第11話 メインダンジョンの場所
何故か、いきなり結成されてしまった『マオト親衛隊』。
そのネーミング、もう少しなんとかならなかったのかよ……。
ところで何故、
いや案外、面白がって俺をイジる目的なのかもしれない。
……まぁ、どうでもいいや。
俺にとって中学生活は他人との交流はなくてもいいと思っている。
本番はあくまで高校生活――『野咲 杏奈』さんと同じクラスになった時だ。
まずは彼女と友達になって距離を縮めながら、いい雰囲気の時に告白する。
野咲さんが失踪してしまうクリスマス・イヴ前を目標として目指していた。
このままレベリングを続ければ、野咲さんを悲劇から守れる力を身に着けられる筈だ。
したがって、いくら金髪ギャル達に好意を持たれてもあまり嬉しくない。
けど考えてみれば、俺って同年代の女子と接したことはほぼないよな?
未来でも30歳で童貞だったし、
唯一接していたのは、姉の美桜と妹の清花くらいか……身内はノーカンだわ。
そう考えれば、今のうちに同年代の女子と交流を持つのもありか。
シミュレーションがてらにコミュニケーション能力を高める意味でも。
確か、野咲さんって大人しすぎて『コミュ障』ぽいところもあったし……。
俺は顎先に指を添え、「ふむ」と首肯した。
「わかったから、とりあえず教室から出ていってくれよ。もうじき授業が始まるし……たまにお茶くらいなら付き合ってもいいよ」
「きゃっ、やりぃ!」
「それじゃ日を改めてセッテングするね~」
「バイバイ、マオト~!」
明美と祥子と夏希の三ギャルは満面な笑みを浮かべ、はしゃぎながら俺に手を振って教室から出て行った。
シーンと静まる教室内。
なんだろう、周囲の視線を感じてしまう。
どうやらクラスの皆が、俺をより奇異な眼差しで見ているようだ。
ただでさえ、痩せて身形が変わり不審に思われているからな。
学校内はできるだけ目立たず過ごしていきたい。
「――幸城君、随分と変わったよね?」
ふと席に座っている俺に近づき、話しかけてくるクラスメイトの女子。
彼女の名は『
学校の女神と言われ、昨年では美桜と清花と三大女神と称えられている美少女だ。
腰元まで届く長い黒髪に大きな瞳、すっと通った鼻梁と形のよい桃色の唇といい、野咲さんに負けないほど整っている。スタイルも中学生と思えないほど発達し大人びていた。
久住さんは見た目だけじゃなく成績も優秀な優等生であり、男女問わず人気が高い。
クラスの学級委員長だけあり、お淑やかで面倒見が良い性格だからだと思う。
確か未来では、伊能市屈指のエリート高校である『白雪学園』に入学している筈だ。
そんな久住さんが俺のようなモブに近づいて、わざわざ声を掛けてくることは非常に珍しい。てか初めてだ。
「ま、まぁ……ね。が、頑張ってダイエットしたから、ね。ハハハ」
いかん。さっきのギャル達と違い、思いっきりカミカミで返答してしまう。
どうやら野咲さんと雰囲気が重なるから変に意識し緊張してしまうようだ。
「見た目だけじゃないよ。中身もかな……いい感じだと思うよ」
「い、いい感じ?」
「そう、女の子にも人気があるようだし……」
「やめて、久住さん……彼女達は俺を揶揄って遊んでいるだけだよ」
「ふ~ん、ならいいかな」
「へ?」
「なんでもない。またね、幸城君」
久住さんは、にっこりと微笑んで自分の席に戻って行った。
俺は「う、うん……」と返答しながら可憐な後ろ姿を見送る。
なんだろう……久住さんは何が言いたかったんだ?
