(4) 喪失の送り火

 僕らにとっては本当に不思議だったけど、遠征隊の皆は死んだ仲間を屋敷の庭園で火葬した後、燃え盛る棺を囲んで宴を開くことになった。


 どうやらそれが彼ら流の死者へのはなむけらしい。常に死地にいる彼らはいつまでも死んだ仲間の為に悲しんではいられない。冒険者にとって理由がなんであれ、立ち止まるということは死を意味する。だから仲間の死すら糧として、彼らは前に進むことを炎に誓うのだ。


 それがアルヴィン達冒険者の掟。そうであることは彼らが弔いの後、自然に宴を開こうとしたことから分かる。だけど……


 僕には彼らの輪の中に入る資格はない。あの哀しくも穏やかに歓談する中に混ざって、陽気に振る舞うことなど許されない。なぜなら僕は、彼らの仲間を殺したも同然なのだから……。


 今になって悔いる。どうして僕はあの人形を拾おうなどとしたのだろう。あれがトラップのトリガーであることなど、入隊したばかりの新兵だって分かることなのに。


 軍務経験者が聞いて呆れる。僕は結局、上官の命令を聞くしか能のないただの肉人形だった。アルヴィン達が必死に戦っていた時、僕はあの部屋で一体何をしていた? 部屋の隅でブルブルと震えて蹲って、亡霊レイスに見つからないよう必死に息を殺していたじゃないか。自分だけ生き残る確率を上げて、仲間が懸命に戦っている中ひとり逃げたのだ。


 本当はあのとき僕は、自分の命を投げ出してでも戦うべきだった。たとえそれによって死んだとしても、こんな惨めな気持ちになるくらいなら遥かにマシだった。


 ……ユーリカに会いたい。


 もう一度彼女に慰めてもらいたい。たとえアルヴィン達が許さなくても、彼女に許されるならばそれでいい。僕にとってはユーリカが全てだ。ユーリカが隣にいてくれるなら耐えられる。


 明日にも僕らはこのキャンプを出ていこう。彼らだって僕のことには触れたくないはずだ。荷馬車は使えず徒歩になるけど、ここで仲間たちの冷たい視線に晒され続けるよりはよっぽどいい。開き直ったと言われてもいい。僕はもう一度、ここから逃げ出すことで心の平穏を得たかった。


(ユーリカ……)


 僕はキャンプ内にいるはずのユーリカを眼で探す。

 だけどどこにもいる様子がない。なぜだろう。ユーリカは少し前に仕事があると言ったきり、それから姿が全く見えない。今は探索の仕事も全て中断されている。あるとしても生活に関わる簡単なものだけなはずだ。もう僕の元に戻ってきてもいい頃合いなのだが……。


 僕は妙な胸騒ぎがして、近くで歩哨していたガルデロッサ卿の部下にユーリカの居場所を尋ねた。


 歩哨中の彼は僕を見ると眉間に皺を寄せる。樹海踏破中に一緒だった彼とは顔見知りのはずなのに、軽蔑するような視線を向けられた。


 心当たりはある。きっと僕のせいで仲間が死んだことを誰かから聞いたのだろう。それは弁明の余地もない事実だから、僕にはどうすることも出来ない。


「あのエルフ女なら一階の客間にいるはずだぜ」


 彼は憮然とした態度でそう言って、僕から目を逸らすと歩哨を続けた。


 去り際になぜか嘲るような笑みをしたことが、僕にはなぜか引っ掛かった。


 だけどそんなことはどうでもいい。今はユーリカに会って、自分の荒んだ心を落ち着かせたい。


 僕は最愛の理解者ユーリカを求めて、魔法鏡の淡い光源で煌々と光る屋敷の中に入っていった。

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