第26話 日常は妖怪、吹き溜まり ②


 栞さんは、お客様からは大人気だった。

 別に接待をしている訳ではなかったが、ウチの店では最年少と云うこともあり、親方や女将だけでなく、大女将からも可愛がられていた。


 当然、お客様も年齢層が高いせいか、子や孫に接するように優しくしてもらっていたようで、俺は安心していた。


 飲食店って、ブラック労働で年中が人手不足なこともあり、募集をしても なかなかスタッフが集まらないんだよな。


 だから、栞さんが来てくれたことで 皆が歓迎しているようだ。


 店の休憩時間に入ると、俺は何時ものように裏庭に居るにゃんゴロー達にエサを持って行った。

 俺の行動に興味があるのか、栞さんも後ろから追いて来た。


「あの~、もしかして、裏庭に居る猫ちゃん達に御飯をあげるんですか ? 」


 栞さんの疑問は当然だ。

 普通は、野良猫にエサをあげる飲食店なんて許されないからな。


「そうだよ、にゃんゴロー達はウチの店の為に働いているからね。


 この辺りは、廃墟や廃ビルが有るせいで、ネズミが多いんだよ。

 商店街でも猫を飼う店が多いのも、子猫くらいのネズミが出るからなんだ。


 本当は、市や保健所などの行政機関が対策をしないといけないんだけど、予算を理由にして何も対策をしてくれないんだよ !


 だから、ウチら飲食店やお店に猫が居ても、保健所は強く言えないんだ」


 まあ、あくまでも噂だけど、予算を市長や保健所職員が横領していると云うのがあるけど、証拠も無いから 誰もが黙っているんだけどね。


 裏口から出ると直ぐに、にゃんゴローやウッシッシ達が集まってきた。

 正確には野良猫は、にゃんゴローだけで ウッシッシもメンチカツもオハギやガンモドキも飼い猫なんだけどね。


「店の中からも見て思っていたけど、ここの猫ちゃん達は、皆が太ってコロコロですね。

 きっと七之助さんや女将さん達に可愛がられて幸せなんでしょうね 」


 栞さんは優しい目で、にゃんゴロー達を見ていた。


「 少々、え過ぎな気がしますけどね。

 この子達の名前は俺が付けたんですよ。

 皆、俺が名付けをした時には『ミャァ ミャァ ミャァ』と強く鳴いていたけど、サファイアやさくらが教えてくれたように、人間の言葉を理解していたのだとすると、んだと思います」



 すると、にゃんゴロー達が一斉にに食べるのを止めて鳴き始めた。


「「「「「

 ニャア~オ ニャア~オ ニャア~オ ニャア~オ !

 」」」」」


「 ……うん、きっと名付けに対するお礼を言っているんだな 」


「良かったですね、七之助さん 」



 俺と栞さんが会話をしていると、いつの間にか側に来ていたサファイアが、


「ヤレヤレ、知らないと云うことは幸せだね、ふたり共。

 ボクは、にゃんゴロー達に同情してしまうよ 」


 と、おかしなことを言っていた。

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