第13話 村での出来事
「こっちだよハイドラ様!」
「お、おう」
「ヒーリィ様もこちらです!」
「え、ええ、ありがとう」
「オキシー様、浮いているのすごい!」
《ありがとうございます?》
あれから俺は小妖精族(ピクシー)の二人を連れて、ヒーリィさんとオキシーと合流した。
小妖精族(ピクシー)の二人はヒーリィさんを見て、エルフ様が二人も! と驚いていた。
そして浮かぶ球体であるオキシーを見てさらに驚愕していた。
ヒーリィさんは、俺が居なくなった事に気づき、めそめそと泣いていた。
オキシーが慰めるようにその周りを回っていたが、戻って来た俺を見るや、勢いよく抱きついてきた。
そして、家出は早いやら、反抗期も早いなど耳元で呟いていた。
俺はそれを聞いて、またしてもガリガリと精神が削れていった。
合流すると、小妖精族(ピクシー)の二人は、俺たちを住んでいる村へと案内してくれると言うので、お言葉に甘えて、移動している。
「しかし小妖精族(ピクシー)って、そんな人種? 魔族か分からんけど、そんなのがいるんだな」
「私も聞いたことが無いわねぇ……」
「え!? そうなの!?」
俺たちの手を嬉しそうに手を引いて前を歩く二人を見て、俺たちはそんな会話をしていた。
ヒーリィさんが知らないなら、魔族じゃない?
でも、この尖った耳と顔は、小さなエルフにしか見えん。
村に行けば大人も居るというので、普通サイズのエルフも居るのだろうか?
「二人の村の大人って、俺たちより大きのか?」
「んーん? 僕たちより、ちょっと大きいくらいだよ! ハイドラ様!」
「えぇ……ますます分からん……」
「そうねぇ……」
俺達の疑問は益々深まるばかりだった。
元気よく歩く二人に連れられて、しばらくすると、森の中に木で出来た柵のようなものが見えた。
そして入口らしき場所の近くに居には誰か居。
小妖精族(ピクシー)の二人に似ているが、少し大きい男女が居た。
それを見た二人は俺たちの手を離して、勢いよく走っていった。
「お母さん! お父さん!」
「え!? アインスにフローリン!?」
「お前達!? アププの実を取りに行ったきり、帰ってこなかったから心配したんだぞ!」
「うん! アププの実を食べてたんだけど、フランマウルフに襲われちゃって……」
「フ、フランマウルフ!?」
「そ、そんなフランマウルフなんて森を抜けた先の草原にしかいないはず……」
「二人とも怪我は!?」
「大丈夫だよ! ハイドラ様が追い払ってくれたから!」
「ハイドラ様?」
そこまで言って二人はこちらを指差した。
親であろう男女の小妖精族(ピクシー)はこちらを見る。
そして驚愕した表情を見せて叫んだ。
「エ、エルフ様!?」
「エルフ様が二人も!?」
その叫び声を聞いて、ぞろぞろと柵の奥から同じような身長の小妖精族(ピクシー)が二十人ほど出てきた。
そして一様に驚き、跪いて祈りを捧げる者までいる。
えぇ……何その反応?
そんな村の人達の様子を、俺達は呆然と見つめていた。
◇
「カブーラの葉を煎じたお茶ですが、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「ヒーリィ様も、どうぞお寛ぎください」
「えぇ……ありがとう……」
《私はこの通り、口がありませんので、必要ありません》
「そ、そうですか」
俺たちは村の集会所のような場所で、腰の曲がった小妖精族(ピクシー)の方の接待を受けていた。
この村の長老らしいその小妖精族(ピクシー)は、俺たちを崇めていた人の一人だ。
というか俺って、飲み物とか食い物とか食って大丈夫なのかな?
