第13話 奈落ダンジョン
早速、習得した魔法陣こと、《アイテムボックス》を出現させてみた。
その中に『駆け出し冒険者セット』を全て収納する。
「収納した装備や武器それにアイテムなど、今後は好きな時に取り出し使用することが可能です。特に装備と武器は、その場で瞬時に装着することができます」
担当の受付嬢であるインディが、懇切丁寧にレクチャーしてくれる。
「へ~え、変身するみたいな感じ?」
「……まぁ、そうですね。特に転生した“帰還者”は異世界時の姿になりますからね。間違いではないでしょう」
そういや姉ちゃんも同じこと言っていたな。
とにかく凄く便利なスキルだ。
「真乙。早速、装着してみたら? これから『
「うん。そうだね、姉ちゃん。やってみるよ――着装ッ!」
俺は自分で考えた掛け声で叫んでみた。
厨二っぽいが、その方がカッコイイだろ?
すると頭上から円形の魔法陣が出現し、降り注ぐように俺の全身に装着されていく。
俺は一瞬で冒険者となった。
【装備】
頭:なし
体:
右手:銅の剣 (
左手:木の盾(
足: なし
靴:半長靴(
【装飾品】
なし
うむ。
如何にも駆け出し冒険者の装備だ。
けど以前のジャージ姿や木刀とフライパンなんかより余程それっぽい。
それなりに補正も付いているし。
「いいわね、真乙ぉ! カッコイイ~、こっち向いて~!」
美桜はテンションを上げながらスマホを構えている。
何故か冒険者の姿となった俺の姿を撮影していた。
どうやら姉ちゃんにだけはウケているようだ。
その撮った画像を一体どうするつもりなんだろう?
「それでは、真乙君。これから貴方が赴く、ダンジョンについて説明しても宜しいでしょうか?」
「はい、インディさん。よろしくお願いいたします!」
俺は背筋を伸ばし、インディから説明を受ける。
まずは歴史の概要から解説された。
この現実世界で唯一存在するとされる、秘境の魔窟ダンジョン。
――『
発見されたのは炭鉱が閉山された後とされており、何故伊能市にのみ存在するかは未だ謎とされている。
だが日本は1990年頃からの「異世界転生ブーム」もあり、発見された際も事態を受け入れる柔軟な器量はあったらしい。
同時に伊能市に住む住民の中で、異世界に転生あるいは転移した者が帰還している者達が存在していることも確認され、彼らの力を借りて今のギルドが結成され管理されるようになった。
そして彼ら“帰還者”を中心にダンジョンの探索が日夜行われ、同時にモンスターが地上に溢れ出てこないよう抑制し防いでいるようだ。
また非公式ながら日本政府の公認もされており、“帰還者”は冒険者として雇われ日本だけではなく世界の均衡を守るため魔窟を調査し戦い、現在に至っていた。
そのメインダンジョンとされる『
尚、『
・1階から20階まで「初界層」。
・21階から45階までが「中界層」。
・46階から70階から「下界層」。
・71階層から未開拓領域「深淵層」。
と呼ばれている。
さらに所々で「分岐点」というポイントが存在し、そこは次元を捻じ曲げて創り出した特殊空間であり、モンスターが出現せず侵入してこない安全階層となっている。
各分岐点にもギルドで雇われた職員が配置されており、疲弊し冒険者達の傷を癒す場を設け、消耗した装備品の補充などが行われていた。
以上でインディからの説明が終わる。
ほぼ同時に、美桜が俺に顔を近づけてきた。
「いい? 真乙はソロだから、潜っても5階層までにしなさいよ」
「ソロって一人のことか? 姉ちゃんは行かないの?」
「私は気が向かないから行かないわ。その代わりGPSで見守ってあげるから、困ったことがあれば連絡頂戴」
「え? ダンジョンなのにスマホが通じるの?」
「大丈夫よ。その為にギルドのアプリを入れているんだからね。本当のピンチになったら駆けつけるわ」
凄ぇ、そういった機能もあるのか。
