!」


 ミノタウロスが再び咆哮を上げる。

 筋肉隆々とした剛腕から繰り出される戦斧の巨刃が容赦なく、俺に襲い掛かってきた。

 巨漢の癖にやたら素早い動きだ。


 俺の敏捷力AGIじゃ躱すのは不可能――。


「ならば防御力を活かして突っ込んでやるよ!」


 破損した盾と剣を放り投げ、そのまま突進した。

 俺の頭上に巨刃が振り降ろされる。

 

「――ぐぅ!」


 呻き声を発してしまう。

 けど痛みも損傷もない。

 これは頭上から押し込まれた時に出てしまった、「重圧」に対する声だ。


 俺自身はノーダメージだが、攻撃を受けた重さで動きが止まってしまう。

 力みながら耐えるも、足場が窪み地面に亀裂が入っている。

 通常なら頭部から胴体にかけて真っ二つの筈だ。


「うぐぅ! うおぉぉぉぉぉ!!」


 俺は重さを堪え、一歩ずつ前進していく。

 ミノタウロスの懐に入り、腹部を目掛けて四発ほどの拳打を与えた。

 しかし鋼の如く強固な腹筋を前に、俺の攻撃はびくともしない。


 また身を屈められ、頭部の片角で俺の肩を引っかけ全身ごと持ち上げる。

 そのまま後方へと放り投げられてしまった。


(ぐっ、駄目か! ミノタウロスに俺の攻撃が通じない! だが奴の攻撃も俺には通じない!)


 地面に叩きつけながらそう思った。

 気持ちは昂ぶっているが、思考力は至って冷静だ。


 ミノタウロスは物理的の攻撃がメインであり、毒性など状態異常を与える攻撃技を持たない。

 それなら俺の防御力VITと《鉄壁》スキルで十分以上に耐えることができる。


 俺はすかさず立ち上がり、呪文の詠唱を始めた。


【――焼き尽くせ、《火炎球ファイアボール》!!!】


 掌から火炎球が発射された。


 ミノタウロスは防御することなく、もろに直撃を受ける。

 《火炎球ファイアボール》は爆発し、その巨躯は炎に包まれた。

 だが奴は何事もなかったかのように、こちらへと前進してくる。

 やがて炎と煙が消え、平然とその姿を晒してきた。


 ミノタウロスは胸板から腹部にかけて火傷の痕跡があるも、大ダメージには至っていない。


 ――こんなもの、防御するまでもない。

 

 鼻息を荒くして、そう言っているように見えた。


「クソォッ! 初級魔法程度じゃ火傷を負わせる程度なのか!?」


 しかし俺は諦めない。

 もう一度、《火炎球ファイアボール》をミノタウロスに浴びせる。

 今度は連続して三撃ほど連続に放ってみた。


 ミノタウロスは二発ほど頭部に攻撃を受けながら、最後の一発を戦斧で薙ぎ払い突撃してきた。

 俺の胴体に巨刃の攻撃がヒットし、そのまま吹き飛ばされ岩壁に激突した。


 無論、ノーダメージである。

 心底、頑丈な自分を褒めてあげたい。


 陥没した岩壁から這い出た俺は、《アイテムボックス》を出現させた。

 魔法陣から『MP回復薬エーテル』を取り出し使用する。

 このまま魔力MPが尽きてしまうと、精神力マインドを消失して意識を失ってしまうからだ。

 

 今の俺の魔力MPじゃ、《火炎球ファイアボール》はせいぜい5発が限界だろう。


「こんなことなら多めに買っておけばよかったな……いや買ってくれたの、姉ちゃんだけど」


 そう自分にツッコミを入れつつ、ミノタウロスに視線を向けた。


 《火炎球ファイアボール》が功を奏したのか、ミノタウロスの片角は爆発により折られており、片目も炎で焼かれ潰れてしまっているようだ。

 だから最後の一撃だけ戦斧で防御したのだろう。

 ミノタウロスも思いがけないダメージを与えられた上に、己の攻撃が一切通じない規格外の防御力を持つ相手に狼狽している。

 あからさまに動揺を見せ始め、どう攻め込んでいいか躊躇している様子だ。


 それは俺も同じだけどな。

 

