第8話 あるエルフの思い2
目が醒めると、真っ白な場所で、ベッドの上で起きた。
私の手首と足首には輪っか状の何かが付いていた。
此処はどこだろう?
そう考えて、思い出す。
母さんと父さんの最後を。
『生きて』と言って動かなくなった二人の身体。
その事を思い出し、叫ぶ。
どこから声が出ているのか、分からないほど大きな声で叫んだ。
暫くすると白い扉から、人間が入って来た。
そいつは最後に見た、あの時の人間だった。
私は『殺してやる!』と叫びながらそいつに殴りかかった。
だが拳が届く前に、両手と両足が重くなり、地面に貼り付けになる。
私は歯を食いしばって、泣きながらその人間を睨む。
そいつは、最初に見た時と同じく、惚けたかのような顔をして、持っていた皿のようなものを地面に置いた。
そして何も言わずに出ていった。
皿には、村でよく食べたジャガルの実を茹でたものが乗っていた。
そいつが出ていってすぐに身体は動くようになったが、私はその皿をそいつが出ていった場所に思いっきり投げつけた。
そして膝を抱えて蹲り、声を出さずに泣いた。
そうして数日ほど、その人間が来るたびに襲いかかったが、全て同じ結果に終わった。
数日間、何も食べずにいたが、私は『生きて』という父さんたちの言葉を思い出した。
そして、その日も同じように置かれたジャガルの実を、私は泣きながら食べた。
それからさらに数日後、いつものあの人間が、場所を移動すると言ってきた。
手首につけた輪っかに、紐のようなものを繋げて、部屋の外に出る。
人間が沢山居た。
そいつらは私を見て、明らかに不快そうな顔をしていた。
私も、そいつらを憎悪を込めて睨め付ける。
暫くそうして歩いていると、大きな箱のような物の後ろに乗せられた。
そして、乗っている箱がゴロゴロと音を鳴らしながら揺れる。
暫くの間、箱の中で膝を抱えていたが、音が止まり、箱から連れ出された。
なぜか一緒に来るのは、あの皿を置いていく人間だけだった。
私とその人間は、地面の中に埋められたような場所へ入って行った。
その中の一つの部屋に、私は押し込まれた。
そして前と同じように、その人間は毎日茹でたジャガルの実を置いてく。
暫くはそうして居たが、そこで疑問を覚えた。
この人間は何で私を殺さない?
何がしたいのか?
困惑した私は、その人間に話しかけた。
『何で私を殺さない。 お前は何がしたい』と。
その人間は、何だか困ったかのような顔をして言った。
『僕にも分からない』と。
何だこいつは、と困惑しながら最初は思った。
次の日も同じ質問をした。
困惑しながらもその人間は話しかけてかけてきた。
その人間も、私たち魔族に親を殺されたと。
そしてこう続けた『魔族は憎い、だがあの時お前が叫んだ言葉は、僕が叫んだ言葉と一緒だった、だから生かした』と。
それを聞いて、私はその人間のことが少し分かったような気がした。
だけど、やはり人間のことは許せなかった。
そう思って私は『あ、そう』とぶっきらぼうに言った。
それからは暫く同じように過ごしていたが、いつの間にかその人間とは普通に話すようになっていた。
そして魔王様の事や、もっと小さい頃に聞いた、魔族のことも話した。
人間も同じように、自分の事を話してくれた。
魔王様が、最初に破壊した街のことも話した。
その時に、魔王様の妹と弟が死んだということも。
その話を聞いてその人間は驚愕していた。
『そんなのは初めて聞いた』と言っていた。
そしてその後も人間の色んな事を聞いたし、魔族の事も話した。
人間は、偶によく分からないものを持って来る時があった。
それは勝手に部屋を掃除してくれる、丸い動く物体。
ある時は手に持っている棒状のものから光を出したりしていた。
私はその持って来るものをが気になって、それは何だと聞いてみた。
人間は戸惑いつつも、教えてくれた。
曰く、魔導機械技術というものの実験だと。
よく分からなかった私は、魔導機械技術を教えてくれと言った。
さらに人間は戸惑いつつ、少し考えさせてくれと言った。
次の日、人間は魔導機械技術を教えてくれると言った。
そして自分の名前は【クローリン】だと言った。
その時、私はその人間の名前を初めて知った。
随分長い時間この人間と一緒にいたが、名前を聞いたのは初めてだった。
そのことに少しおかしくなり、私も自分の名前を名乗る。
『私の名前はヒーリィよ』と。
あれほど人間が憎かった筈の私は、その時なぜか笑っていた。
そしてその頃から、私の手足につけられていた輪っかは外されていた。
その日から【クローリン】は魔導機械技術を教えてくれた。
時には理論が分からなくて、殴りかかった時もあった。
けれど、前のように憎しみを込めてではない。
時が経つのが早く感じる。
そうして五年ほど経つ。
ある時、私は一緒に魔導機械技術の実験をしている時にこう思ってしまった。
【クローリン】も魔族だったら良かったのにと。
だけどそれは叶わない。
