第25話 日常は妖怪、吹き溜まり ①

【七之助side】


 遼さん夫婦が来てから数日が過ぎたけど、警戒していた須々木野は姿を見せてない。

 栞さんは本屋のアルバイトをしている、埼玉愛さんとメールで連絡のやり取りをしているようで、本屋さんでの出来事を報告してもらっているようだ。


 俺としても、栞さんにずっと付いている訳にもいかずに悩んでいたのだが、


「七之助くんのお嫁さんを連れて来なさいな !

 家に居ても、どうせやることが無いんでしょう。

 だったら、ウチで働いてもらえば良いじゃないの !

 ウチとしても助かるし、七之助くんもお嫁さんが一緒なら安心するでしょう 」


 と云う、俺が勤めている割烹料理屋の女将に押しきられて、栞さんも一緒に働くことになった。


 もちろん、サファイアやさくら、タヌキ娘は留守番をしてもらうつもりでいたのだが……


 さくらは元々、俺が働いている間は留守番をしていたので了承してくれたし、タヌキ娘は むしろ家の中で 食っちゃ寝するつもりだったらしく反対はしなかった。


 しかし、サファイアは……


「 ボクも一緒に行く !

 七之助だけだと頼りないから、ボクが栞ちゃんのボディーガードをするから、ネコ屋のウナギをご馳走することで、手を打ってあげるからね !

 感謝してよ、七之助 ! 」


 一緒に追いてくる気が満々だった。

 ネコ屋と云うのはアダ名みたいなもので、店の裏庭には、数匹の野良猫が住んでいる処から、お客様達に言われるように成った訳だ。


 この辺りは、廃屋や廃ビルが多いせいか、ネズミが多いので、ネズミの侵入経路に成りやすい裏庭に野良猫たちが居ると助かるんだ。

 野良猫たちも食が満たされるせいか、毛繕いをしているせいで小綺麗にしている為に、お客様からのクレームも無い。


「お店の中には入れられないぞ。

 飲食店は、動物を中に入れてはダメなんだ。

 だから、にゃんゴローやウッシッシと一緒に外で待っていてくれるなら連れて行っても良いよ 」


 俺が説明すると、すんなり納得してくれた。

 正直、もっとゴネるかと思っていたから意外だな。


「本屋さんの方は良いのか ?

 サファイアは看板猫なんだろう。

 サファイア目当てに来るお客様も結構いるから、居ないとガッカリすると思うぞ 」


 俺が最後の抵抗をすると、サファイアがヤレヤレと云う感じで、


「本屋さんの方は当分は行かないよ。

 アノ尻軽男が連れてくるマッケンローポメラニアン五月蝿うるさくて仕方ないからさ。

 弱っちいクセに吠えまくるのだけは、いっちょ前なんだから本当に嫌になれよ 」


 本当に嫌そうに言うサファイアに、先ほど引っ掛かった言い方をしたについて聞いてみた。


「ああ、それはね、七之助。

 アノ尻軽男からは、沢山の人間の女のにおいがしているんだよ。

 発情期の犬や猫よりくさにおいさ。

 年中、発情期な奴なんて、ろくでも無い奴に決まっているからね 」


 ああ、やっぱり噂は本当だったみたいだな。

 俺も栞さんとの一件で気になって、須々木野誠がコーチするテニスサークルに通うお客様のお姉さんオバサマに聞いたら、聞かなかったことまで教えてくれた。


 須々木野にも親が決めた婚約者が居ると云う事。


 テニスサークル内にも数人の女性に手を付けていると、嬉々として教えてくれた。

 俺としても、そんな不誠実な男に栞さんを渡す訳にはいかない。


 幸い、教えてくれたお客様も俺の味方に成ってくれることを約束してくれた。


〖 七之助 ! にゃんゴローやウッシッシも協力してくれるってさ !

 良かったね、七之助 〗


 頭の中にサファイアの声が響いた。

 テレパシーも使えるのかよ、猫魈 !


 もう、何でもアリだな。

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