 けど退く気はない。持久戦だろうと戦ってやる。

 称号の効果、『猪突猛進レックスラッシュ』の影響もあり、決して臆することはない。

 無謀と言える戦いなのに闘争心だけは溢れ漲っていた。


 すると突如、《鑑定眼》が勝手に発動し何やらメッセージが表示された。



『――ユニークスキル、《無双の盾イージス》を覚醒しました』



「なんだと? ユニークスキルって何だよ?」


 俺は新しく会得したスキルを調べる。



【ユニークスキル】

無双の盾イージス


〔能力内容〕

・魔法陣で構成されたシールドを任意で出現させ、如何なる物理攻撃と魔法攻撃を完全に防ぐ。

・シールドの大きさと防御する範囲を自在に調節できる。

・視界内であれば、遠い場所でもシールドを出現させることが可能。

・シールドの使用は1つのみだが、魔法とスキルを併用することで増やすことも可能。

〔弱点〕

・ただしシールド範囲以外の防御は不可。

・高レベルの貫通スキルやユニークスキルではダメージを受けてしまう場合もある。

 (ただしスキル補正で-1%は必ず軽減できる)


(覚醒条件)

・自分より三倍以上の高レベルを持つ敵の攻撃をノーダメージで防ぐこと。

・尚且つ不屈の闘志を失わず果敢に攻めていること。



 魔法陣で構成された無双の盾?


 ざっと見た感じだと魔力MPを消費するスキルではないようだ。

 技能スキルとは異なる、厳しい覚醒条件をクリアしたことによって覚醒した特殊スキルということか?


「とりあえず、使ってみるか!」


 俺はミノタウロスに向けて駆け出し突撃する。

 間合いに入った途端、何度目かの戦斧が迫ってきた。


「――《無双の盾イージス》!」


 俺は右腕を翳し、スキルを発動した。

 刹那、掌から魔法陣が出現し『シールド』を模って形成されていく。

 そのまま、豪快な戦斧の一撃を受け止めた。


 先程までとはまるで異なり、俺の全身は微動だにしない。

 吹き飛ばされることなく、また重圧で押さえ込まれることもなく完璧に防御した。


「これが《無双の盾イージス》――俺だけの唯一無二のスキル!」


 今度は俺が攻撃を弾き、ミノタウロスは巨体を揺らし大きく体勢を崩した。

 その隙に懐まで入り込み、魔法の詠唱を行う。

 

【――《火炎球ファイアボール》×5連射ッ!!!】


 連続して魔法攻撃を食らわせた。


「ウボォォォォォォォ――!」


 ほぼゼロ距離で浴びせられた魔法攻撃に、ミノタウロスも悲鳴を上げて首を左右に振るい身悶えている。

 凄まじい爆炎が胴体を焦がし、強靭だった肉を削ぎ落していく。

 牛肉だからだろうか、少しだけ香ばしくて美味そうな臭いがした。


 大ダメージを受けた、ミノタウロス。

 上半身は痛々しく焼け爛れ、骨や臓器が露出された中々グロい状態と成り果てた。

 また胸骨の中央部に、モンスターの心臓である『魔核石コア』が見えている。


 もう一息だ――そう思った瞬間。


「ぐぅ……意識が……もう」


 俺は魔力MPを使い切り、精神力マインドが「0」になってしまった。

 このままでは気を失ってしまう。


 だが、その前にやるべきことはある!


 これが最後と言わんばかりに闘志を奮い立たせる。

 辛うじて意識を保たせ、ありったけの力を振り絞った。


「うおぉぉぉぉぉ――《無双の盾イージス》!!!」


 ユニークスキルの《無双の盾イージス》を再び出現させ拡張させる。

 そのままミノタウロスを押し潰す形で前のめりに共倒れになった。


「グギャァァァァ……――」


 激しい地響きと共に、ミノタウロスが断末魔の悲鳴を上げる。

 瞬く間に肉体は粉砕され、光の粒子となって飛び散り消滅した。


 倒れ込む俺のすぐ傍には、菫青色アオハライトの輝きを放つ、『魔核石コア』が落ちている。

 今まで見たことのない、大きいサイズだ。


 だがしかし、


「……か、勝った。けど……もう限界だ」


 劇的な勝利に酔いしれる間もなく、俺は意識を失った。



──────────────────

【あとがき】

ここまで読んでいただきありがとうございました。

続きはノベルピアさんの方で連載しています。

そちらでも読んでもらえると嬉しいです。

よろしくお願いいたします<(_ _)>

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