(2) 少女がいた部屋
僕らにとって未踏域である三階。
その封印魔法を解かれた階層手前の踊り場で、ソゾンは
今まで自由気ままに探索をしていた
彼らは年長者であるソゾンの命令を聞くやいなや、僕を中央にして守護するような陣形を素早く取った。
どうやらこの隙のない陣形で三階を探索するらしい。まるでお姫様のような扱いで恥ずかしいが、こればかりは仕方ない。この暗くて狭い廊下でいざ戦闘になれば、僕は彼らの邪魔にしかならないのだから。
「……この部屋でいいでな?」
細心の注意を払いながら僕ら五人が進んでいると、廊下の突き当りに他の部屋とは一線を画す重厚な造りの扉が現れる。
先頭のソゾンはこの部屋を槍で指し、真後ろにいる僕に振り返って目配せした。
「ああ……ここだ」
……間違いない。この角部屋が昨夜あの少女がいた部屋のはずだ。
もう一度配布された地図で場所を確認していると、僕は自分の手が震えていることに気付いた。
この扉の向こうにミヤかもしれない少女が佇んでいる。その姿を無意識に想像して、緊張が増しているのだ。
「周囲はおでらが見張る。ビトー、おめは扉を調べるだでな」
屈強な
……やはりトラップがある。それも強力で複雑なものだ。だけど解呪出来ないことはない。多少危険は伴うが、手持ちのアイテムを駆使すれば応援を呼ばずとも何とかいけるだろう。
僕はそう判断して鑑定魔法を中断すると、どうやってトラップ解呪の手順を踏むか思案する。すると階段側の廊下奥から、複数人の足音がこちらに近づくのが聞こえてきた。
「……あれ? ソゾン、どうしてお前達がここにいるんだ?」
声の方向を向くと、闇の中カンテラを持つアルヴィン。
彼が歩きながらこちらを不思議そうに見ている。後ろに続く彼の小隊の仲間たちも、僕らを訝しげな目で見ていた。
それに気付いたソゾンが、分かりやすく「しまった」というように顔を顰めた。
「アルヴィン、これにはちっとばかし理由があってだでな……」
ソゾンは言いながら気まずそうに大きな身体を竦める。そして僕にちらりと首を縮めて振り返った後、不思議がるアルヴィンに事の経緯を正直に話し出した。
「――ふむ、分かったようでよく分からないけど」
恐縮するソゾンから事情を聞き終えたアルヴィン。彼は扉の前で固まる僕に向き直すと、
「ビトー、その部屋の中に何かあるんだな?」
いつもとは違う、固く鋭い視線を投げかけた。
「いや、まぁ、そうかもしれない、かな……?」
なんだか大事になった気がして狼狽する。返答に詰まった僕は、曖昧な言葉を返してしまった。
「だったら俺がやった方が早い。そこをどいてくれ」
アルヴィンは背負っていた大剣をおもむろに抜き出す。
――幾多の戦場で、幾千の魔を切り伏せたという聖剣・ヨルムンガルド。
聞きしに勝る大剣を握り直して構えると、彼は扉の前を塞いでいた僕らへ退くように指示した。
アルヴィンの中段の構えから発せられる強烈な
僕の身体は自然と後方へ下がり、気付かぬ内に大剣の間合いの外へ押し出されていた。
刹那――キィン、と金属が擦れるような高音が廊下に響く。
一拍置いてから、目の前の扉が音を立てて崩れ始めた。扉はいつのまにか縦横に
「ギィヨォオオオ!!」
木製だとばかり思っていた扉。
その切断面からはどす黒い血のような液体がドクドクと噴き出し、扉の表面に突如として顕れた醜い顔からは悍ましい断末魔が聞こえた。
四つの破片は僕らを呪うように睨め上げると、またたく間に腐敗して溶けるように消えていった。
……危なかった。これは扉に擬態した
アルヴィンは僕が気付けなかった
どうしようもない実力と経験の差を感じて、僕は自分の無力さを痛感する。
「イェシカとミハルはここで待機。中に入るのは俺たちとソゾン隊だけにしよう」
アルヴィンは僕の落胆にも気付かず、テキパキと周囲に指示を与えていく。
だけど慎重になっているのは明白だった。扉が
「まずは部屋の中のトラップの有無を調べる。扉がこれだから十中八九存在するだろう。……一応言っておくが、不用意に中の物を触るなよ」
そう言い残して、アルヴィンは部屋の中へ先陣を切っていった。
アルヴィン隊の仲間がそれに続くと、僕もソゾン達と一緒に彼らの後を追う。
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