第24話 VSフランマウルフ1
「カバルは左を! ボランは右だ! 俺は真ん中の奴を討つ!」
「任せろ!」
「こっちも大丈夫だ!」
そう言って三人の森人族(エルフ)は引き絞った矢を放つ。
放たれた三本の矢は三匹のフラマンウルフそれぞれの体に突き刺さった。
「ギャイン!」
「まだ来るぞ!」
「そっちに一匹行った!」
「分かっている!」
「くそっ! こいつら速いぞ!」
三匹のフランマウルフは転がるように倒れたが、まだ七匹もいる。
ナイル君達が放った矢が開戦の合図だったのか、他のフランマウルフも動き出した。
それを見た、ナイル君達は素早く次の矢を番えると次々と矢を放つ。
最初の矢は不意打ちだったから当たったのであろう。
その後の矢は、素早く動くフランマウルフ達には中々当たらない。
「グルァ!」
「ぐっ!」
「カバル! 大丈夫か!」
「大丈夫だ! そっちに集中しろ!」
「ギャン!」
矢の間を抜けてきた一体のフランマウルフがカバル君の足へと噛み付いた。
苦悶の表情を浮かべるカバル君だったが、手に持っていた矢の先を噛み付いたフランマウルフの目へと突き刺した。
目に直接矢を突き刺されたフランマウルフは、カバル君の噛んでいた足を離した。
そのまま、目から血を流しながら後ろへ下がる。
仕留めることは出来なかったが、あの傷では直ぐには襲っては来ないだろう。
実質、残りは六匹になった。
「グルァ!」
「ぐぅ!」
「カバル! 下がっていろ! その傷じゃあそれ以上は無理だ! ボラン、援護しろ!」
「分かった! カバル! こっちだ!」
「ナイルッ! ボランッ! すまん!」
カバル君が足から血を流し、動きが鈍った所に別のフランマウルフが追撃して来る。
そこにナイル君が矢を放ち、それに警戒したフランマウルフは後ろに飛び、矢を避けた。
この少し時間を稼いだ間に、ボラン君がカバル君の肩を担いで俺達の所に来る。
「オキシー! カバル君の手当を!」
《了解しました。 カバル様、傷をお見せ下さい》
「オキシー様……ありがとうございます……」
「ヒー! あいつらを近づけるな!」
「グキャアァ!」
「グゥルルル……」
弱ったカバル君に更に三頭のフランマウルフが襲い掛かろうとする。
俺はヒポグリフのヒーにランマウルフ達へ牽制する様指示を出す。
吠えるような鳴き声を発したヒーに、フランマウルフ達の動きが止まる。
ヒポグリフとフランマウルフには体格差があるおかげで奴らは警戒してそれ以上近づけないようだった。
そしてこちらに避難したカバル君の足には牙が食い込んだ事により、血が痛々しく流れていた。
思っていた以上に傷は思っていた深そうだ。
焦った俺は、オキシーへ叫ぶ様に容体を聞く。
「オキシー! どうだ!?」
《このぐらいの傷ならば直ぐに治療すれば大丈夫です》
「ハイドラ様……オキシー様……すみません」
「カバル君、謝らなくていい……とりあえず、今は安静にしてて」
「私も少しは治療ができるわ! 魔力の補充は任せて!」
《分かりました、では私はカバル様の自己治癒力を高める魔力操作を行います》
「分かったわオキシー!」
ヒーリィさんがそう言ってカバル君の足に小さな純魔力の塊を流し込む。
そしてそこにオキシーが光を当てている。
前にグリフを治療した時と同じ様に、カバル君の足から流れていた血は直ぐに止まった。
「血が止まったわ! カバル君、大丈夫!?」
「ヒーリィ様……ありがとうございます……」
《傷は塞ぎましたが血を少し流しすぎています。 暫くは安静にしていて下さい。 ヒーリィ様、そのままゆっくりと魔力を流し続けて下さい》
「分かったわ、オキシー!」
ヒーリィさんとオキシーはそう言って、カバル君を治療を続けている。
こっちはどうやら大丈夫そうだ。
ヒーが三頭、そしてナイル君が一頭引きつけていることで、こちらへの注意は薄れている。
そして残りの二頭はアインス君達の方へと駆けている。
「アインス君!」
「こちらは大丈夫です!」
「私も戦います!」
「……来るなら来い」
アインス君は木を削って創ったであろう杖をフランマウルフへと向ける。
そしてツヴァイちゃんは持っている銛を、ドライちゃんも腕から地面に着くほどの長い蔓を出して襲撃に備えていた。
アインス君から、魔力操作術による魔力の流れを感じたと思うと、杖の先からは風を切るような音がした。
杖からは人丈ほどの大きさの竜巻が発生し、竜巻はそのままフランマウルフへと向かっていく。
「キャイン!」
「ギャフ!」
竜巻は二頭のフランマウルフを吹き飛ばす。
二頭はそのまま地面へと叩きつけられて倒れ伏す。
「アインス殿! 流石です!」
「……流石です」
「二人は危ないから下がっていなさい!」
アインス君に賛称の言葉をかけるツヴァイちゃんとドライちゃん。
しかしアインス君にはそれに答える余裕は無さそうであった。
怒鳴るように二人を自分の身体隠すように前に出たアインス君はそのまま、杖の先をフランマウルフへと向けて警戒する。
そして体制を立て直したフランマウルフは、一旦息を吸い込んだ。
その時、奴から僅かな魔力の流れを感じた。
その魔力はフランマウルフの口に集まったかと思うと、奴の顔ほどの大きさの火の玉がその口から飛び出してきた。
そういえば、コイツら火の魔力操作術を使うんだった!
