異種族交流編
第29話 ある場所での出来事
大陸中央を横断する様に険しく聳え立つ山脈。
魔族や人間はクルール山脈と呼ぶその山脈の一角には巨大な横穴が存在した。
其処には青白く輝いた鱗を持つ、強大な力を持つこのクルール山脈の主が居る。
口からは鋭い牙が生え、背中からは身体の倍近くは大きな翼を生やした存在。
ここでは無いある世界の者ならば、その姿を見てこう呼ぶであろう。
所謂、竜(ドラゴン)と。
その四足は、巨体を支えるに相応しく太く逞しい。
腕よりも太い尻尾は、振るえば木ぐらいあっさりとへし折れそうだ。
その竜(ドラゴン)は己の巣としている、横穴の中で身体を丸めながら目を閉じていたが、ふと己の巣へと入り込む何者かの音を感じて目を開ける。
その侵入者の姿を確認すると、愉快そうに口角上げて言葉を発した。
「何じゃお主か、ここに顔を出すのは久しいではないか」
「偶にはジジイの顔でも、見ようと思ってな。 何時くたばるか分からんしな」
「此奴め、抜かしおるわ」
そう言って竜(ドラゴン)は愉快そうに笑う。
己の巣へ侵入してきたのは、赤い燃え盛る様な毛並みを持つ獣であった。
フランマウルフと呼ばれる獣の一種だが、竜とは知らぬ中では無かった。
普通の生き物ならば、恐怖を感じて横穴に近づく事すらない。
だが、そのフランマウルフは恐れる事もなく、竜(ドラゴン)へと近づく。
「良く来たな、と言いたい所だが、一体どうしたのだ? 此処に顔出すのは、面倒とか言っておったで無いか?」
まるで久しぶりに帰って来た、放浪な息子に小言を言う様に竜(ドラゴン)は声を掛けた。
その竜(ドラゴン)の様子に、素知らぬ顔でフランマウルフは答えた。
「なあに、少し話をしに来ただけだ」
「話とな?」
不思議そうな声でそう言い、竜(ドラゴン)は身体を起こす。
フランマウルフは既に竜(ドラゴン)目の前まで来ていた。
そして、竜(ドラゴン)の目を射抜く様に見ながら、声を出す。
「お前が言っていた魔王が現れたぞ」
その言葉を聞いた瞬間、竜(ドラゴン)の身体を電流の様な衝撃が走った。
身体に生える鱗の全てが、細かく震えた。
歓喜、驚喜、狂喜。
その心中に浮かぶ感情は、喜びに満ちていた。
「そうか、発信者(プロフェシー)の予言の時が、ついに来たか……それで、魔王様は何処に?」
「何やらエルフと共に居たぞ、魔王もエルフと同じ姿をしていたが、匂いがまるで違ったわ」
「そうか……発信者(プロフェシー)も新しい魔王様は、エルフと同じ姿をしていると言っておったな」
「それに、魔王の周りには、これまで見たことない程エルフが多く居た。 全員、我の眷属を倒すほど強かったぞ」
「なるほどな……だがお主、もしかして魔王様と戦ったのか?」
「まあ戦ったのは、偶然だ。 むしろ戦ったからこそ、其奴が魔王だと気付いたのだがな」
「そうか……まあ、お主らしいが……して、確認だが名前の方は?」
「あぁ、其奴は自分のことをアニマキナと言ったぞ」
「……全て予言の通りか」
そう言って竜(ドラゴン)は感慨深そうな表情をして、大きく翼を広げた。
その様子を見て、フランマウルフはさらに言葉を続ける。
「此処へ来る前に湖の方に寄ってみたが、樹人族(トレント)と水人族(イプピアーラ)が増えて居たぞ。 恐らくその魔王がやったのだろう」
「もう継承の儀……いや、魔族を本来在るべき姿へと導いていらっしゃるのだな……」
「それに、我が魔王と会った場所の先には、小土族(ノーム)の群れが在るはずだ。 魔王は、そこに向かっていたのだろうな」
「そうか……何もかもがもう始まっておるのだな」
「ディアラト、貴様はこれからどうするのだ?」
「もちろん魔王様に、お会いせねばならぬ」
竜(ドラゴン)は、そう言って顔を上げる。
そして、ふと、何処か遠くを見るように目線を固定した。
暫くそうしていたが、顔をしかめて首を振る。
「今、発信者(プロフェシー)から、声が聞こえてきおったわ」
「ほう、予言とやらを伝えてくる奴か? 何と言っておるのだ?」
「あぁ、会うのは三ヶ月先にしろと。 ちょうどその頃にこの地に住まう魔族達の祭りがあるから、その時が良いとな」
「なんだそれは?」
「分からぬが、ワシも少し人間の国に用が出来たから、丁度良かったかもしれん」
そう言って竜(ドラゴン)は横穴の出口へと向かう。
そして横穴から出るとその大きな翼を広げた。
フランマウフルもそれに伴い横に並ぶ。
「では、ワシは暫く人間の国へと向かう。 その間、この森のことは主が面倒を見よ」
「我がか? 眷属達には自由にさせてやりたいのだが?」
「それは構わぬ。 だが、あまり魔王様に迷惑を掛けぬようにしろ」
「……まあ良いだろう」
竜(ドラゴン)は、フランマウルフの言葉を聞いて満足する様に頷くと、翼をばさりと広げる。
そして翼で何度か羽ばたいて、空へと飛んだ。
そのまま暫く旋回してた後、山脈の向こう側へとその姿を消した。
フランマウルフはその様子を暫く見ていたが、森へと視線を戻し、ゆっくりと竜(ドラゴン)の居た横穴を後にした。
そして、ふとある場所へ視線を移す。
視線の先には、丁度、彼らが魔王と言った人物が居る小土族(ノーム)の村が、かなり小さくだが見えた。
だが、直ぐに森へと視線を戻し、その森へとフランマウルフは駆けていくのであった。
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