第64話 道草、寄り道、回り道 ④

 この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


【タマside】


 川の大きな渦から巨大な龍が現れた。

 辺りはすっかり曇り空に成っていて雨まで降り始めている。


 不味いわね、あのミズチ

 そうとう高位な水神だわ。


 ── 妾の眠りを妨げたのは貴様らか、人間よ ──


 警察官もよこしまたちも顔色が真っ青に成り、ガタガタと震えている。

 若い警察官が拳銃を抜いて水神に向けて発泡しようとしたが、中年の警察官があわてて止めていた。


 賢明ね、人間のことわりなんて、神には通じないわ。

 ましてや、人間の身分なんて……


「お前たち、俺を守れよ !

 高い税金を払っているんだから、超級国民を守るのは警察の義務なんだからな ! 」


 ……最低 ! 同じ人間でも、ご主人様たちとは大違いだわ。

 警察官の何人かは子供たちを車から出して川から避難させようとしている。


「おい、その平民のガキ共を勝手に逃がしているんじゃねぇー !

 ジャポンさんの手土産に持って行くんだからな ! 」


 よこしまが怒鳴るけど、若い警察官たちは無視して子供たちを逃がしているわ。

 もしかして、思っていたより人間はマシなのかも知れないわね。


「おい、君たち。 課長命令だ !

 超級国民様の機嫌を損ねることは止めるんだ ! 」


 しかし、若い警察官は


平目ひらめ課長、我々警察官は国民を犯罪から守るのが仕事です。

 犯罪に手を貸すワケにはいきません ! 」


 平目課長と云うのが青筋を立てながら、


「平民より超級国民を優先して、何処が悪い !

 ワシの出世の邪魔をしたら許さんぞ ! 」


 しかし、まあ……水神が現れているのに、水神をそっちのけで争うなんて、呆れてしまうわね。


 水神も、さぞや呆れているかと様子を伺うと、水神は人間の争いには興味が無いのか別の方を向いていた。


 水神の目線の先には…………八重と十八番エース


 ものすごく、物凄く、嫌な予感がするのは気のせいよね……気のせいだと言ってよ、誰か !


 サファイアが真っ青に成っているわ……黒猫なんだけど、何故か分かるのよね。


「落ち着こう、皆。 深呼吸して、ヒー吸って ヒー吸って フー吐いて、ヒー ヒー フー ! 」


 サファイアが皆に呼び掛けて深呼吸を促しているけど、何か違う気がするのは気のせいかしら ?


 ── フム、なにやら懐かしい感じがしたのは気のせいかのう。

 見たところ、妾のほこらを壊したのは其処の人間どもで、わらべたちや妖怪たちは関係なさそうだ。

 妾の祠を破壊した人間どもよ。

 何か言い分はあるか、応えよ ! ──


 ミズチは 一見 穏やかに見えるけど、かなり怒っているわね。


「ふざけるな、妖怪ごときに名前を名乗る言われは無いわ ! 」


 よこしま英彦ひでひことか云う芸能人が叫ぶと、


 ── そうか、では死ね ──


 螭の居る川の水から巨大な波が発生して、人間たちを川に引きずり込んでしまった。

 八重たち、子供を保護しようとした若い警察官は無事だったけど、芸能人の味方をしていた中年の警察官は一緒に川に引きずり込まれてしまった。


 仮にも神に喧嘩を売るなんて、バカなの芸能人は !

 それともおごり高ぶっているの ?


 テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ


 八重と十八番エースが螭の前まで歩いて行き、


「ヘビさん『メッ』なんだよ。

『悪い人は生きてつぐわないといけない』

 と、お父ちゃんも言っていたよ 」


「 すみません、神様。

 姉さんの言う通り、殺さないでください 」


 八重も十八番も良い度胸をしているわ。

 流石、ご主人様の子供たちね。


 ── ほう~、妾を恐れぬか、童たちよ。

 しかし、この者たちには『罰』を与えなければ成らぬのだ。

『死罪』に代わる『罰』を与えなければ成らぬが、他に何かあると言うのか? ──


 十八番が、テポ テポと螭の前に行き、ゴニョゴニョと耳打ちした。


 そうすると、螭も十八番も ニチャァ と嫌な笑い方をした。

 十八番も螭も悪いことを考えているんだろう。

 曾祖父のりょうが悪いことを企んでいる時の顔にそっくりだわ。

 アノ嫌な笑い方だけは似て欲しくなかったのに !


 やがて、川から『ペッ』と吐き出された人間たちは顔を真っ青にしてよろめきながら逃げてしまった。


 どんな『罰』を与えたのか、聞きたいような聞きたく無いような……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る