なら一人でも大丈夫かな。
「それとマオト君、ダンジョンに入る前に
インディの話によると、ギルドから出た別の建物に「道具屋」があるのだとか。
だけど俺ぇ……『駆け出し冒険者セット』で10万円借金して金欠なんだけどな。
「仕方ないわね……
「うん、ありがとう姉ちゃん……ちなみに、それっていくらくらいするの?」
「効力にもよるけど、安くて一つ1000円くらいよ」
げぇ! 意外とするんだな……どれくらい回復するかによるけど。
それからギルドを出て、近くにある「道具屋」に向かった。
美桜に
ダンジョンへ行くため専用の停留所に行き、俺一人でトロッコ列車に乗り込んだ。
線路から洞窟に入り、そのまま「初界層」の1階へと続いている。
「それじゃ姉ちゃん、行ってくるよ」
「ええ、気をつけてね……
「わかったよ……大丈夫。初めてだし、言いつけ通り5階層までしか行かないよ」
相変わらずの過保護ぶりだ。
ハンカチとテッシュは関係ないじゃん。一応、持っているけど。
そんなに心配なら、一緒についてくればいいのに。
美桜とやり取りをしている中、トロッコは動き出した。
運転手はおらず自動運転式だ。
「……いよいよ、本場のダンジョンか」
俺は高揚を隠し切れず、胸を高鳴らせた。
トロッコは線路に沿って建造された地下施設、『
そのまま地下1階へと進み停留所で停止した。
見たところ、小ダンジョンと変わらない景色だ。
俺はトロッコを降りて、さらに奥へと進む。
「ギルドのアプリに、大まかな各階層の特徴やマップ等の情報が公開されているんだっけ?」
スマホ画面を操作し、これから探索するルートを確認する。
美桜の話だと完全に調査され尽くされたわけじゃなく、「初界層」でも未発見の隠しルートが存在するのだとか。
それをギルドに教えるだけで、結構な賞金額が貰えるらしい。
2階層に降りると、早速モンスターが現れた。
小ダンジョンでよく戦った、「ヘイナス・ラビット」だ。
「またこいつか……《鑑定眼》」
レベル6で、他のステータス数値も倍ほどある。
なるほど……『
おまけに、奥の暗闇から三体ほどヘイナス・ラビットが姿を見せている。
出現する数も多くなった。
「確かに相当レベルが高くないと、ソロじゃ限界だよな……」
俺は盾を構え、右腕を前方に翳した。
先制攻撃で、夏休みの終わりに覚えた
【――出でよ炎! 敵を燃やし焼き尽くせ、《
呪文語を詠唱し、俺は魔法を発動させた。
右掌から火炎球が出現し、正面のヘイナス・ラビットに直撃する。
瞬く間に炎に包まれ、ヘイナス・ラビットは悲鳴を上げた。
肉体は灰となり燃え尽きて消滅する。
モンスターの心臓である、『
小ダンジョンで拾った『
少なくても500円以上の価値はありそうだ。
仲間を斃されたことで、他のヘイナス・ラビットは動きを止めていた。
先制の魔法攻撃が功を奏し、奴らは動揺しているようだ。
俺は好機と判断し、盾を翳したまま敵陣に突撃した。
銅の剣で斬りつけ深手を負わせ、迫る攻撃も盾で防御しながら確実にカウンターで仕留める。
身に着けた《剣術Lv.2》と《盾術Lv.3》のスキルを存分に活かし、三体のヘイナス・ラビットを斃した。
「仮に噛まれたとしても、今の俺には《毒耐性》があるからな……まぁ噛まれないに越したことはないけどね」
俺は地面に落ちた『
初めて魔法攻撃も成功したし、出だしは上々だ。
それから3階層に行き4階層へと降りていく。
小ダンジョンよりも確実に強力なモンスターは現れるも、特に問題なく快勝しまくる。
この程度なら、5階層と言わずもう下の階層を目指せるのではないかと高を括っていた。
しかし、5階層に降りた直後だ。
「――ひぃぃぃ! 誰かぁ、助けてくれぇぇぇぇ!!!」
不意に誰かの悲鳴が聞こえた。
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