第2話 最初の試練
「それじゃ早速スキルを施すわ――まずは《鑑定眼》よ」
「鑑定眼?」
「自分や他人の力量を見る能力よ。真乙にわかりやすく言えばステータスね」
「ステータスか……やっぱり異世界にもレベルとかあるの?」
「ほとんどラノベやアニメと同じ世界よ。幾つか理由もあるけどね。あと無暗に他人のステータスを探らない方がいいからね。深入りも禁物よ」
「どうして?」
「深入りすると、おっかない人達に目をつけられるからよ。それこそ暴力団より怖い人達だからね……絶対に関わったら駄目よ」
やたら真剣な表情で言ってくる、美桜。
俺は素直に首肯した。
「だけど他人にスキルを与えられるなんて、まるで姉ちゃんが女神みたいだな?」
「そこは異世界を救った勇者様だからね。それに《鑑定眼》は異世界の冒険者なら誰でも獲得できる基礎中のスキルよ」
捕捉として、自分のステータスは隅々まで知ることができるが、他人のステータスはプロテクトが入りレベルや職業など基礎的な部分しか見ることができないのだとか。
美桜の説明は尚も続く。
「あとね、真乙の位置は『勇者の眷属』、主従関係は私の方が上になるわ。だから私だけ無条件で真乙のステータスを全て見ることができる――ここまでは理解した?」
「うん、わかったよ。つまり姉ちゃんが俺のご主人様になるってことだろ?」
「ご主人様……真乙に呼ばれると、お姉ちゃん、身体中が火照ってぞくぞくしてくるわぁ……きゃ」
やめてくれ……姉よ、弟相手にどんな性癖なんだよ。
果たしてこんな姉に委ねて、俺のセカンドライフは大丈夫なのだろうか?
俺の懸念を他所に、美桜は向き合いながら「それじゃ始めるわよ」と言って右腕を翳してきた。
【勇者ミオの名において、この者を従者として刻印を与えたもう――】
美桜の口から呪文語らしき言葉が詠唱される。日本語だが加工されたような声質で不思議な響きだ。
華奢な掌から魔法陣が浮かび上がり、生温かい不思議な何かが俺の額に注がれていく。
きっとこれが魔力なのだろう。
フッと魔法陣が消失し、美桜は腕を降ろした。
「――これで真乙は勇者の眷属となったわ。《鑑定眼》スキルも得たから確認してみなさい」
「わ、わかったよ……こういうのって頭の中で念じればいいんだよな?」
俺は言いながら、《鑑定眼》スキルを発動する。
目の前に何かが浮かび上がる。
半透明で小窓のような
視界には映るが現実には存在しない、仮想的な物体であることは確かだ。
おや?
姉ちゃん越しに何か文字が書かれているぞ?
【幸城 美桜】
職業:勇者
レベル:65
称号:
「ちょっと、私のステータス勝手に見ないでよねぇ、エッチ!」
「エッチって……ガチで姉ちゃん、勇者だったんだな。けど情報量が少ない気がする……MMOやRPGなんかじゃ、もうちょっと詳しく表示されるんじゃね?」
「そんなの見えないよう《
「なるほど、なんとなくわかるよ。レベル65って高い方なのか? 勇者だけに?」
「異世界ではレベル50以上で超一流の冒険者として扱われているわ。特に現実世界だとレベル70以上はいないとされているのよ。実際のお姉ちゃんのレベルはそれ以上だけど、現実世界では《偽装》スキルでいい感じにセーブして低く見せるように調整しているわ」
「どうして?」
「おっかない人達に目をつけられるからよ。本当のお姉ちゃんは、脱いだらもっと凄いんだからね」
何、着痩せするタイプみたいなこと力説してんの?
ナイスな両乳が実っていることは知っているけど。
けどわざわざ《偽装》するってことは誰かに配慮しているからだろうか?
さっき言っていた「怖い人達」とか?
「真乙、まずは自分のステータスを確認しなさい」
「どうやって見るんだよ?」
「鏡で自分の姿を見たり、手とか足を視界に入れても見ることができるわ」
美桜に言われるがまま、俺は自分の掌を眺める。
【幸城 真乙】
職業:なし
レベル:1
HP(体力):15 /15
MP(魔力):5/5
ATK(攻撃力):1
VIT(防御力):10
AGI(敏捷力):-10
DEX(命中力):2
INT(知力):3
CHA(魅力):-50
SBP:0
スキル
《忍耐Lv.10》《鑑定眼Lv.1》
称号:
何ともはや。
わかっていたとはいえ、どう見ても低すぎる。
けど
そりゃモテるわけねーし、30歳でも童貞だったわ!
しかし、防御力が二桁なのは意外だったな。
まぁ《忍耐》だかもレベル10だし、虐められていることと影響しているのかもしれない。
にしても称号だかが、「
ん?
