第7話 あるエルフの思い1

 私が生まれた所、そこは小さな村だった。


 両親からこの村の人たちは、魔王様と一緒にこの大陸に渡った魔族のエルフだと聞いた。


 魔王様とは何度か会ったことがある。


 偶にこの村にも来ていたからだ。


 なんでもこの村は人間の住む場所に近いとの事だった。


 人間って何? と父さんと母さんに聞いたことはあったが、難しい顔をして戦争をしている相手と言った。


 戦争ってなんだろうと思ったけど、それ以上は教えてはくれなかった。


 魔王様はいつも顔を顰めていて、怖い顔をしていた。


 だけどその怖い顔で、私の頭を撫でてくれた事は覚えている。


 ある日、村で魔力が最も強かった数人は、全員出ていくことになった。


 魔力が戦闘向きじゃないと言われた人たちは、村に残されていた。


 私と両親、それに残された皆はその人たちを送るために、村の外までお見送りに行った。


 村の外には魔王様と沢山の魔族の人が居た。


 私たちの村の森人族(エルフ)たち。


 体に沢山の枝を絡めている樹人族(トレント)の人たち。


 固そうな体と大きな角を持つ殻人族(シェル)の人たち。


 子供の私と同じ大きさだけど大きな斧を持った、お髭が沢山生えている土人族(ドワーフ)の人たち。


 大きな翼で空を飛んでいる翼人族(セイレーン)の人たち。


 槍を持って体の所々が鱗で覆われている水人族(イプピアーラ)の人たち。


 魔王様と同じく羊のような角と背中に蝙蝠のような翼が生えた妖人族(アールヴ)の人たち。


 トカゲのような顔と両手に剣を持った龍人族(ドラゴニアン)の人たち。


 他の人たちの倍は背が高くて大きな棒を持った巨人族(ギガス)の人たち。


 皆すごい魔力を持った人たちだった。


 怖くなって父さんに、皆どこに行くの? と聞く。


 これから皆で戦争に行くのだと父さんは言った。


 そうして村の人たちに見送られて、魔王様たちは村を出ていった。


 魔王様たちや、他の魔族の人たちはそれ以降見なかった。


 皆出ていってから、数日たったある日、遠くですごく大きな光が見えた。


 それと同時にすごい地面の揺れが起きた。


 怖くて、父さんと母さんに抱きついて毎日泣いていた。


 父さんたちも震えていた。


 村の皆で畑の野菜を少しづつ分け合って食べた。


 長い間そうして怯えながら暮らしていたけど、ある日、地面の揺れが起きなくなった。


 皆少しづつだけど、また畑を耕したり、崩れた家を直したりしていた。


 そうして暫くしたある日、外に様子を見に行った村の人が慌てて戻って来た。


 人間がこっちに来ると言っていた。


 皆驚いていたが、それぞれの家から鍬や鎌を持ってきた。


 出ていった人ほどじゃないけど、魔力の強い人たちも杖を持っていた。


 子供の私は両親とともに家の中に入れられた。


 そして暫くすると大きな音と、皆の悲鳴が聞こえた。


 その音が聞こえると、私は父さんと母さんに家にあった棚の後ろの小さな穴に押し込まれた。


 父さんたちは、絶対に何があっても声を出すな、音が聞こえなくなったら逃げなさいと言った。


 そう言って、棚で私を隠した。


 隙間から父さんたちが杖を持っているのが見える。


 家の扉がドンっ! という音と共に壊れた。


 父さんたちが風の魔力操作術を使ったのが見えた。


 だけど二人は入って来た三人の剣を持った奴らに切られて倒れた。


 私はその光景を見て叫びそうになり、口を押さえる。


 体も震えた。


 そいつらは、父さんたちを切った後すぐに外に出ていった。


 父さんたちは切られた体を引きずって、私の居る棚に寄りかかってきた。


 そして二人が私に"生きて"と言ったのが聞こえた。


 それを最後に二人は動かなくなった。


 外ではまだ人間の声と悲鳴が聞こえる。


 私は父さんたちの言葉通り、震える体を抑えて耐えていた。


 だけどその震える体を抑えつつ、私は人間たちを憎悪し思った。


 絶対に殺してやると。


 父さんたちを殺したやつらを私が殺してやると。


 そう思った。


 暫くすると音が止む。


 棚の隙間から見える先では、父さんたちの亡骸が私を守るように重なっている。


 逃げなければ!


 泣きながらそう思った時、家の中に誰かが入って来る音が聞こえた。


 その足音がこちらに向かって来るのが聞こえた。


 棚の前でその音が止まる。


 私を隠すように寄りかかっていた父さんたちの亡骸が横にずれたのが見えた。


 そして私を隠していた棚も大きな音ともに倒された。


 一人の人間がそこにいた。


 そいつは私を見て驚いたような表情した。


 初めて人間の顔をしっかりと見たが、私たち魔族、それもエルフと似たような顔をしていた。


 人間は”子供か”と呟いた。


 私はその瞬間、近くに落ちていた料理用の刃物を持って憎悪の限り叫んだ。


 よくも母さんと父さんを殺したな! と。


 そしてそいつに向かって刃物を突き刺そうとした。


 人間は慌てて持っていた小さな杖のようなものを私に向ける。


 その瞬間、私の体はドンッ! という衝撃と共に動かなくなり、倒れた。


 倒れる時、惚け、間抜けな顔をした人間の顔が見えた。


 その顔を最後に私の記憶は途切れた。

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