私が人間を憎むように、【クローリン】は魔族を憎んでいる。
ある時『私たち魔族か人間どっちかだったらどう出会っていたかな?』と、呟やいてしまった。
”クローリン”は驚愕の表情をして、黙ってしまった。
その後【クローリン】は考え事があると言って、部屋に籠ってその日は出てこなかった。
まずい、と思った。
この関係が崩れる。
そう思った。
だが、次の日【クローリン】は何故か晴れやかな顔で出てきた。
そしてこう言った。
『魔族だろうが、人間だろうが、中身は一緒だな。 楽しければ笑うし、怒れば喧嘩もする』と笑いながら。
その顔を見て、私は安堵とともに、驚きもした。
【クローリン】の言った通り魔族だろうが、人間だろうが中身は一緒だということ。
そして同時に悲しくもなった。
その笑顔を見て思う。
もっと違った形で【クローリン】と出会いたかったと。
それから一週間ほど経った後【クローリン】は人間のコミュニティーへと出かけた。
偶に他の人間のコミュニティーに様子を見行くことはあったので、その時は特には気にしなかった。
だが、帰ってきた【クローリン】はひどい怪我をしていた。
驚き、狼狽える私を手で制して、悲しい顔してこう言った。
『皆に魔族と話してみないかって言ってみたんだけど……だめだったよ。 この裏切り者! と言われて殴られた』と。
【クローリン】と私は、もはや他の人間たちとは相容れない存在となっていたのだろう。
私は怒りと同時に嬉しくも思ってしまった。
私たちは同じ思いを持っていると。
そこからは何とか魔族と人間の共存が出来ないかと色々と試していた。
私は此処から出るのは危険だということで【クローリン】は一人で外の人間たちと交渉していたみたいだ。
だが【クローリン】は怪我をしたり、涙を流しながら、帰って来る。
このままでは【クローリン】が死んでしまう!
私はそう思い【クローリン】を失うことを恐れた。
もはや、なりふりは構っていられなかった。
必死に別の方法を一緒に考えると言った。
とっさに今は無理でも未来では? と言うと【クローリン】は驚きながらも"そう言う考えもあるか"とまた部屋に籠ってしまった。
次の日【クローリン】は人型魔導機兵装アニマキナの事を教えてくれた。
コレならば今の現状を変えらえるかもと。
魔王様を殺した兵器だとも正直に教えてくれた。
その事に思う事もある。
だけど私達はそのアニマキナへと縋った。
そして【クローリン】と私は、今持てる全ての技術を使って人型魔導機兵装アニマキナ、ナンバーゼロを造った。
だけど私たちの魂では、アニマキナを起動させるには至らなかった。
そこで私たちは自分たちと同じ思いを持つ魂しか、このアニマキナを起動できないよう設定した。
これはアニマキナの悪用を防ぐためと、私たちの願いも込められている。
そして私は、このアニマキナの造形を私達に似せて造った。
この子は私と【クローリン】の子供だ。
そして適合する魂は、人間にも魔族にもどちらにも恨みを持たない純粋な魂。
絶対に無理だと思った。
だけど、私たちは願わずにはいられない。
私は魔導機械技術を応用して、私達自身を保存する技術の研究を始めた。
そして、魔族には人間には無い、無意識化でも魔力を循環できる器官がある事がわかり、それを使うことで、自らを保存できる理論と技術を作り上げた。
だが人間である【クローリン】はその器官が無い。
何とか魔導機械技術内で応用は出来ないか、研究してみた。
だが、結局私はその壁を越えることはできなかった。
悲しむ私に【クローリン】はこう言った。
『僕の代わりにこの子と魔族と人間が共存できる未来を見てくれないか』と。
その言葉に私は、思わず涙を流しながら言った。
『私もそんな未来が見たい』と。
本当は【クローリン】と一緒にその光景が見たかった。
でも私たちの力不足だ。
いや、違う。
私の力不足だ。
でも【クローリン】は私にその光景を見て欲しいと言ってくれた。
だから私も未来に賭ける事にした。
きっと現れるだろう人間にも魔族にも、どちらも恨みを持たない純粋な魂の持ち主が、きっと居ると想って。
その後、この施設を維持するためのシステムを造った。
これで何年経とうが、この施設を維持できる。
そして【クローリン】はアニマキナが起動した時に必要だと言って、一体のオキシジェンタイプと呼ばれるAIを造った。
最後に私の身体を維持するためのカプセルを造った。
私はそのカプセルに入り【クローリン】を見る。
【クローリン】は優しい顔をして言う。
『大丈夫、きっと未来では魔族と人間は共存できる』と。
そう最後に言って、カプセルを閉じた。
私は【クローリン】と、いつかきっと出会うであろう我が子を思い、魔力を循環させる。
そして【クローリン】の優しい顔を最後に眺める。
その後すぐに、私の意識は暗闇へと沈んだ。
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