「……姉ちゃん。SBPって何?」
「ステータスのボーナスポイントよ。レベルが上がる度にポイントを獲得して、任意で各パラメータに振り分けることができるわ」
つまり、この最悪なステータス数値を自在にステ振りして、自分を強化することができるってわけだな。
要は俺の努力次第で変われるということ――。
よし! まずは魅力値のマイナスから脱却だ!
せめて「野咲 杏奈さん」に出会う高校までに、なんとかしないと話にならないぞ。
マイナスじゃ靡くどころか眼中オブ・アウトだ!
「……ふ~ん。真乙ってタンク向きかもね」
美桜が俺のステータスを見ながら呟いている。
姉は俺の上司みたいな存在なので、全数値が筒抜けのようだ。
「タンクって? 聞き覚えはあるけどなんだっけ?」
「盾役よ。防御力に特化した職種ね。《忍耐》のスキルもLv.10でカンストしているわ……上手くいけば進化するかもね」
美桜の話だと、カンストしたスキルは条件を満たせば、稀に別の上位スキルへと進化するらしい。
よくわからない俺は「へ~え」と適当に相槌を打つ。
その直後、美桜は不意に俺の額に人差し指を当ててくる。
「姉ちゃん?」
「じゃあ本番いくわよ――《
指先を通して何かが俺の肉体へと注がれていく。
まるで高熱を帯びた鉛が血液に交わり、全体の隅々まで駆け巡る感覚。
それは細胞に至るまで浸透し侵されていった。
その直後だ。
ドスン! と、打ち抜くような衝撃が全身を襲う。
途端、立っていられないほどの重圧と激痛に見舞われた。
俺は耐えきれず膝をついて蹲り、姉の前で平伏す形で倒れる。
「あっ……がっ! か、体が……動かせない!?」
少しでも力を入れようとすると、激痛が全身に駆け巡る。
何もできやしない。言葉を発するだけでも一苦労だ。
「《
「じゃ、じゃあ……ど、して?」
「変わりたいんでしょ? 未来を――そのために頑張るのよ。大丈夫、《忍耐》のスキルがカンストしているから、ある程度は耐えられる筈よ。そうして耐えるほどレベルが上がり体も鍛えられる。そのうち普通の生活を送れるようになるわ。頃合いを見て解除してあげるからね」
美桜は俺にそう告げると、背を向けて歩き始める。
「……ね、姉ちゃん?」
「真乙、最初の試練よ。そのまま一人で歩いて帰ること……おねえちゃん、お家で待っているからね」
えっ、ええええぇぇぇ――――っ!!!?
大声を出せないので、せめて心の声で絶叫してみた。
──────────────────
【ステータスの概要と解説】
名前:本人の名。
職業:その者の職種、あるいは社会的立場など。
レベル:全ての判断基準値。
HP(体力):体力に反映。数値が高いほど長く生きられる。
MP(魔力):精神力に反映。数値が高いほど多くの高位魔法が連続して使える。
ATK(攻撃力):物理的の攻撃。筋力に反映。
VIT(防御力):物理的の防御力。丈夫さ、持久力、耐久力に反映。
AGI(敏捷力):素早さ。回避力。行動力。
DEX(命中力):器用さ、命中率、クリティカルヒット率、生産成功率。
INT(知力):魔法攻撃力と効力、魔法修得率に反映。
CHA(魅力):他者を魅了あるいは惹きつける力。内面のカリスマ性。また外見の容貌、ルックスに反映している。モンスターをティムする場合などにも影響する。
SBP:ステータスボーナスポイント。レベルが上がる度にポイントを獲得し任意で各パラメータに振り分けることができる。(獲得した数値を自在にステ振りできる)
スキル
・獲得した技能スキル。最高値でLv.10まで上げることが可能。条件を満たすことによって進化する場合もある。
ユニークスキル
・ギフトと呼ばれる異能力。潜在的に備わった固有能力に位置付けられ、唯一無二のスキルに位置する。
・効力が絶対的である反面、何かしらの制約がある。
称号
・一定の条件を達成すると獲得できる通り名。
・アビリティやスキルを補正される称号もある。
《その他、ルール》
レベルアップの決まり:レベルが上がるにつれHPとMPは自動的に上がる。その他、ATK~CHAのアビリティは【SBP】から任意でステ振りする必要がある。
レベルキャップ:レベルアップできる上限のレベルのこと。
個人の最大レベル値はLv.100までとされおり、現実世界においてLv.70がMAXとされている。
だが“帰還者”の中では無用なトラブルに巻き込まれないよう《隠蔽》スキルでレベルを偽り、また本来のレベル以上の強化を得る《レベルブースト》的なスキルも存在する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます