第12話 ギルド申請と職業
魔法陣で生成された扉が自動に開かれる。
俺は美桜の後について行く形で、魔法陣の中を潜った。
すると、視界がぱっと明るくなり、見たことのない異空間が広がる。
一面に敷き詰められた石畳。
目の前には一風変わった西洋屋敷のような巨大な建物だ。
他にもお洒落な灯台のような塔や石造建築で造られた建物などが幾つも並んでいる。
如何にも中世ファンタジーの世界だ。
「――ここは『エリュシオン』。“帰還者”達の町よ」
美桜が耳打ちして教えてくれる。
なんでもギリシャ神話になぞり、「神に愛された英雄達の魂が暮らす楽園」という意味で名づけられた町らしい。
そして周囲には人間の姿も見られている。
鎧姿で剣を携えた騎士風や、ローブを纏った魔法使いっぽいの人達。
また筋肉隆々で斧を背負った屈強そうな戦士に、軽装な装備をした盗賊の装いなど。
こうして見ると、コミケ会場で観るコスプレのようだ。
彼らが異世界の“帰還者”達か……。
ん? あれは……。
金髪で両耳が尖ったエルフや、背は低いが髭もじゃで恰幅の良いドワーフもいる。
それに、頭部に獣のような耳や尻尾の生えた獣人族まで……動いているけど本物だろうか?
それに人間の中にも、明らかに日本人離れした外国人風の“帰還者”もいた。
「……姉ちゃん、あの人達は?」
「異世界に転生した“帰還者”ね。冒険者モードだと、向こう側の姿になるのよ。全員日本人だから普通に言葉は通じるわ」
「そうか、姉ちぁんは転移したからそのままか……ってなんで私服なの?」
「私、あまり冒険する気ないし。けど、お小遣い稼ぎ程度でキルドには登録するけどね」
美桜はこれまでもそうだったみたいだからな。
そいうスローライフ的な活用もあるのだろう。
しかし、こうして眺めているだけでテンションが上がってくるなぁ。
今から俺の冒険が始まるんだぜぇって的な。
いやぁ燃えてくるわ~。
「おい、あれ……勇者ミオじゃないか?」
「何ッ、
「あんな華奢な少女が……信じられん」
「けど、とても綺麗な娘ね。噂以上だわぁ」
その場にいる“帰還者”が、美桜に注目している。
だが美桜は特に反応することなく、しれっと彼らの間を通り過ぎて進んで行く。
俺もリュックを背負い直しながら、姉の後へと続いた。
「姉ちゃん。あの人達が言っていた、『七大聖勇者』って何? 邪神メネーラってのは魔王なのか?」
「ただの
きっぱりと言い切る、美桜。
俺もそれ以上は言及しようとせず、二人で大きな屋敷の中へと入った。
広々として木造建てで清潔感に溢れアンティークさが漂う落ち着きのある場所。
反面、雑踏と喧騒に包まれた雰囲気を漂わせてもいる。
様々なタイプの“帰還者”が集い、カウンターで受付嬢と依頼クエストの相談をして、モンスターを討伐することで得た
ここがギルドか……。
美桜はスマホの画面を見つめながら、「彼女が私達の担当よ」と言って誰も並んでいないカウンターへと向かった。
カウンターにはウェイトレス風の制服を着た女性受付嬢が立っている。
綺麗な大人びた顔立ちで、スタイルも相当良い曲線美が描かれていた。
藍色の長い髪を後ろに束ね、黒縁眼鏡の奥に少し垂れ目ぎみで同じく藍色の瞳を宿している。
彼女は転生者なのか、それともただのコスプレなのかわからない。
「さっき受付予約したミオよ。ステータス、見せた方がいいかしら?」
「いえ、貴女様は超有名な“帰還者”様なので登録さえしていただけば結構です。わたくしはインディと申します。以後、お見知りおきを」
「そっ、よろしくね」
インディと名乗った受付嬢は丁寧にお辞儀をして見せる。
一方の美桜は明らかな年上を相手に両手を組んだ上から目線だ。
「あのぅ、勇者様……」
「ミオでいいわ」
「それではミオ様……後ろのお方は?」
インディは美桜の後ろで立っている俺に視線を向ける。
「私の弟よ」
「幸城 真乙といいます」
「マオト様? はて……“帰還者”リストには登録されてらっしゃらないようですが?」
「だって弟は“帰還者”じゃないですもの。私の眷属として連れて来たのよ。勇者の私なら有事の際のパーティとして5名まで眷属として迎えることができる、そうでしょ? 異論があるなら言って頂戴」
流石、前周で弁護士していただけのことはある。
怒涛の如くマウントを取るような言い方だ。
ちなみに姉は初対面や気に入らない相手には、決まってこういう態度である。
だがインディもニコッと笑い、大人の余裕を見せていた。
「仰る通りです。ではマオト様も今後は冒険者としてギルド登録されるという事ですね?」
「そうです。あと俺のことは真乙でいいですからね。姉と違い、『様』と呼ばれる立場じゃないですし……はい」
「わかりました。ではマオト君、まずはキミのステータスを見させて頂きます――」
インディは丁寧な口調で説明すると、俺に向けて《鑑定眼》を発動させた。
束の間、彼女は小刻みに体を震わせ、何やら驚いている様子だ。
「レ、レベル10でこのステータス!? う、嘘でしょ……特に
急にキャラを変えて驚愕している。
最早、大人の余裕は微塵もない。これが本来の彼女だろうか?
