第29話 日常は妖怪、吹き溜まり ⑤

【七之助side】


「どうやら封印から逃れる為に力のほとんどを使ったみたいね。

 よく、こんな遠い所まで逃げてきたものだわ。

 殺生石の封印を守る一族が居るから、封印を破るなんて信じられないんだけど、現実に此処に居るんだから信じるしか無いわね 」


 雪子さんの診断と説明を聞いていたら、


「 皆、ニュースや新聞をチェックしていないの !

 何年か前に慢心党が与党に成った時に事業仕分けで、沢山の事から予算が削られたり、失くなってしまったんだよ !

 その時も『殺生石を守る予算を無駄遣いだ !』と言った乱舫らんぽう議員が国会でわめいていたじゃないか !

 ボクは、いつかこんな日がくることを心配していたのに、人間の七之助や栞ちゃんだけで無く、雪女たちも知らないなんて !

 ニュースくらい見ようよ、皆 ! 」


 猫魈とは云え、猫に説教をされる俺達って……


「アッ ! そうすると、殺生石のように封印された妖怪や鬼のたぐいが現代に復活するのか !? 」


 俺の質問に、サファイアはニヤリと笑いながら、


「よく気がついたね、七之助。

 慢心党が余計なことをしたせいで封印が緩んでいる場所が沢山あるはずだよ。

 まあ、現代の陰陽師たちが再封印しているから、そこまでヒドイことには成らないと思うけどね 」


 居るのかよ、陰陽師 !


 まだまだ知らない事はあるもんだな。

 ……コレ、ネタにして小説に書けないかな。


「……七之助、もう一度 忠告するけど、小説のネタにしたらダメだからね !

『好奇心猫を殺す』と云う、ことわざがあるように余計なことをしていると、どうなっても知らないよ 」


 ウワァ、猫にことわざで説教されるとは !

 でも、確かに栞さんとの新婚生活が控えているんだから余計な事はしないに限るな。



 ♟♞♝♜♛♚



 治療した九尾の狐をウチに運び込んで、サファイアに彼女の面倒を頼んでから店に戻ることにした。


 サファイアの話しだと、凄腕の陰陽師がすでに来ているから、妖怪の病院に居るのは危険だと言う。


 妖怪である雪女の雪子さんや雪美さんのことも心配したが、宮内庁陰陽寮と妖怪世界のぬらりひょんとでの話し合いで相互不可侵の条約が成立していると聞いたので、


「人間側が条約を守るとは限らないと思うんだけど大丈夫か ?

 人間の中には自称・正義の味方がいて、自分たちの正義感の為に妖怪退治をしようとする連中がいると思うんだけど ? 」


 俺の質問に対して、サファイアが


「大丈夫でしょう、聞いた話しだと立ち会いしたのが、月読つきよみさまと大国主命おおくにぬしのみことだと云うから、日本神話の八百万の神々を敵にまわすような奴は居ないと思うよ。

 人間側でも無鉄砲なアホが出ないように気をつけているハズさ 」


 ……妖怪が居るんだから、神様だっているよね、ウン信じるよ。

 今度、栞さんと一緒にお参りに行こう。



 いつの間にか、九尾の狐が気がついて俺達を見ていた。


 いかん !

 もうすぐ営業時間に成ってしまうぞ!

 俺と栞さんは店に向かう為に車に乗る為に玄関に向かった。


 九尾の狐とすれ違いする時に、


「 じゃあ、またな タマちゃん ! 」


 声をかけて車に乗り込んだ俺達に、タマちゃんの返事は聞こえていなかった。



 ♟♞♝♜♛♚


「わたし、玉藻たまも……って誰 ? 」


 九尾の狐の質問にサファイアは頭を抱えていた。

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