後でオキシーかヒーリィさんに聞いてみよう。
とりあえず飲むフリだけして、格好を崩す。
その様子を見て、ホッとした様子で長老は話しかけて来た。
「お二人はエルフの方でございますね?」
「え!?」
「え? ち、違うのですか?」
そう言って驚く俺に、さらに驚いた表情する長老さん。
俺はエルフどころか、人類最強の兵器らしんだが……どう言ったものか……。
そんな俺の様子を見て、ヒーリィさんが代わりに答えた。
「そうです、私はエルフのヒーリィと言います。 そしてこっちは私の息子のハイドラと言います。 そうですね、ハイドラ?」
「アッハイ」
「ということです」
有無を言わさないそのセリフに、俺は頷くしかない。
その様子を微妙な顔で、長老さんは見ていたが、気を取り直して話を続ける。
「この村は見ての通り小妖精族(ピクシー)の村なのですが、五十年前に私の前の長老である、エルフ様が亡くなってから、この村にはエルフ様が生まれておりません」
「んん?」
その言葉に謎が深まる。
エルフが小妖精族(ピクシー)から生まれる?
どういうこっちゃ?
「あの……ヒーリィさん?」
「ここではお母さんと呼びなさい」
「アッハイ」
「……まあ、良いでしょう、次からはそう呼びなさい。 良いですね、ハイドラ?」
「ハィィ……」
どこまでもブレないヒーリィさんに慄きながら、質問を続けた。
長老さんの言った言葉から察するに、五十年前にはこの村にはエルフが居たらしい。
エルフって小妖精族(ピクシー)から生まれるんか?
「その、エルフって小妖精族(ピクシー)から生まれるもんなの?」
「……いいえ、私は普通にエルフの両親から生まれたし、村の皆も普通にエルフだったはずよ」
「えぇ……? どいうことだろう?」
ヒーリィさんの回答に、俺の頭はますます混乱の渦へ叩き込まれた。
そんなぐるぐる目になっている俺に、長老さんが目を輝かせて話しかけてきた。
「お二人以外にもエルフ様がいらっしゃるので?」
「いえ……残念ながら私たち以外のエルフは、何処に居るかは分からないわ」
「そうなのですね……」
そう言って明らかに落胆した様子の長老さん。
その様子に俺たちは顔を見合わせる。
そしてオキシーの方に目をやると、オキシーは任せろっと言わんばかりに、くるりと一回転して長老さんに話しかけた。
《私達は、旅をしながら私達以外のエルフや、魔族を探していました。 そこでここの森に迷い込んでいた所、アインス様とフローリン様に出会ったのです》
「おお、そういう事なのですね」
《なので、その過去にいらっしゃった、エルフの方の事を教えて頂けませんか?》
「えぇ、もちろんですとも」
さすがオキシーさん、不自然の無いよう会話を繋げてくれた。
そうして長老さんは話を続けた。
「実は五十年前に居たエルフ様は、私の父なのです」
「え? そうなんですか?」
「えぇ、父も最初は小妖精族(ピクシー)として生まれたのです。 その後、継承の儀によってエルフへと進化したのですが、私が生まれて直ぐに流行り病によって死んでしまったのです。 なので私が本来であれば父の魔力を受け継いでエルフへと進化するはずだったのですが……それによって現在は自然にエルフ様が生まれるのを待つばかりなのです」
「継承の儀?」
「自らの持つ魔力を、次の世代へと受け継がせる儀式ですが……」
「んん……?」
なんだか変な話になってきたな……。
魔力を継承する事でエルフに進化する?
そんな不思議生物なん、エルフって?
そう思ってヒーリィさんを見るが、彼女もこちらを見て、左右に首を振る。
ヒーリィさんの記憶ではそんなことは無かったと……。
つまりヒーリィさんの寝ていた千年以上の時間の中で、エルフに何かあったということだろうか?