「あのぅ、そんなに可笑しいんですか?」
「あのねぇ!
「うっさいわね。そんなのあくまで数値上でしょ? 《貫通》スキルとか、それ系のユニークスキルを持っていれば大した脅威じゃないわ。んなので、いちいちびびるのは中級レベルの雑魚だけよ」
興奮するインディに、勇者の美桜は容赦なく切り捨てる言い方をした。
インディは少しムッとしながらも、わざと咳払いをして気持ちを落ち着かせている。
「ミオ様の仰る通りですね……大変、失礼いたしました。ではマオト君、冒険者登録してもらっていいかしら?」
「はい」
「ちょっと待って。インディさん、貴女って他人に基本スキルを分け与えることができるわよね?」
「ええ……ミオ様、どうしてそのことを?」
「伊達に
「はぁ、《アイテムボックス》は規則上、習得されていない登録者全員に授けるよう統一されていますので可能ですが……それ以外のスキルを授ける行為は義務付けられておりません。基本、ご自分で習得されることをお願いしています」
「けど規則には反してはいない。貴女の配慮でお願いしているのよ……見ての通り、真乙は規格外の素質を持っているわ。駆け出しのうちから、他の“帰還者”に目を付けられたくないのよ」
どうやら姉ちゃんなりに俺のことを心配してくれているようだ。
《隠蔽》スキルはステータスのレベルと数値を誤魔化すことができるらしい。
それに“帰還者”の中には相手のアイテムや装備を狙う輩もいると聞く。
確かに初心者のうちから無用なトラブルは避けたいところだ。
だがインディは難色を示す表情を浮かべている。
「う~ん、私はいいんですけど……ギルドマスターがなんと言うかぁ」
「貴女にとってギルドマスターなんてどうでもいいでしょ? 問題なのは本当の上司じゃなくて?」
美桜の言葉に、インディの顔つきが変わる。
垂れ目だった目尻が吊り上がったように見えた。
「ミオ様、どこでそれを?」
「同じ『七大聖勇者』だもの。
「……そうですか。やはり、
「ありがとう、無理言って悪かったわね……
美桜は穏やかな口調となり、インディに対して軽く頭を下げる。
その態度にインディの目尻は下がり、ニコッと優しく微笑んだ。
二人でなんの会話をしているのか、俺にはさっぱりだけどな。
「はい――それでは、マオト君。登録したらスキルをあげるから、まずスマホ出して頂戴ね」
「わかりました、よろしくお願いします」
俺は言われるがまま、自分のスマホを彼女に差し出した。
インディはカウンターの棚からタブレットを取り出し、スマホにアプリをインストールさせている。
この辺は現実世界流で近代的なんだな……。
それから俺のスマホにギルド専用のアプリがインストールされた。
アプリを開くと、冒険者ランクとステータス画面が表示される。
なるほど、これが『ギルド・カード』の役割を担うってわけだ。
ステータス画面のスキル項目に、美桜がお願いした《アイテムボックス》と《隠蔽Lv.1》スキルが習得されている。
そして、これまで未記入だった職業も初めて記載された。
やっぱり思った通りの結果だな。
職業:
それが俺の職業だ。
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