第79話 夏祭り ①

【サファイアside】


 今日から3日間は、この町の夏祭りだ。

 少子化な上に過疎化しているこの町は、書類上はなんだよ、笑っちゃうね。

 昔は沢山の山車が出てにぎわったけど、すっかり寂しい祭りに成ってしまった。


 それでも子供たちは、毎年の祭りを楽しみにしているんだ。

 だから、ボク達妖怪が盛り上げてやらないとね。


「おじゃまするぞい !」


 ぬらりひょんが母屋にやってきた。


「また、酒のツマミかアルコールの要求かい、ぬらりひょん !」


 まったく、居候いそうろうのクセに遠慮と云うのを知らないんだから困るんだよねぇ~。


「酷い扱いじゃのう。

 せっかく役に立とうとしたのに、信用が無いとはわし、悲しいぞな、もし」


 もう~、いい歳してイジケてるんだから、めんどくさいんだよね。


「それで、何の用なのさ、ぬらりひょん。

 ボク、これでも忙しいんだけど !」


 人間に変身できる妖怪たちに声掛けして、祭りに来てもらおうと思っているんだ。


「今日から祭りじゃろう。

 だから、儂も協力して祭りを盛り上げようとしたのに、どうしようかの~う。

 儂、傷付いちゃった !」


 本当、人の弱味につけ込むのが上手い爺なんだから。


「はい、はい、ボクが悪かったよ。

 お詫びに、七之助が秘蔵している吟醸の冷酒『暗黒大将軍』をあげるから許してよ」


 七之助は珍しいお酒を集めているけど、あまり呑まないから少しくらい貰っても大丈夫だよね。

 注意するのは、さくらと雫の逆鱗に触れないように、やり過ぎないことだけど。

 めんどくさい二人が手を組んだから大変だよ、まったく。


「ふむ、バレた時には共犯だから、儂一人に罪を着せて逃げるようなことをしないと、約束するなら手を貸してやろうではないか」


 ……チッ、お見通しか。


「わかったよ、約束するよ。

 だから、何をしてくれるか教えてよ、ぬらりひょん」



 ♟♞♝♜♚♛


【ぬらりひょんside】


 まったくひねくれておるのう、この黒猫は。

 なまじ長生きしている猫魈だから知恵が付き過ぎて、やりずらいわな。


勿体振もったいぶらずに教えなよ、ぬらりひょん !」


 儂、これでも妖怪界の総大将なんだけど、遠慮しないのう。


「うむ、実は先日、茶をご馳走に成りに閻魔大王の所へ遊びに行ったのじゃ 」


「少しは遠慮しなよ !

 フラフラと何処にでも忍びこむけど、迷惑なんだからね 」


 本当に小姑こじゅうとみたいじゃ……

 ジィィィと見詰めているサファイア。

 コヤツ、儂の心を読もうとしているな !

 猫魈から、更に進化してにでも成るつもりなのか ?

 これ以上、小言こごとを言われるのも嫌じゃから教えてやるとしようか。


「まだ、お盆まで日があるが、特別に この地の出身の亡者たちの帰省を許可してもらったのじゃ!」


 サファイアも喜んでくれると思っていたら、


「何て事してくれるのさ !

 人間にバレたら大騒ぎに成ってしまうじゃない !

 そんな事も解らない程、ボケちゃったのかい、ぬらりひょん !」


 コッ コヤツ、人をボケ老人扱いしおって !

 いつか『ギャッフン !』と言わせてやるのじゃ。


「大丈夫、亡者には特殊なお面を被せて、極力 生者との接触を避けさせるから騒ぎにはならんじゃろう 」


 サファイアは疑うように目を凝らしながら、


「それで、閻魔大王の条件は何なのさ ?

 無償で融通する程、甘くは無いよね、地獄の住人は ! 」


 ギクッ !


 コヤツ、エスパーか、それともさとりの能力でも得たのか ?


「ほら、キリキリ吐いた方が楽になるよ、ぬらりひょん !」


 仕方ない、バレてるようだから話すとしようか。


「実はのう、閻魔大王からの条件と云うのは……


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