第38話 共闘


 世界的情報系大企業の誘致に、立地の有利さや税制面での優遇の約束くらいでは他地域との競合に勝てるはずがない。空港の整備などの目玉事業を据えた上で、その企業内部の人脈にアクセスするのは当然のことだ。当然のように、政木高のOBは、そういうところにもいる。

 杉山の考えは、当然そこまで考えてのものだ。


「そこで、『その人脈先に不機嫌になられるような冒険はしない方がいい』と誘導することはできるだろう。その花火に比べたら、我々の共学化の件など、バーター材料としては小さい小さい」

「なるほど。それはそうだ。そういう方向ならウチも動ける。産官学、学の方からも、な」

 杉山の笑いを含んだ声に、鈴村は頷く。


 そこで杉山は逆に聞いた。

「敷間女子高ではどう動いている?」

「あそこはOGがマスコミに強いからな。逆の意味での花火を先に上げちまうことができるかもしれないって動いている。例えばだが、『別学は面白い』ってどこかのニュースの一画ででも取り上げ方をされた直後に、共学化の花火は打ち上げにくいだろう。だから、これが実現するなら面白い。

 政木女子高ではどうだ?」

「あそこは医療系に強い。医師会とかは、社会の中の一大勢力だ。あとは文化芸術系の家元とかだな」

「……なるほど」

 そう鈴村は頷いた。



 ※

 生徒会ともなれば、財界の重鎮のOBに飯を食わしてもらうこともある。それで、伝手と視野を手に入れるのだ。

 そして政木女子高は女子校ながら、やたらと質実剛健な校風である。進路にもそれは現れている。OGにきらびやかな著名人が並んではいない。そういう意味では地味なのだが、地域に張った根は果てしなく深いのだ。つまり、票を動かすという意味では最強なのだっ。



「それで、だが……」

「……言いたいことはわかる。俺たち自身がどうするか、だな」

「では、政木高の現役としては、どうするつもりだ?」

「とりあえず、アメリカまで近々に誰かに行ってもらうことを考えている。向こうの情報企業の人脈に、高校の後輩というのは下手な人脈よりも入り込みやすい」

「その話は、小さく言っているな。実はもう、誰がいつ行くかも決まっているのだろう?

 力のある教職員の協力も得ているはずだ」

 鈴村の問いに、杉山は曖昧に笑った。肯定以外のなにものでもない。


 小桜の脳裏には、さっき話した「皇帝」の顔が浮かぶ。

 どこまで関わっているかはわからないが、「皇帝」がこれらのことを知らぬはずがない。


「敷間高も留学含めて制度があるだろう?」

 杉山の問いに、鈴村は少し渋い顔になった。

「そうだな。ただ、さすがに今回は間に合わないし、ウチのOBは国内が多いからな。とはいえ、俺たちが今レールを引いておかないと、次代の連中が可哀想だ。

で、その他には?」

 鈴村の問いにも容赦がない。


「まぁ、保護者や地域に頼った活動しかできることはない。3年生は受験だしな。あと、ウチはこれから『青藍祭』一色になる。敷間高は隔年だが、ウチは毎年なんだ。だから、その機会も逃さず使う。とにかく、政木女子高も隔年で、今年、4校での意志を表す場はウチの『青藍祭』と敷間女子高の『光彗祭』しかない。だから、とにかく敷間高の生徒には来て欲しい。4校が連携していて、その参加者があまりにも多いということになれば、地元紙に載せるよう働きかけられる。我々の連携と、それが知られること自体がプレッシャーになる」

「なるほど。それには全面的に協力しよう。敷間女子高側にも伝える。『光彗祭』にも来てもらえるんだよな?」

 これは言わずもがなの確認である。


「当然だ」

「わかった。機会が2回あるというのは大きい。地元紙のデスクを父兄に持つ生徒がいる。もちろんその父兄もOBだ。両方とも取り上げてもらえるよう、働きかけよう」

「よろしく頼む」

杉山の声に、鈴村は頷き続けた。


「あとは、そちらの『青藍祭』に遊びに行くだけではつまらない。なにか、こちらでもアピールさせろ」

「田中、どうだ?」

 そう杉山に問われた生徒は頷いた。


「青藍祭実行委員長の田中だ。体育館ステージ使用はもう埋まっている。だが、校庭でのパフォーマンスであれば可能だ。天候は心配だが、今まで当日に降った例はほぼない。電源使用等、早急に要望を出して欲しい」

「わかった。それに加えて聞いておきたいが、政木の駅前は近頃ミュージシャンが多いな。あそこでのパフォーマンスの許可はどうなっている?」

「……市有地なら市役所か、道路なら警察か、よくはわからない。我々の市内宣伝は道路に立ち止まらないので、許可までは取ってないんだ」

「わかった。こちらで聞くが、口裏は合わせてくれ。ど派手なパフォーマンスで、観客ごと駅から政木高の校庭に雪崩込んでやる。さっきの提案のとおり、血を見ない方法というのをこちらなりに徹底してな。まぁ、こちらとしては、ちょうどいいガス抜きだ」

 鈴村の声に、敷間高側の生徒が頷く。


 おそらくは今の提案は、鈴村の個人的なものではあったのだろう。だが、敷間高も政木高と同じく、いやそれ以上にその場のノリに乗るというノリの良さを持っているに違いない。


「文化祭が隔年だと、1度しか経験できない学年が出るということ。こういう機会があるなら、踊らなければ損だ」

 そう声があがり、その場の敷間高側の誰もが頷いた。


「よし、我々ができることはこんなところかな。他にも意見はあるか?」

 鈴村の言葉に、小桜は再び小さく手を挙げた。

「今度はなんだ?」

 鈴村がそのまま聞く。


「私ではなく、同じクラスの友人がこの場にいたら絶対に言っていたことです。別学の意義をまとめ上げ、4校の共通認識としておくべきです。特にマスコミを巻き込むとなれば、誰かがインタビューを受けるかもしれません。そこで破綻したら、敵の思う壺になりかねません」

「……それはそうだな」

 鈴村は頷いた。


「これについては、さまざまな考えがある。3日を目処に4校で早急に案を出し合い、1週間を目処に1つのものにまとめておくべきだろう」

 と、これは杉山が言う。


「理論武装の共有化だな」

 敷間高側の誰かのつぶやきに、全員が深く頷いた。

「両女子高に、それぞれの生徒会から話を通す。まとめはどっちがする?」

 鈴村の問いに杉山が答える。

「ウチだ。文化祭が絡む以上、ウチでまとめる」


「わかった。お願いする」

 そこで、大きな歓声が校庭から響いてきた。

「ラグビー、政木の勝利」

 LIMEで情報が流れたのだろう。誰かがそう報告し、それを受けた鈴村は宣言した。

「今年は、綱引きと玉入れ、両方とも敷間が取る」

「言うだけなら、うん、口先だけなら可能だな」

 杉山が言い返し、部屋の中に一気に緊張が走った。

 やはり今日は、戦いの日なのだった。


 ※

 小桜、なんだかんだい言って、存在感を示すことができたのだ。そして、この場にいない仰木の代弁もした。

 1年生としては、いい仕事をしたといえるのではないか?

 そして、敷間高のど派手なパフォーマンスとはなにか?

 次話、「勝敗」。定期戦に決着が付くのだ。



あとがき

もう一度言います。このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

関係ないったら関係ないのですw

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る