立志胎動編
第1話 目覚め
《器と魂の同調率九十八パーセントを超えました……稼働に必要な同調率を超えた為、マギリアクターエンジンの起動シークエンス開始します》
何処かから声が聞こえる。
誰だ?
すごく機械的な声だ。
ここ何処だ?
何も見えんのだが?
声も出んぞ?
《蓄積魔力が起動に必要な量を下回っています……セーフティーモードにて起動開始……成功しました……以降は魔力消費を抑えるため以降三十分間セーフティーモードで起動します》
なんだ、なんだ?
セーフティーモードってなんだ?
しかも魔力とか言ってなかったか?
《意識内に混乱反応……身体反応には影響無い為、起動シークエンスを続行します》
良く分からない事を言っている。
確かにこの状況は混乱するけど、そのまま続けるんかい!
というか俺、溺れなかったか?
もしかして、救助されて病院とかに居るとか?
でも体動かん。
何も見えん。
わけわかめ。
説明プリーズ。
《擬似神経パルスを送信……反応確認……聴覚反応、視覚反応、共に問題有りません》
暗闇だった視界から、突然光が入る。
その眩しさに思わず目を顰める。
瞬きを数回すると周りが良く見え始めた。
最初に見えたのは、銀髪で中学生か小学生高学年くらいの少年。
いや良く見ると少女か? とにかく、そのくらいの子供の姿が見えた。
なぜか裸のその子は、まっすぐにこちらを見ていた。
いやいや何で裸やねん。
目を背けようとするが、体が動かない。
《全身に擬似神経魔導パルス反応を送信……反応確認……胸部、肩部、腕部、脚部全て問題有りません……右腕部に知覚テストを行います……衝撃にご注意ください》
そんな言葉と共に、突然右腕に軽い電流のような衝撃が走る。
衝撃に驚き、腕を上げる。
同時に目の前の子供も腕を上げる。
は?何でこの子も同じ動きしてんの?
《知覚テストに問題は有りませんでした……続いて意識同調確認を開始します》
混乱するが、どうやら体は動きそうだ。
自分の体を見て、固まる。
何と俺も、目の前の子供と同じく裸なのである。
そして気づく。
俺のナニが無いという事に。
「うっそぉ!? なんでやねん!?」
思わず関西弁になる。
叫んで頭を抱えるが、目の前の子供も同じ仕草をしている。
その事に気付き、自分の顔をペタペタと触る。
子供も同じように顔を触っている。
そして、ようやく目の前にいる子供が、自分自身の姿である事に気づく。
「これ俺か!? うわ! よく見たら、これガラスに映ってるだけじゃん!? なんだよこれ!?」
自分の身体の周りを見る。
全身には機械的なチューブが繋がっている。
ベッドぽいが、それにしては狭い。
以前見た、SF映画のワンシーン。
その主人公が医療カプセルに入っていたが、それと同じようなものに入っているようだ。
照明はカプセルの中だけ。
先ほどから俺が見ていたのは、外が暗い事による反射で映った自分の姿だったようだ。
《魂と本体の意識同調の確認完了……全ての起動シークエンスを完了します……アニマキナ、タイプハイドラジェン、ナンバーゼロ解放します》
「なになになに!? 今度はなにさ!?」
その声に慌てる。
ぷしゅうっ!と気の抜けるような音。
目の前のガラスが開いていく。
完全にガラスが開くと、今度は部屋の明かりが点く。
「どこよ、ここ?」
上半身を起こして周りを見る。
無機質な白い部屋であった。
そのちょうど真ん中にある、カプセルに俺は寝ていたようだ。
寝ていたカプセルから、足の先のまっすぐ先には扉の様なものもある。
近代的な病院に見えなくも無いが、あまりにも殺風景すぎる。
普通の病室だとしても、医療機材とかあるだろう。
というか俺は銀髪じゃねぇし、普通に男だったはず。
まさかマッドな医者が勝手に性別を変えたとか?
そんなヤベー性癖の医者が居るとは思いたくは無い。
改めて体を確認して驚く。
「なんじゃこりゃ!」
まず違和感を覚えたのは、両手の手のひらに埋め込まれた小さな緑色の球体であった。
指で弾くとキンっ! という硬質な音が響く。
そして関節の所々に薄くスリットのような線が見える。
「えぇ? うっそだろ!?」
そして一番気なった、俺の分身があった場所を確認すると本日一番に驚いた。
なんとナニが付いてないどころか、穴すらなかった。
何? 俺の体を改造した変態さんは、想像以上の深い業を抱えてんの?
あまりに衝撃の展開に、しばらくフリーズする。
そして、もう一度ここ居る経緯を考えてみる。
確かジオラマ買ったーーーーオーケー覚えてる。
橋から落とされたーーーーオーケー覚えてる。
川に流されてったーーーーオーケー覚えてる。
起きたらナニが無かったーーーーオーケーわからん。
考えても意味がわからなかった。
「そうだ! 俺のヴェネチアが! ロマンが!」
最後にバラバラに流されていくジオラマセットの事を思い出して叫ぶ。
そしてその末路を思い、悲しみに暮れる。
「いや絶対海まで流されるよな……あぁ折角買ったジオラマがぁ……」
《ジオラマとは何でしょうか?》
「えっ!?」
体が跳ねるほど驚く。
少女のような、幼い無機質な声が聞こえた。
まさか独り言に、返ってくる声があるとは思わなかった。
恐る恐る、その声がした方を見る。
野球ボール程の大きさの黒い球体が、ちょうど目線と同じくらいの高さで浮いていた。
「ナニコレ?」
こんなものは、今までの人生で見たことは無かった。
混乱する俺をよそに、その球体はふわりとこちらに近づく。
急に動かれたためビクっ! と体が強張った。
そんな俺の様子を観察するように、さらに俺の周囲をぐるりと一周する。
そして、その球体は言葉を発した。
《初めまして最後のアニマキナ、ハイドラジェンタイプ、ナンバーゼロ。 私はアニマキナ、オキシジェンタイプのサポートAIです》
「はぁ?」
俺はその喋る球体に、間の抜けた返事をした。
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