異世界って分からんなぁ……。
「言い伝えでは、一定以上の魔力を注がれた小妖精族(ピクシー)はエルフへと進化するとのことです。 また他の魔族も同様に一定以上の魔力を与えられると進化すると聞かされております」
「ふぅん……」
「あの……、お二人も継承の儀を受けて進化されたのではなくて?」
「私達は違うわね、私の両親はエルフだったし、祖母も祖父もエルフだったと聞いたわ」
「な、なんと……! では、お二人は遥か昔のエルフ様と同じような村で育ったので!?」
「そういうことになるのかしらねぇ……」
「おぉ……」
そう言って感嘆の声を上げる長老さん。
そして少し思案して、絞り出すような声を出した。
その様子に俺も姿勢を正す。
「……お二人にお願いがございます」
「なんでしょう?」
「アインス、こっちに来なさい……」
「は、はい、お爺様……」
そう言って長老さんはアインス君を呼ぶ。
ここに一緒に来たのは気になっていたが、長老さんのお孫さんだったか。
そしてアインス君を隣に座らせると、深々と頭を下げる長老さん。
その姿に驚いている暇もなく、長老さんは言葉を続ける。
「お二人は……特にハイドラ様は最初に見た時から、その内包する魔力の凄まじさを感じております」
「は、はぁ」
「そんなハイドラ様にお頼み申し上げます。 このアインスに継承の儀を授けては頂けないでしょうか?」
「え……?」
「勝手な事を言っているのは承知しております……。 ですが私や息子達では、この子を進化させるほどの魔力は持ち合わせておりませんのです……。 ですので、ハイドラ様のその内包する魔力をほんの少しで良いのでこの子に注いで貰えないでしょうか……?」
「おうふ……」
そう言って更に床へと額を付ける長老さん。
その後、慌ててアインス君も頭を下げる。
俺はヒーリィさんを見る。
ヒーリィさんは、こちらを見て頷く。
やれって事ですね……。
まあヒーリィさんやクローリンさんは、魔族や人間の未来を思って俺の身体を造ったと言っていた。
一度死んだ身だ。
そして奇跡の様な確率で、この世界に来た俺だ。
そんな事で良いなら、やってみるのも良いか。
そう気楽に思って、村長さんに話しかける。
「……長老さん、アインス君、頭をお上げください。 お話は分かりました。 そのお話、お受けいたしましょう」
「おぉ……あり、がとうございます」
そう言って皺と涙だらけの顔を上げて、こちらを見る長老さんと、何かを決意したかの様なアインス君。
なんか凄く照れるなこういうの。
「えぇと、魔力って普通に純魔力で良いのかな?」
「えぇ、属性を得た魔力では身体に馴染まないと聞いております」
「ほんじゃま、このくらいで良いのかな?」
そう言って頭の大きさほど純魔力を手のひらから出す。
その光る魔力の塊を見て、長老さんとアインス君はものすごい顔をしていた。
「そ、そんなに多くの魔力を受け継がせて貰えるのですか?」
「えっ!? そ、そんなに多いかな? 俺の感覚だと全開の三十分の一も出してない気がするんだけど……」
「そ、そうなのですね……」
「でも、多いっていうなら、少し減らすか……」
そう言って魔力を減らそうとイメージしようとする。
だが、それを見ていた、アインス君は、決意を固めた表情で声を上げた。
「い、いえ! その魔力を受け継がせてください! ハイドラ様!」
「んあ!?」
その大きな声に驚きつつも長老さんを見る。
すると長老さんも、こちらを見て頷く。
……まあ良いか。
危なくなったらアインス君から、魔力を放出させるイメージをすれば大丈夫だろう。
「じゃあ、アインス君……身体が辛くなったら直ぐ言うんだよ?」
「っ! はい!!」
そうして俺はアインス君へと向けて、その魔力をゆっくりと動かしていった。
そして目を瞑る彼の身体になじむ様にイメージしつつ、魔力を循環させていった。
アインス君は、一瞬ぶるりと震える。
やば!?
まずったか!?
と焦るが、その次の瞬間、アインス君の身体が光に包まれる。
その眩しさに目を顰めるが、薄く見える彼の身体が少しづつ大きくなるのが見えた。
まるで、子供から大人へと成長する過程を早送りにする様なその光景に、俺は惚けて見ていた。
そして、光がゆっくりと収まり、そこに居たのはアインス君の面影を残した大人の男の人が居た。
もともとの煌めくような金色の髪と、美しい彫刻を思わせる顔造形。
元の世界のモデルの様に大きな背丈もある。
えぇ……何このイケメン?
そして、アインス君であろう、その男の人は目を開き、俺を確認すると、深々と頭を下げた。
「今、この時より、私は貴方様の為に生きる事を決めました……ハイドラ様」
「お、おぉ? おん……?」
何だか激重な事を言ったぞこのイケメン……。
その言葉を聞いた俺は、何とも言えない表情をする。
そして、なんだか立派な感じになったアインス君を見る。
その横には涙を流す長老さん。
俺の左隣には頷きながら、こちらを見るヒーリィさん。
そして右隣には、その場でくるくると回るオキシー 。
世は正しく混沌であった。
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