第53話 初めてのお使い ④


 悪霊が八重や十八番エース、子供たちを取り込もうと上空から降下しようとした時、周りに居た浮遊霊が悪霊の邪魔をしようとした。


 浮遊霊の中には当然ながら善良な霊も居るのだ。

 そして、地元で子供たち、とりわけ八重や十八番にタラシ込まれていた浮遊霊たちは、悪霊から子供たちを守ろうとしたが……


無駄むだ 無駄 無駄 無駄ー !

 貴様ら雑魚が束にかかって来ても、この私には叶わんのだよ !

 あの子供たちを取り込んで、私は完成体に成るのだぁーー ! 〗


 只の浮遊霊では、時間稼ぎにしかならなかった。


 しかし、……


飯綱落としイヅナオトシ ! 」


 悪霊を捕まえ、ホールドして逆さに落ちて行くタマ九尾の狐


「なっ、何だ いきなり ! グハァー ! 」


 地面に叩き付けられた悪霊は直ぐに立ち上がった。


「アンタ、八重や十八番に何をしようとしたのよ ! 」


 憤怒している妖狐に戸惑いを隠せ無い悪霊は、


「はっ ? どうして邪魔をするのだ、妖狐が……


 悪霊が言い終わる前に、もうひとつの影が悪霊に迫る。


変移抜刀霞斬りへんいばっとうかすみぎり……で、ござる 」


 高速で迫る人狼、背中に武器を隠しているので見切りが出来ないでいる悪霊を霊剣アラタカで斬り付けるダイフクモチ。


「グギャァァァァーーーー ! 」


 今までの攻撃で弱っている悪霊に、悪霊が居た空より上に居た一反木綿が、


「 真打ち参上、ヒーローは最後を決めるんだよ !

 スピニング・グランダッシャァー ! 」


 身体を捻り錐揉キリもみ上に成った一反木綿が悪霊を貫いた。


 流石にフラフラに成っていたが、まだ あきらめ無い悪霊は、


「まだだ、 まだ負ける訳には………


 その悪霊の後ろに、いつの間にか老人が居た。

 持っていた杖で悪霊を叩いた後、瓢箪ひょうたんを開けて、


「間抜けな悪霊よな、お前さん。

 最後に名前くらいは聞いてやるぞ。

 それとも名前を忘れてしまったのか、雑魚霊よ ? 」


 挑発された悪霊は名乗ってしまった……


「許さんぞ、ジジイ

 この競留字尾セルジオさまをコケにするとは、絶対に許さん ! 」


「そうかい、しかし『セルジオ』なんて、けったいな名前だのう 」


「なんだとぉー、爺 ! 」


 その途端に、爺こと ぬらりひょんが持っていた瓢箪に吸い込まれ始めた悪霊。


 抵抗したが、ぬらりひょんの持っていた瓢箪に悪霊は吸い込まれてしまった。


「封印じゃ 」


 ぬらりひょんは、瓢箪の蓋を閉めてニヤリと笑っていた。


 ぬらりひょんが持っている瓢箪。

 それは西遊記の金角、銀角が持っていた秘宝を孫悟空から借りていたのだ。


「流石、太上老君たいじょうろうくんの法宝のひとつ、紫金紅葫蘆しきんこうころじゃ !

 わし、頭脳戦は得意なのじゃ ! 」


 最後に美味しい処を持っていく ぬらりひょんは得意気にしていたが、


「みんな、なにやってゆの ? 」


 騒ぎを聞きつけ八重たちが来ていたのだ。

 他の子供たちも妖怪たちとは顔馴染みな為に恐がることは無い。


 途端にデレデレし始める、ぬらりひょんは しっかり八重や十八番にタラシ込まれていた。


「何でもないのじゃ。 みんなで劇の練習をしていただけなのじゃ。

 八重ちゃんや十八番くんは、遊びに来ていたのかなぁ~ ? 」


 スラスラと嘘を付けるのは、ベテラン妖怪である ぬらりひょん には朝飯前だったようだ。


「そうなんだ。ヤエとエースはねぇ、はじめてのおつかいなんだよぉ ♬ 」


「そうか、八重も十八番も偉いのう 」


 パチパチ パチパチ パチパチ パチパチ


 妖怪たちは顔をほころばせながら拍手していた。


「エヘヘ……」


 照れながら八重や十八番は嬉しそうにしていた。


「ささっ、急がないと、お母さんが心配するよ」


「うん、いってくゆね、バイバーイ、みんな 」


 テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ テポ


 八重や十八番が小さな手を振りながら去って行く。


「「「「 バイバ~イ 」」」」


 妖怪たちはデレデレに成りながら、手を振り返していた。



 こうして、八重と十八番の『初めてのお使い』は大成功をしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る