第3話 屋敷での生活

フレデリカは農夫のジョセフと農夫の妻のマーガレットを呼び寄せ、メルロを紹介した。


「ジョセフさん、マーガレットさん、この方が昨日運び込まれた男性です。名前はメルロと言います。」


ジョセフはメルロを見て、興味深そうに頷いた。


「ふむふむ、昨晩は大変だったろうな。でも大丈夫、ここは安全な場所だから。」


マーガレットはメルロに親切に微笑みかけた。


「疲れたでしょう。ゆっくりしてください。」


メルロは口下手で、うまく返事ができなかった。


しかし、彼はジョセフとマーガレットが優しそうで、安心した。


フレデリカはメルロを連れて屋敷の中を進んだ。


そして、メイド達をメルロに紹介した。


メルロの目の前には3人の女性がいた。


「メルロ、こちらが私たちの屋敷で働いているメイドたちです。まずはアンナから自己紹介してもらえますか?」


フレデリカに促されたアンナが一歩前にでて答える。


「はい、こんにちは。私はアンナです。私は細やかな仕事が得意です。お屋敷に新人が入ってくるのは久しぶりですね。これから一緒に働く事もあると思いますので、どうぞ、よろしく。」


「次はクララです。」


クララと思わしき女性が一歩前にでた。


「こんにちは、私はクララと言います。私は掃除が得意だと自負してます。掃除の方法についてお知りになりたい場合はお任せください。」


「最後にエレナです。」


最後の一人が前にでて話す。


「こんにちは、私はエレナです。私は、責任感は強い方です。それと、お菓子作りが得意です。お料理は得意ですか?、お屋敷での食事は皆で用意する事が多いです。一緒に頑張りましょう。」


メルロは、それぞれのメイドの性格を知ることができた。


働くという事自体があまり理解できていなかったが、彼女たちと一緒に働くことでそれを理解できるだろうと期待した。


     ◇


フレデリカから与えられた仕事に取り掛かるが、メルロは働くという事自体がよくわかっていなかった。


メルロは思い通りに作業が進まないことが多く、何度も失敗を繰り返した。


その度にメイドたちからあきれたような視線を向けられ、メルロは段々自信を失っていった。


ある日、メルロはフレデリカに呼び出された。


要件は仕事での失敗についてだ。


「メルロさん、どうしてこうなってしまったんですか?」


「すみません、自分、まだ慣れていなくて…」


フレデリカは渋い顔をして言った。


「それでいいんですか?あなたはここに来て、お仕事を任されたんです。」


「はい、分かってます。でも、言葉がわからなくて、うまくやれないんです。」


メルロはうまくできない理由について自分なりの考えを話した。


しかし、フレデリカはその考えに納得しなかった。


「言葉は、徐々に覚えていけばいいのです。それよりも、あなたは自分の力を信じて、一生懸命取り組むことが大切です。」


フレデリカの言葉を受け、メルロはできるだけその言葉通りにしよう考えていた。


しかし、根本的な自分の問題点が何なのか理解できていなかった為、仕事はまだまともにできなかった。


ある日、メルロはメイドたちと一緒に仕事をしていた。しかし、メルロの仕事ぶりにクララがついにあきれて文句を口にした。


「もう、メルロさん、やる気はないんですか?これでは、仕事が進まないし、他の人に迷惑をかけていますよ。」


「すみません、慣れないせいか、うまくできなくて…」


「そんなこと言っていても、仕事は進みませんよ。」


横で見ていたアンナも口を挟んだ。


「あなたは、自分でやれると思えば、もっとできるはずです。」


メルロはアンナに言われた通りに頑張って仕事をやろうとしたが、結局、うまくできなかった。


メルロは自分自身にがっかりし、泣きそうになっていた。


「ごめんなさい、まだまともにできなくて…」


「もう、あきれてしまいますね。」


クララの感想は変わらなかった。


エレナは少し助け船を出した。


「でも、メルロさん、あなたががんばっている姿は認めますよ。」


アンナもエレナの言葉に同意した。


「そうですね。私たちが、手伝ってあげますから、がんばってください。」


メルロはメイドたちの励ましに感謝し、再び仕事に取り掛かった。


     ◇


メルロはふと気が付いた事をフレデリカに尋ねた。


「フレデリカさん、お尋ねしてもよろしいでしょうか? なぜ、ここには男手がほとんどいないんですか?。」


「そうね、確かに男性の従業員は少ないわね。実は、不幸なことに、先代の当主が亡くなった後、このワイナリーは危機的な状況に陥ったの。多くの人々がこの地域を離れ、男性の従業員もその中に含まれていたわ。」


フレデリカはメルロの問いに答えた。


「そうだったんですか。それは本当に辛いことですね。」


「ええ、本当に辛いわ。でも、私たちはここで生きるために努力してます。先は長いと思いますが、私たちは全力で働いて、このワイナリーを再建しようとしているのよ。」


フレデリカはこの先の展望について軽く説明した。


フレデリカは更に続けた。


「それと、メルロさん、私には姉がいるんですが、彼女が病気になってしまって、診療所に入院してます。」


「そうなんですか。それは心配ですね。」


「ええ、私たちは心配しています。でも、彼女は強い人なので、必ず立ち直ってくれると信じています。私たちは彼女が回復するまで、ここで精一杯働くつもりです。」


フレデリカは内に秘めた想いをメルロに話した。


メルロは、思いつめたような顔をみせるフレデリカが気になった。


「フレデリカさん。お手伝いできることがあれば、自分も力になりたいです。」


フレデリカは微笑んで言った。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。でも、ありがとう。もしあなたが何か手伝ってくれるのなら、本当に助かります。」

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