第77話 キャンプ場の怪談

【さくらside】


 お兄ちゃんの怪談は続く



「あんた、大丈夫だったかい? こわいもんには、出会わなかったかい?」

「出会った、出会った」

「どんな?」

「それはだな・・・」

 山左衛門が答えようとすると、女将さんは、ツルリと顔をなでて言いました。

「もしかしたら、こんな顔かい?」

 とたんに、見なれたおかみさんの顔は、目も鼻も口もない、のっペらぼうになったのです。

 そしてのっぽらぼうは、こわい声でどなりました。

「置いとけえー!」

「ひゃぇぇぇー!」

 さすがの山左衛門も、とうとう気絶してしまいました。


 置井手毛堀おいてけぼり愛花梨あかりちゃんの様子がおかしい。

 顔色が悪いけど、お兄ちゃんの怪談が怖いのかな ?

 心配した八重ちゃんが愛花梨ちゃんの元に行き、


「大丈夫 ?」


 と言いながら愛花梨ちゃんの手を握って励ましていた。

 十八番エースくんも動こうとしていたけど右京ちゃんが、


「ウチもすごく怖いから離さんといて、十八番 !」


 と言いながら十八番に抱きついた為に動けなかったようだね。

 小さいのに積極的だなぁ。


 終わりが近いのか、変な所で完璧主義のあるお兄ちゃんは怪談を続けた。

 そんなお兄ちゃんでも好きなボクも物好きだよね。


 ── やがて目を覚ました山左衛門は、キョロキョロとあたりを見回しました。

「あれ、ここはどこだ?」

 たしかに家へ帰ったはずなのですが、そこはさびしい山の中で、魚も竿も、ぜんぶ消えていたということです。



 怪談が終わり、もう子供たちは寝る時間に成ったので、それぞれのテントで寝ることに成ったんだけど、愛花梨ちゃんを心配に成った八重ちゃんが一緒に寝ることに成り、それを聞いた右京ちゃんが、


「ほなら、ウチは十八番と一緒に寝るわ !」


 の一言で、俊夫くんと栞ちゃんが大反対したことにより、女の子三人は一緒のテントに寝ることに成った。


 はからずも一人に成った十八番くん。


「僕は一人で寝ても大丈夫ですから 」


 と言っていたけど、心配したボク達妖怪。 ふたりは見張りに、ふたりは十八番と一緒に寝ることに。

 話し合いの結果、タヌキ娘とダイフクモチ人狼が十八番に添い寝することに成った。

 特に子供好きなダイフクモチは喜んでいたから十八番くんを任せても大丈夫でしょう。


 結果、ボクと雫が見張りに成ったんだけど……



 ♟♞♝♜♚♛


 子供たちが寝静まると、お兄ちゃん達大人は宴会を始めていた。

 騒がしいのが苦手なボクは外に出ると、雫が月を背にたたずんでいた。


「さくらよ。 お主とは、一度じっくりと話をしたかったのじゃよ」


「うん、ボクもだよ、雫 」


 夏の長い夜、ボクと雫は互いにお兄ちゃんとの馴れ初めを話していた。


「主さまは優しいのう、現在いまも昔も変わらない程にのう 」


「本当にそうだね。

 捨て猫だったボクと弱っていた化け蛇

 どちらもお兄ちゃんが助けてくれなかったら……」


「うむ、妾たちは似た者同士だった訳だ。

 これからも よろしく頼むぞ、さくらよ 」


「うん、こちらこそ よろしくね、雫 」


 ボク達が握手しようとしたら……


「キャアーー 、のっぺらぼう !」


 大人のテントから叫び声が聞こえてきた。

 あの声は魔魅ちゃんだな。

 魔女のクセに気がついてなかったのかな。

 雫も、やれやれ といった表情をしている。

 おおかた、酔っ払った、のっぺらぼうの愛花梨ちゃんの両親の変装が解けてしまったんだろうね。






 朝


 子供たちのテントをのぞくと変装が解けて素顔がのっぺらぼうに成った愛花梨ちゃん。

 八重ちゃんも右京ちゃんも驚く処か、愛花梨ちゃんが、どんな顔にでも慣れることを本気でうらやましがっていた。


 順応性、たかっ !


 小さくても女の子は女の子なんだね。

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