第84話 君の名は……

【七之助side】


「わたしは、桃太郎の孫の桃姫ももひめです。

 お爺ちゃんの名にかけて、貴殿方を守ります !」


 彼女の正体を知った俺も栞さんも一瞬、固まってしまった。

 伝説は本当だったんだ……


 桃姫と犬、猿、雉が次々と餓鬼を退治していると本物の鬼が現れた。


「こっ 困ったんだな。 閻魔さまにバレないように沢山の餓鬼を連れて来たのに役に立たないなんて思わなかったんだな 」


「どうする、彼奴等あいつらスゴく強そうだぞ !」


「戦うか逃げるか早く決断しないと、獄卒の仕事をサボったのが課長にバレてお仕置きされてしまうぞ ! 」


「そっ それは嫌なんだな !

 リーダーなんだからトンペイちゃんが決めるんだな !」


「そうだ、そうだ、リーダーなんだから、トンペイちゃんが責任持てよ !」


「チンペイ、カンタ、こんな時ばかりリーダーのせいにしやがって……

 俺だって課長のオバタリアンからのお仕置きはゴメンだからな !

 チクショウ、せっかくの天国行きのチケットが手に入る処だったのに !

 あのオールド・ミスはしつこいからな。

 俺は戦うからな、お前たちも逃げるなよ !」


「「どうぞ、どうぞ !」」


 三人の鬼たちは、何処かで見たようなコントをしていた。


 そうこうしているうちに全ての餓鬼を退治した桃姫が三人の鬼に対峙した。


「さあ、あなた達の罪を数えなさい !」


 鬼たちは、桃姫チームと雫やさくらに囲まれてしまい逃げ道を塞がれている。

 いや、一ヶ所だけわざとらしく空いているけど、アレは罠だよね。

 あんな業とらしい罠に引っ掛かるワケが……


「お前たち、逃げるぞ !」


「「スタコラサッサァー !」」


 逃げ出した鬼たちの行き先には、タマ妖狐ダイフクモチ人狼が待ち受けていた。


「「「 ヒェェェ~、お助けを~ !」」」


 こちらからは、タマやダイフクモチの顔は見えないけど、三人の鬼がガタガタと震えているから相当に怒っているのかも、と思ったらいても立ってもいられなくなり、気がついたら車の外に出てしまっていた。


「栞さんは、車の中で待っていてください !」


 手には母さんのお墓にお供えした物を抱えていた。


「ちょっと、まだ危ないのに外に出てはダメですよ !」


 桃姫ちゃんが俺に駆け寄りガードしてくれた。


「ごめんね、桃姫ちゃん。

 あの娘たちには、妖怪も人間も傷つけるようなことは、して欲しくないんだよ 」


 一度、目を大きい見開いたけど、すぐに元の顔に戻った桃姫ちゃんは、


「仕方ない人ですね。

 今回は大目に見ますが気を付けてくださいね。

 貴方は、妖怪を含めた異形な者達から注目されているのですから 」


 タマやダイフクモチの所に行くと鬼たちが、


「許して欲しいんだな ! もう二度と人間に危害を加え無いと約束するんだな 」


「旦那ぁ~、後生だ ! 結婚どころか彼女も居ないのに退治されてしまったら死んでもしにきれねぇ~ 」


「リーダーの言う通り、憐れな俺達を助けてくれ、旦那 !」


 助命を求めてくきた鬼たちに向かいタマが、


「ダメよ ! ご主人さまの魂を狙ったんだから、死んでも許してやらないわ !」


「拙者もタマと同じ気持ちでござる !」


 ふたりとも俺のことで怒ってくれるのは嬉しいけど、ふたりの手を汚したくは無い。

 持っていた荷物の一つをタマに渡すと匂いがしたのか、口元にヨダレが……


「ジュルリ……ハッ !

 わたしが、『お稲荷さん』で買収出来るなんて ……


「俺の手作りの『お稲荷さん』だったんだけど、ダメかな、タマ 」


「ご主人さま特製 ! 今回だけ、今回だけだからね !」


 タマは、『お稲荷さん』が入った重箱を抱えて立ち去ってしまった。


「駄狐め、これだから妖狐は好きになれないでござる !」


「ダイフクモチには『肉巻きおにぎり』が……


 俺が持っていた『肉巻きおにぎり』が入った重箱を奪い、タマとは逆の方向に駆け出したダイフクモチからは、


「ごちそうさまでござる !」


 ドップラー効果で聞こえてきた。


 俺を、ジィー と見る桃姫ちゃん。

 母さんにお供えした物を渡すと、『これは?』と云う顔をしたので、


「お供えした物で恐縮ですけと、母さんが好きだった洋菓子のヨコヤマの『限定 岩シュークリーム』です。

 よかったら食べてくださいね 」


「これは、これは、ご丁寧に ありがとうございます。

 ……どうやら、鬼たちに迎えが来たようなので、七之助さんの妖怪たちが戻るまで、引き続き護衛させてもらいますね 」


 桃姫ちゃんの言葉に鬼たちを見ると、女性の鬼に縛り上げられていた。


「ご迷惑をおかけした、御仁よ。

 この者どもは、地獄で罰を受けさせるので、お許しください 」


 そう言い残し、鬼たちを連れて空間に空いた穴の中に入って行ってしまった。


 弁当もなくなったから、帰りはスーパーにでも寄って弁当でも買って帰るか。


 実家に帰ると、サファイアが桃姫ちゃん達を見てウンザリした顔をして、ため息をついていた。



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