「ガァア!」
「アインス君! 危ない!」
「大丈夫です!」
俺の叫びにそう答えたアインス君は、魔力操作術を使い、風の刃を発生させてフランマウルフへとその刃を高速で飛ばす。
そしてその風の刃はフランマウルフの出した火の玉を切り裂く様にかき消す。
フランマウルフはその事に一瞬驚き硬直したのか、その風の刃を避ける事もできずに胴体に受けた。
「「ギャン!」」
「良し! こっちの二頭は仕留めたぞ!」
二頭のフランマウルフは胴体を分たれて、そのまま地へと伏す。
地面へ流れる血の量から、まず即死であろう。
しかしアインス君いつの間にか、かなり魔力操作術が上手くなっている。
進化したばかりの時は、そんな風の刃など作る事など出来なかったはずなのに……。
先程の竜巻といい、どうやらアインス君には風の魔力操作術の才能があるようだ。
「グガァア!」
「ギャイイン!」
「ギャン!」
「グルァ!」
アインス君の奮闘に触発されたのか、こちらではヒーが三頭のフランマウルフを蹴散らしていた。
一頭は嘴で咥えて放り投げられ、二頭は前足の爪により引き裂かれている。
流石に体格差がある為、こちらは問題無く対処できているようだ。
そして最後の一頭と対峙していたナイル君だが、指の間に三本の矢を持つと、素早く矢を三本連続で放った。
「そこだ!」
「ギャン」
そう叫んだナイル君の放つ矢は、一射目をフランマウルフは避けられたが、次の二射目の矢は避けれず足に当たる。
そして、最後の三射目の矢は眉間へと突き刺さった。
狩で培った技なのだろうか、一射目をフェイントに使い、二射目で動きを止めて、三射目で止めを刺すという神技のような攻撃だった。
これで全部のフランマウルフを仕留めることが出来た。
「オキシー! カバル君は!?」
《問題ありません。 傷も自己治癒力の範疇なので、一日程休めば、問題なく歩けるでしょう》
「そうか……良かった」
カバル君の怪我も問題なさそうだ。
後はあの最後の大きなフランマウルフか……。
そう思ってグリフの方を見る。
「ガルァアアアアア!」
「グルァ!」
二頭は互いに牽制していたが、こちらの全滅したフランマウルフ達を確認した巨大なフランマウルフは苛立った様にグリフへと襲いかかる。
グリフも負けじと嘴で応戦したが、一瞬反応が遅れたのか、グリフの胴体へ巨大な顎門が突き刺さる。
「グルルルァ!」
「ガルル!」
「まずい! グリフ! 一旦離れるんだ!」
グリフの身体から噴き出る血を見て叫ぶアインス君。
フランマウルフの牙から逃れようと必死に身体を捩るグリフだったが、食い込んだ牙を中々離そうとしないフランマウルフ。
荒ぶる二頭により土埃が周辺に舞う。
「くそ! グリフを離せ!」
「グルァ!」
アインス君はそう叫び、フランマウルフへと風の刃を飛ばした。
フランマウルフはその風の刃に反応したのか、牙をグリフから離して後ろに飛ぶと、こちらを警戒するように唸り声を上げた。
「グリフ! 大丈夫か!?」
「グルル……」
俺はそう叫ぶが、弱ったようなグリフの鳴き声が聞こえた。
グリフの胴体からは先程の咬み傷により、大量の血が流れている。
あの出血はまずい!
「ガァアアアアアアアアアア!」
巨大なフランマウルフはそのグリフの様子に笑うように口角を上げると、大気を揺るがすような恐ろしい勢いで吠えた。
このままでは、グリフが危ない!
そう思った俺は、咄嗟に魔力操作術により、奴の身体の大きさと同じぐらいの大きさの水玉を発生させる。
そして発生させた水玉を、そのままフランマウルフへと飛ばして叫ぶ。
「この野郎! グリフからとっとと離れやがれ!」
「ガルァ!?」
その水玉の大きさと俺の声に驚いたのかフランマウルフは先程より大きく後ろへと飛び、俺達と更に距離を開ける。
当たらなかった水玉は木を薙ぎ倒しながら、森の中へと抜けていった。
クソ! アイツの反応が早いせいで、俺の大技は当たりそうにない。
フランマウルフは俺へ顔を向けると、そのまま視線を固定した。
どうやら先程の巨大水玉のせいで、俺への警戒が強まった様だった。
コイツ……この慎重さといい、明らかに他のフランマウルフと違う。
そう感じたのは俺だけでは無かったようだ。
アインス君も杖の先を奴に向けてはいるが、顔に緊張の色を滲ませる。
ナイル君とボラン君も油断なく弓を引いてはいるが、焦ったように顔から汗を流している。
グリフは、身体から血を流して今にも倒れそうであったが、ヒーが隣に寄り添い二頭で威嚇する。
そうして俺達とフランマウルフは暫くの間睨み合いを続けるのであった。
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