第4話 ある研究者の独白1
これを見ているのは彼、それとも彼女かな?
いや、それはどうでも良い事だね。
君を起動できる。
その魂が見つかった事が、重要なのだから。
僕が、その場で立ち会えないのは非常に残念だけど、仕方がない。
人間はどうなっているかな?
ちゃんと復興してる?
魔族はどうだい? 戦争は終わったけど、彼らも生き残ってるかい?
できる事はしたが、僕一人じゃ人間の魔族への憎しみと、魔族の人間への怨みはどうしようもなかった。
ん? 不思議に思っているかい?
お前も、人間じゃないかと?
魔族に、怨みがあるんじゃないかと?
その答えはイエスだ、だがノーでもある。
僕も、親を目の前で魔族に殺された。
その時の母さんと父さんの顔は、今でも思い出す。
よくも母さんと父さんを殺したな! と怒りに任せて叫んださ。
だがその魔族は、僕を見て何故か泣いていた。
そこで僕の記憶は無くなったんだよね。
気づいたら、僕はある魔術研究所の施設で寝ていたのさ。
そこには、戦争によるけが人がたくさん居た。
僕みたいな、親を亡くした子供もたくさん居た。
そして僕も憎くて、憎くて、憎くて、毎日泣いたさ。
なぜ魔族達が、人間を襲ったのかは当時は不明だった。
僕が居た街が、最初の襲撃だったと記録されたのを知ったのも、それからしばらく後だったからね。
戦う力のなかった僕は、魔術研究所の研究員の人たちに頼んで、弟子入りさせてもらった。
幸い僕には、魔導機械技師としての才能があったみたいだ。
憎しみを糧にして、仲間たちと共に様々な兵器を開発した。
だが、魔族たちは強かった。
昨日話した兵士が、今日死んだという報告はよく聞いたさ、一般人もたくさん死んだ。
力のない僕ら魔導機械技師は、人間が勝てる様に、必死に兵器を開発した。
そんな僕たちはある時、偶然、魂と呼ばれるものの観測に成功した。
そして研究するうちに、霧散する前の魂であれば魔力でマテリアライズ化して、魔力の塊として保存できることが分かった。
僕たちは歓喜したさ。
これで死んだ仲間たちも生き返れるのではと、母さんや父さんとももう一度会えると。
結果を言えば、それは不可能だった。
一度霧散した魂は、同じ様に集まる事は二度となかった。
というより霧散後は、魂の観測ができなくなったんだ。
これは僕の仮説だが、霧散した魂は記憶が漂白されて、他の生き物の魂へとなるのでは無いかと思う。
まあ、検証していない、僕だけの仮説だけどね。
だがこの研究は、無駄ではなかった。
アニマキナ計画。
これは僕が名付けたんだが、人間の身体では、強力な高位魔族たちに太刀打ちできない。
そこで、僕は人を超える身体に、人の意志である魂を宿して戦うというプランを発案した。
そして、人型魔導機械兵装アニマキナの開発が始まった。
人型魔導機械兵装アニマキナに乗せる魂だが、これは仲間内でも非常に揉めた。
仲間の人間の魂を使うという事は、人道としてどうなのか?
いや、そんなことを言っている場合ではない! という人もいた。
僕はそんな彼らに、人型魔導機械兵装アニマキナになった人も、人間として扱うと宣言したんだ。
そして乗せる魂は、志願者以外では使用しないとも。
皆は複雑な表情をしていたが、一応は納得してくれた。
そして、まずは空気中に含まれる魔力と原素を圧縮して取り込み、魔力操作によって合成して熱エネルギーとし、生み出したエネルギーと魔力圧縮よって、あらゆる物質を想像できるマギリアクターエンジンを開発した。
このマギリアクターエンジンを動力源に、人型魔導機械兵装アニマキナは完成した。
そして合計で百体のアニマキナを造り上げた。
この時には魔王の進行により、人間は半分以下になっていたから、僕らも必死だった。
魂を乗せる為の志願者達は、皆、魔族に家族や恋人を殺された人たちだった。
全員の顔を僕は覚えている。
皆、僕と同じ憎しみの瞳を持つ人たちだった。
そうして、志願者達の魂を乗せた人型魔導機械兵装アニマキナは完成した。
完成したアニマキナ達は強かった。
魔族への憎しみもあったのだろう、破竹の勢いで魔族達を打ち破っていった。
だが、魔王ノクスと上位の高位魔族達も強かった。
一騎当千だったはずのアニマキナ達は、少しづつ数を減らして、一年で二十八人も失った。
この時死んだアニマキナは、魔族への憎しみが特に強く、自爆に近い突撃をする者が多かった。
これに僕は、危機感を覚えたんだ。
僕は彼らを人間として扱いたかったけど、本人達は復讐のために自分の命を使う。
いや、本当は分かっていた、これは僕の自己満足だと……。
僕は、彼らの復讐心を利用して、僕自身の復讐の道具としていたんだろう。
それに気づいた僕は、あまりにも醜悪な僕自身を嫌悪した。
だが、そんな僕に、最も魔力操作に長けて強かった五人のアニマキナ達が、感謝をしてきたんだ。
"生きながら死ぬだけだった僕らに力をくれてありがとう"って。
僕は、そんな彼らへの感謝の言葉に、罪悪感を覚えられずにはいられなかった。
せめてもの贖罪として、医療用AIを利用したサポートユニット、オキシジェンタイプをアニマキナ達全員に造った。
そして、人型タイプの方は、ハイドラジェンタイプとして二体で一つの個体として扱った。
これは、思っていた以上に効果があった。
自殺も同然の特攻をするアニマキナが減り、生き残ることを優先するアニマキナたちが増えた。
これは恐らく、医療用AIを使用したことによる、カウンセリング機能の精神安定効果であると思う。
だが、最後の戦いが起きた。
アニマキナを減らせなくなったせいで、魔王ノクスが焦れたのか、魔王率いる高位魔族三百体、通常の魔族も一万は超えてたんじゃないかと思うぐらいの、総力を上げて攻めてきた。
この時に、生き残ったアニマキナ七十二人と兵士たちは、けが人を除いて全員で出撃して行った。
恐ろしく長い戦いだった……。
遠くの研究所に居るはずの僕たちにも分かるほどの大きさで爆発する魔力光……立って歩けなくなるぐらいの地響き。
結局三ヶ月くらいだったかな? 残る食料を生き残った皆と分け合いながら、戦闘が終わるのを怯えながら生きていた。
そうして戦闘の魔力光が観測されなくなり、偵察のため、僕を含めた残った人たちの、小さな部隊を編成して戦闘場所に向かったんだ。
もはや見る影もない、荒れ果てた大地を見て絶句したよ。
生き残った人たちと共に、アニマキナ達が生き残っていないか探した。
魔族達の死体や人間の死体と共に散乱するアニマキナ達の残骸。
胴体だけや、腕しか残っていない人もいた。
少しづつ、各地に散乱したアニマキナ達のパーツを回収した結果、全員の死亡が確認された。
これは、アニマキナの各パーツには、個体番号の魔導パルスが埋め込まれていたから解った。
そしてアニマキナ達の中でも、最も強かったあの五人の残骸と共に、魔王ノクスと思われる魔族の死体もこの時に発見した。
魔王の顔を見て驚愕したよ、そいつは僕の両親を殺した、あの時泣いていた魔族と同じ顔だったからね。
なんで魔王が泣いていて、僕を殺さなかったのかは、その時は分からなかった。
こうして僕たち人間と、魔王との戦争は相打ちという結果に終わったんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます