第11話 愛は地球を救う と言うらしいけど愛だけでは食べていけないよね ! ④


「また今度な !」


 そう言って、誤魔化した後にサファイアをさくらのキャリーケースに入れようとしたら、


「やだよ ! ボクは自由が好きなんだ。

 逃げたりしないからヒモもつけないでよ ! 」


 サファイアが嫌がっているし、意志疎通が出来るから大丈夫だろう。

 アパートに止めてある自転車を用意していると、


「オッチャン、車で行こうよ !

 自転車より楽チンだからさ。

 オッチャンが車に乗っているところを見たことがあるから持っているよね、車 」


 よく見ているよ、本当に。


「残念ながら、あの車は店の仕入れ用と出前に使っている車だからダメだよ。

 あの車は俺のモノじゃなくて店の持ち物だから、勝手に私用で使う訳にはいかないんだよ 」


 自転車の前カゴに痛く無いようにバスタオルをひいて、


「倒れ無いように押して行くから、コレで我慢してくれよ、サファイア 」


 猫に戻ったサファイアを抱き上げ自転車のカゴに乗せようとしたら、


「待ってよ、お兄ちゃん !

 サファイアと二人でドライブなんてズルいよ。

 ボクも連れて行ってよ ! 」


 さくらが俺の背中に飛び乗りヨジヨジと登りながら上着のフードの中に入った。


「ぐえっ !

 子猫の頃ならともかく、今のさくらがフードの中に入ると重たいんだけど……」


「ムゥゥ、レディに重たいなんて言っちゃあダメなんだからね ! 」


 さくらは文句を言いながら態勢を変えて、フードを足場にして俺の肩に前足を出して 顔を出した。

 ズシッ と背中と肩に重くのしかかるけど、我慢ガマン。


「頼むから、ふたりとも大人しくしてくれよ。

 転ばないように自転車は押して行くからな。

 特にさくらは、散歩ヒモ無しで外に出るのは初めてだろう。

 絶対にはぐれないようにつかまっていてくれよ 」


「「は~い ! 」」


 アパートから本屋まで少し距離があるが、たまには散歩がてら歩くのも良いだろう。

 行く先々で歩行者が俺達に気付いて微笑んでいる。

 まあ、普通は見ない光景だから仕方がないよな。

 あおき屋居酒屋の前を通りかかると、


「ウニャァー ! 」「ナァーゴ ! 」


 あおき屋の飼い猫のガンモドキとあおき屋の隣にある床屋バーバー・バーバからコンディショナーが出てきた。

 二匹とも、よく店にまで遊びに来る御近所ネコで、よくエサをあげるせいか俺になついている。


「ごめんな、今日はサファイアを送り届けるところだから、また今度な 」


ニャア~ニャア~悪いね、ふたりともニャニャ ニャ ニャアーン今日はボクとデートだからガマンしてね


 サファイアの言葉が猫の鳴き声と共に副音声で聞こえてきた。

 サファイアの説得が効いたのか、二匹は大人しく引き下がり、それぞれの店に戻って行った。


 商店街を通り抜けようとするけど、通行人や知り合いの店員の目がイタイ。


 薬屋のレオナルド、美容院のイッコー、喫茶店のビヨンセも此方こちらを見ていないフリをしているけど、本当はサファイアを見詰めている……耳が此方こちらの方にピクピクと動いているだからだ。


 彼奴あいつらが猫又だと言っても誰も信じないだろうなぁ。


 商店街の端にある本屋さんがある場所に近づくと店の前で、栞さんが掃除をしていた。

 それを見つけると、サファイアが自転車のカゴから飛び出して行って栞さんの元に駆けて行った。


「お帰りなさい、サファイア。

 朝帰りなんて不良娘ね ! 」


 ポニーテールにエプロンをした栞さんが、やれやれという感じでサファイアを見ていた。


ウニャァ~ごめんね、栞ちゃん


 スリスリと栞さんにびを売るサファイア。


 アイツ、ネコをかぶっているな ! ……猫だけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る