第16話 ニンフさん達との交流

 眩いほど輝く、青く美しい湖。

 広すぎる湖は海と変わりないと思う。

 まあ、湖は淡水なので、海とは明らかに違うのだが……。

 それでも目の前に広がる、圧倒的な水量を見て、そう思うのは仕方が無いと思う。

 あのヒポグリフを助けるという、感動の出来事を終えた俺達は、漸く小木精族(ニンフ)さん達の村があるという湖へと着いたのである。

 ここに来るまでの道中、アインス君にはこっぴどく叱られた。

 曰く、危険なことはしないでください! から始まり、帰ったらヒーリィ様からも叱ってもらいますから! と言われ、湖へと出るために歩いていた時間、ずっと怒られていた。

 俺は「ハイィ……」と、頷く機械となり、その説教を聞いていた。

 まあ、俺、兵器だし?

 機械なのは、ある意味間違いでは無いのだが……。

 そうそう、水が青く見えるのは、水って赤色の光を吸収して青い光を分散するからなんだそうだ。

 昔、学校で三角の水晶に細い光を横から当ててから、角度を変えることで、プリズムによる光の分解が起きる実験をしたことがある。

 光は複数の色の光が合わさって白色の光になる。

 このうちの赤色の光は水が吸収し、残りの青色はそのまま分散されるから水は青く見えるのだ。

 そしてその青さは、水の深さに比例して濃くなるということだ。

 つまりこの湖の青さから察するに、相当な深さの湖ということだ。


「やっと着いたな。 小木精族(ニンフ)さん達ってどの辺りにいるんだ?」

「もうあそこに見えますよ」

「んん?」


 そう言って一方を指差すナイル君。

 目を細めてその指の先を見ると、思っていたより近い場所に、船橋らしきものと小さな船が見える。

 さらにその周りには小さな家が点在している。

 森から出る場所が良ければ、直ぐに村に入れると思われるが、俺たちが出た場所は村から少しズレていたようだ。


「おぉ! 本当に村だ! しかも船もあるんだな!」

「えぇ、あの村には小水精族(アプサラス)も数人住んで居ますから。 小水精族(アプサラス)が湖に漁に出て魚や貝を取る。 それを私達の村で採れる野菜や、アププの実と交換したりしています。 それに小木精族(ニンフ)が作るキノコの干物も良い味をしておりますよ」

「ほーん、結構普通に交流してるんだな。 今日、沢山食料持って来てたよね? それも物々交換でもするの?」

「いえ、以前は私たちの村もそんなに余裕はありませんでしたが、今は皆、狩も上手くなりましたし、森の食べ物も沢山取れるようになりましたから。 今回運んで来た食料は、交換でなく手土産として渡しても良いでしょう」

「そうか、喜んでくれるかな?」

「アププの実は間違いなく喜ばれるでしょう」

「そりゃ楽しみだな!」


 そんなことを言いながら歩いていると、村の入り口に着く。

 エルフの村にもあった簡単な柵がこの村でもある。

 その入り口に立つと、アインス君は声を上げた。


「フェルトの村より、村長の代理で参ったアインスと申します! ネルケの村の村長にお会いしたい!」


 そう叫ぶように言うアインス君。

 というかあのエルフの村って、フェルトっていうのか、今さらながら知った。

 そしてここはネルケの村というらしい。

 するとその声を聞いて、村の奥からぞろぞろと俺の腰ぐらいの高さの、子供のような人達が出てきた。

 皆、体に木の枝のようなものを巻きつけている。

 その中の数人、体に鱗のようなものが付いた人もいた。

 彼らがアインス君の言う小水精族(アプサラス)さん達だろうか?

 そして俺たちの姿を見て、一様に驚く。


「お、おいエルフだぞ!?」

「エルフ様がこんなに沢山!?」

「フェルトの村のエルフ様は、ずいぶん前に亡くなられてなかったか?」

「おい! 誰か村長に連絡してくれ!」


 そして以前にも見たことがある光景が、そこには繰り広げられていた。

 やっぱりこの人たちも、なんか小ちゃいな。

 俺はそんな失礼なことを思いつつその光景を眺めた。

 そうして俺はエルフとは別の種族と出会うのであった。




「いや、驚きましたのじゃ! フェルトの村のエルフ様が亡くなられて、随分経ちましたからの! まさかこんなに沢山のエルフ様が、フェルトの村に生まれていたとは思いもせんかったのじゃ!」


 あの後、俺たちは村の中で一番大きな家に案内された。

 そこに居たのは、まさしくおじいちゃん! と言った風貌の人が居た。

 他の小木精族(ニンフ)の人と違って、身長はアインス君と同じくらいだ。

 だがその身体の節々からは、木の幹のようなものが絡み付いているのが見える。

 そのおじいちゃんは、好々爺といった風体で俺達に話しかけてきた。


「いえ、私達はここにおられますハイドラ様より、継承の儀を受けてエルフに進化した者で御座います」

「なんとっ! そんなに多くの者に儀を授けて大丈夫なのですか……?」

「え!? いや、全然大丈夫でしたけど……?」

「なんとっ! なんとっ!」


 そう言って驚くおじいちゃん。

 なんか誰かに会うたびに、驚かれてない俺?

