第11話 お約束のトラブル
「火球! 水球! 風球! 土球!」
森の中で俺の声が響く。
俺の周りには赤、青、緑、茶色の球体が浮いている。
赤色の球の中では、炎が渦巻き燃えている。
青色の球の中では、水の流れが起きている。
緑色の球の中では、枯れた葉が渦巻いている。
茶色の球は、固そうなゴツゴツとした表面をしている。
「すごいわねぇ……こんなに自在に属性魔力操作術が扱われているのは初めて見たわ……」
ヒーリィさんは、感嘆の声を上げ、頷きながら俺の様子を見ている。
どう見ても子を見守る母親の目です。
どうもありがとうございました。
「なんかすごい自由度が高いんですね、魔力操作術って」
「そうねぇ、でもそんなに色んな属性を操作できる人は、私の居た村でも見たことは無かったわよ?」
「そうなんですね、しかし、イメージ通りに現象が起きるのは、一体どんな化学反応が起きているやら……」
「私がクローリンから学んだ時、彼曰く、魔力は結合力を操作できる力と言っていたわね」
「結合力……」
「例えば火が起きるのは、空気中の何かと、物質が結合することによって起こる現象なのだけど、魔力によって起きる火は、その何かと、魔力が擬似的に結合して起きる現象なのよ。 それらの現象を、自らの魔力を使って行うのが魔力操作術ということなの」
「なるほど……つまり魔力とは化学反応を自分で起こすことができる力ということか……」
「あれ? もしかして貴方の世界でも同じようなことが分かっていたの?」
「ええ、俺の世界では、それは科学と呼んでいましたね」
「へぇ……じゃあ、私はわからなかけど、空気中の、その何かって分かるの?」
「はい、俺の世界では、それは酸素って呼ばれています。 そして、ものが燃える現象は、燃焼と呼ばれていました」
「なるほど……貴方はその現象を理解しているから、こうして色々な属性を操れるのね」
「そう言うことみたいですね」
そう言って、俺は全ての球を消すイメージをした。
土の塊だけは、崩れてその場に落ちたが、他の球体は何事もなかったように霧散した。
イメージだけで、現象が起きるなんて凄すぎる。
元の世界でこんなこと出来たら、明らかにエネルギー革命が起きてたはずだ。
まあ、だからマギリアクターエンジンなんていう、とんでもないものが出来たんだろうけどね。
異世界すごすぎぃ……。
「どうやら私から教えられる事は、もう何もないようね……」
ヒーリィさんはそう静かに呟く。
え? またなんか悲しませちゃったのかな?
どうしよう……。
「クローリン……喜んで、私たちの子は立派に育ったわ……」
全然違った。
ヒーリィさんは目を閉じて歓喜の涙を流していた。
すいません、まだ出会って一日も経ってないと思うんですけど……。
育てられた記憶もない……。
トリップしているヒーリィさんを見て、削れていく精神を何とか持ち直そうとしていると、オキシーが戻ってきた。
《ただいま戻りました》
「おぉ! おかえりオキシー」
とりあえず感涙の涙を流すヒーリィさんは置いておこう。
戻ってきたオキシーを労いつつ、周囲のことを聞く。
「そんで、どうだったん?」
《そうですね、ここから三百メートルほど先に生命体の反応が三つありました》
「お! マジで?」
《はい、そのうち二つは小さく固まって動いていて、もう一つは大きめの反応で二つを追いかけているような動きですね。 今、ちょうど二つの生命反応が止まって、大きめな一つの反応はその二つの周りぐるぐると回っています》
「ほーん、なんか起きてるって事は分かるけど、説明だけじゃ分かんないな」
《見に行かれますか?》
「そうだなぁ……」
そう言って俺は、まだトリップしているヒーリィさんを見る。
こりゃダメだ……。
暫く戻って来なさそうだ……。
仕方がない、俺だけで見てくるか。
魔力操作術も大体分かってきたから、何かあっても対応できるだろう。
「ちょっち俺だけで、見てくるわ、オキシーはヒーリィさんを見てて」
《……あまり危険なことをするのは宜しくないと思いますが?》
「まぁまぁ、大丈夫だって」
《……はぁ、了解致しました、ではお気を付けて》
「ほいほい」
《……危ないと判断したら、即撤退を推奨しますよ?》
「わかったよー」
俺は心配するようなオキシーに軽い感じで返事をした。
そしてオキシーが光で指した方向に走ろうとして足に力を入れる。
ちょうど陸上のスタンディングスタートの格好だろうか。
なぜそんな助走をつけようとしたのかは、俺にも分からない。
何となく格好つけたかっただけなような気もする。
「じゃあ行ってきまーす」
そう軽い感じで言い、足を踏み込んだ。
結構力を込めたとは思う。
その瞬間に起きる、地面が抉れるドンッ! という爆音。
それと同時に周りの景色が一瞬で流れた。
そして顔面にものすごい勢いで迫る木。
(やっべ! ぶつかる!)
そう思った瞬間に顔と身体にくる衝撃。
だが、痛みは無かった。
そしてチラリと見えた、根元から吹っ飛んでいる俺の体ほどの太さの木。
その流れるような光景を、俺はまるでスローモーションのように見ていた。
そして何本かの木を同じように吹っ飛ばしつつ、俺の身体はまっすぐに飛んでいった。
(えぇ!? 何これこわぁ!)
恐ろしい速さで流れる光景と、顔に当たる風圧で最初の声は出なかった。
俺は、この時自分がどんな身体だったのかということを忘れていた。
それは恐ろしい魔王をも殺せる、人類最強の兵器。
そのスペックの高さを、俺はまだこの時、理解していなかったのだ。
そうして俺の身体は、恐ろしい速さで森の中を飛んでいくのであった。
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