「……幸城めぇ。少しイメチェンしたからって、久住さんに声を掛けてもらえるなんてぇ!」
「いや少しじゃねーよ。けど、あんなにデブってたのに短期間でどうやって痩せたんだ?」
「実は別人だったりして。あるいは異世界から帰還した的な? んなわけねーか?」
ああ、それ俺の姉ちゃんね。
しかしだ。
これまでクラスカースト最下位のモブで歯牙にもかけられていなかった俺が、いきなり女神と称される美少女から声を掛けられてしまうだけで、周囲の男達からえらく嫉妬を受けてしまう。
同級生の女子慣れする必要はあるけど、久住さんはある意味で異常に目立ちすぎる。
邪険にする必要はないけど、ある程度の距離を置いた方がいいかもな。
そんな感じで、すっかり激変してしまった学校生活を送りながら週末を迎えた。
いよいよ、ギルドに登録してメインダンジョンに挑む日となる。
だけど気になることもあった。
あれから俺のレベルが一向に上がらなくなったのだ。
いくら筋トレしても長距離を走っても全然変わらない。
不安が過るので、美桜に相談してみた。
「――《
「そうなの? だったら解除してくれよ……」
「今は駄目よ。せめてレベル30から40まで上げていかないと」
「どうして?」
「《
「つまり抑制を解除して、パワーアップする的な?」
「そっ。だから、ここぞの時に解除するのよ。手に負えない強力なモンスターや敵が現れたピンチの時なんかにね。時がきたら解除呪文を教えるから」
「わかったよ。俺は誰よりも姉ちゃんを信じる」
俺がそう返答した途端、美桜は頬に手を添えてくねくねと身悶えし始める。
やたら恍惚の微笑を浮かべ、本来の知的美人顔がすっかり破顔していた。
「真乙に言われると、お姉ちゃん嬉しい~! ねぇ今から焼肉食べに行こっか? それともケーキバイキング? お姉ちゃん、お腹一杯食べさせてあげるから~ん」
「いや、朝からかよ? リバウンドしたくないから家で朝食を食べるよ。姉ちゃんもその辺を意識してくれよ」
溺愛してくれるのは嬉しいけど、時に過剰すぎるのが難点である。
あまり変な誘いに乗ってしまうと、また未来の二の舞になるので、少し可哀想だけど毅然としなければならない。
どうやら、もう筋トレや運動だけではレベリングは難しいようだ。
やはりダンジョンに潜るしかないだろう。
それから準備を整え、いよいよ美桜と共に目的地へと向った。
美桜は普段のおしゃれ着にショルダーバッグと軽装だが、俺は『駆け出し冒険者セット』をリュックに詰めて背負っている大荷物だ。
おまけに自宅から結構な距離があり、路線バスを二本ほど乗り継いで、ようやく辿り着いた。
「姉ちゃん……ここって?」
「数十年前に閉鎖された『炭鉱』よ――ここから『
そう、そこは嘗て石炭鉱業こと『炭鉱』と呼ばれた鉱山だ。
戦後しばらくは盛んだったようだが、海外輸入や大人の事情で衰退し閉鎖に至ったと学んでいる。
俺はきょろきょろと周囲を見渡してみた。
高々と煉瓦が幾つも積み重なって造られた、広々として頑丈そうな外壁。
その中央には鉄格子の扉が設置されており、しっかりと太い鎖で縛られている。
まったく人気のない寂れた場所だ。
「しかし古びた刑務所みたいな場所だな……本当にここにギルドとメインダンジョンがあるってのかい?」
「まぁ、一般人には決して知られてはいけない場所だからね。少し待っていてね」
美桜はスマホを取り出し、アプリを開くと何やら打ち込み始めている。
「姉ちゃん、何しているの?」
「中に入れてもらうように申請しているのよ。タイムリープした私も異世界から帰還したばかりという設定だからね」
そういえばそうだったな。
やたら事情に詳しいのは、これまで姉が何度もタイムリープを繰り返してきた知識の賜物だからな。
「オーケー、申請できたわ。さぁ中へと入りましょう」
「いいけど、どうやって? それに、そのアプリはどこで入手したの?」
「普通にネットでアップされているわよ……っと言っても、“帰還者”しか入れない特殊サイトだけどね。今度、真乙にも教えてあげるわ」
美桜は言いながら鉄格子近づくと、手を翳してそこに。
すると正面から魔法陣のような呪文語で表記された幾何学模様の大きな門が出現する。
「この外観はあくまでカモフラージュよ。だから一般人には決して知られることはないし、入るのは不可能よ。仮には入りことができたとしても、その一般人は大変なことになるでしょうね」
「大変なことって?」
「ほら映画とかでよくあるじゃない? 黒装束の組織に捕らえられて記憶を改竄されるとか……あんな感じ」
「マジで? 俺、“帰還者”じゃないけど大丈夫なの?」
「真乙は私の眷属だからね。ギルドに取り繕えばどうにでもなるわ。まぁ、お姉ちゃんに任せて」
そこまで言うのなら従うしかない。
もう俺は後戻りできないし、するつもりもない。
ギルドに登録して挑んでやるぞ。
いざメインダンジョン――『
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