 大丈夫もなにも、一人当たり三十分の一程度の魔力で大丈夫でしたが……?

 しかも、俺の魔力は時間が経つごとに増えている気がする。

 今なら多分、五十分の一程度の魔力で小妖精族(ピクシー)を森人族(エルフ)に進化できる気がするんだよな……。


「ええ、そして今フェルトの村の小妖精族(ピクシー)は全員、森人族(エルフ)へと進化致しました。 全てこちらのいらっしゃる、ハイドラ様による、継承の儀によってです」

「……それは真でございますかえ?」

「事実で御座います」


 そんな会話をしている、おじいちゃんとアインス君。

 アインス君はなぜか誇らしげだ。

 その様子を、どこか羨ましそうに見るおじいちゃん。

 俺が、それを不思議そうに見ている視線に気づいたのか、こちらを見て笑顔を見せる。


「ほっほっほ、これは失礼致しました。 儂の名前はサルファーと申しますじゃ。 見ての通り樹人族(トレント)ですじゃ」

「え!? 小木精族(ニンフ)じゃなくて?」

「おや?」


 そう言って驚く俺を、不思議そうに見るサルファーさん。

 あれ?

 ここって小木精族(ニンフ)の村じゃなかったっけ?

 そう思って、アインス君を見る。

 アインス君はこちらを見て、説明してくれた。


「私達が小妖精族(ピクシー)から森人族(エルフ)に進化する様に、こちらの村の方も、小木精族(ニンフ)から進化して樹人族(トレント)となる方達です。 この村長も、おそらく先代より継承の儀をお受けなられて、進化したのでしょう。 現在この村の唯一のトレント様と父から聞いております」

「ほーん、そうなん?」

「ええ」


 その会話を不思議そうな顔で見ていたサルファーさんは、疑問をぶつけてきた。


「あの……失礼で御座いますが、ハイドラ様はこの森のエルフ様では無いのでございますか?」

「え!? いやぁその……」


 どう言ったらいいのか……。

 こんな時はオキシーの出番か?

 そう思って、オキシーを見る。

 オキシーは了解したと言わんばかりに、いつものくるりと一回転をして説明する。


《ここいるハイドラと私、そして今はフェルトの村に居ます、ヒーリィ様はエルフ……延いては魔族の方達を探して旅をしておりました。 そして旅の途中で、ここいるアインス様の小妖精族(ピクシー)の村へ辿り着いたのです》

「なんと……」


 さすがオキシーさん。

 こんなそれっぽいことをスラスラと述べるのは、俺には無理だな。

 サルファーさんは、喋る球体のオキシーに驚いていたが、その話を聞いて考える様な仕草をする。


「ということは、ハイドラ様はクルール山脈を、超えて来られたのですかな?」

「クルール山脈……?」

「おや? てっきり、あの山脈を越えて来られたのかと思ったのじゃが……あそこには知恵ある竜、ディアラト様がおられますからな。 我々、魔族の守護者である、ディアラト様のお力で山脈を越えたと思ったのじゃが、違うのですかな?」

「ディアラト……様?」


 クルール山脈?

 ディアラト様?

 また知らない単語が出てきたな……。

 不思議そうにしているサルファーさんにオキシーはさらに話を続ける。


《サルファー様、私達はこの辺りの事に無知なのです。 この森の事や、その山脈の事を教えていただけませんか?》

「おぉ、そうなのですな。 では、儂が知る限りをお教え致しましょう」

《お願いします》


 くるりと一回転するしてそう言うオキシーに、サルファーさんは頷く。

 なんだかんだと、俺がこの世界に来てから大体二週間は経った。

 初めて会ったオキシーやヒーリィさんは千年以上、洞窟の奥の地下にある施設から出てないから、この森の事は分かるはずない。

 アインス君の村では、ずっと精神を削られていた為、この森の事を聞くのをすっかり忘れていた。

 だが、ようやく俺はこの森の事を、少し知ることが出来るようなのであった。

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