1章 自覚なき勇者
第4話 はじめての酒場
フレデリカはメルロに近況を確認した。
「メルロさん、最近はお仕事の方はどうですか?もう少し慣れてきた頃ですか?」
「はい、少しずつ慣れてきた気がします。最初は本当に全く分からなくて、皆さんに迷惑をかけてしまいましたが、だんだんこなせる作業が増えてきたように思います。」
メルロは言葉も憶え、話す事もしっかりしてきたように思える。
「そうですか、よかったですね。私たちも、最初はあなたがこんなに苦労されているとは思っていませんでした。でも、最近は少し落ち着いてきた感じがしますね。」
「ありがとうございます。でもまだ、やらかしてしまうことが多いんです。申し訳ありません。」
正直に自分の至らぬ部分も認めているように思える。
フレデリカは今のメルロに好感を持った。
「いいえ、大丈夫です。何事も慣れが必要なんです。もう少し時間をかけて、じっくりやっていけばいいんですよ。」
「はい、わかりました。頑張ります。」
◇
ある日、メルロはメイドたちと一緒に洗濯物を干している最中に、アンナがメルロの洗濯物を持ち上げた。
「あら、メルロさんの下着、可愛い柄ですね。」
「あ、ああ、ありがとう……。」
メルロは女性に可愛いと言われる事に少しこそばゆい感じがした。
「そういえば、メルロさんって女の子みたいな名前ですよね。」
「あはは、確かに女の子っぽい名前だよね。」
メルロは、自分の名前についてクララとエレナの感想を聞かされたが、この世界の常識が分からない為、女の子みたいと言われても否定できず受け入れるしかなかった。
「でも、この人、男性だよね。」
「うん、そうだよね。」
アンナとクララは、女の子みたいな名前のメルロが男性である事を確認し合う。
それに対し、エレナは笑いながら自分の考えを話した。
「あはは、でもまあ、名前はどうでもいいじゃない。」
アンナはメルロの仕事っぷりが改善されてきた事に一安心していた。
そこで改めて自分達と働く事についてどう思っているか質問した。
「そうそう、メルロさん、私たちと一緒に働くのが楽しい?」
「あ、はい、楽しいですよ。でも、あんまりからかわないでください。」
メルロの答えにクララが反応した。
「あら、メルロさんに気を使わせてしまったわね。」
クララの言葉にエレナがメルロに声を掛けた。
「ごめん、ごめん。でも、やっぱり名前は面白いよね。」
「うん、私たちもすごく気になってたんだよね。」
エレナの感想にアンナも同意した。
「そ、そうなんですか……。」
メルロはメイド達にからかわれている事がわかっていなかった。
だが、メイドたちのからかいは、メルロがメイド達との会話に慣れてきた証拠でもあった。
しかし、メルロにとってまだまだ照れくさい出来事だった。
◇
メルロはメイド3人から夜に街の酒場に誘われると、興味津々の様子で快諾した。
アンナはメルロに問いかける。
「さて、酒場へ行きましょうか。メルロさん、お酒はお好きですか?」
「お酒ですか?。ぼくはワインは少し飲んだことがありますが、それ以外のお酒はあまり……。」
メルロの反応にクララが提案する。
「それなら、今夜はいろんな種類のお酒を試してみましょう!」
「そうだね、ワイン以外にもビールやカクテル、ウィスキーなどがありますよ。」
エレナはメルロに酒場で頼める酒の種類について話した。
「そ、そうですか……。でも、飲みすぎると体に悪いとフレデリカさんから聞いたことがあるので……」
「大丈夫ですよ、ほどほどに楽しめばいいんです。」
メルロの心配についてアンナが答えた。
フレデリカに発見された当初、メルロは泥酔していた。
なので、飲酒の経験は少しどころではないはずだが、メルロは記憶喪失だ。
どうやら、自分がどういう状況で運ばれたのか記憶していないようだった。
メルロは飲酒について少し不安そうな表情を浮かべながらも、メイド3人と一緒に酒場に向かった。
◇
酒場の前に着くと、にぎやかな音楽と人々の声が聞こえてきた。
「おお、盛り上がってますね!」
「さあ、どんどん中に入っていきましょう!」
クララとエレナは、アンナとメルロに呼びかけて先に進んだ。
アンナはメルロに気を使っているのか、メルロの傍にいた。
「メルロさん、ここが酒場です。ちょっとドアを開けて中を覗いてみましょう。」
メルロはドアを開けて、中を覗き込んだ。
すると、カウンターに座る人たちが様々なお酒を飲み交わしている光景が広がっていた。
そしてカウンターに並ぶ色々な形の酒瓶を眺めた。
「ほ、本当にこんなにたくさんのお酒があるんですね……。」
店内の感想を口にするメルロにクララとエレナが声をかけた。
「そうですよ、お酒っていろんな種類があって、それぞれ味わいも違うんですよ。」
「でも、飲みすぎはダメですからね。ほどほどに楽しむことが大切です。」
アンナは早速、皆に注文しようと提案した。
「では、お酒を注文しましょうか。メルロさん、何にしますか?」
「ええと、この辺のお酒は初めてなんです。」
「ここのお酒は美味しいですよ。お勧めは赤ワインです。」
「赤ワイン?それってワインっていうお酒の一種なんですね?」
アンナが奨める赤ワインはフレデリカのワイナリーでも作っている。
というよりも、赤ワイン中心で作っている。
メルロは試飲させてもらった事があるが、それが赤ワインだという事を知らなかった。
メルロの疑問にクララが答えた。
「はい、そうですよ。でも、それ以外にも色々なお酒がありますよ。例えばビールとか、ウイスキーとか。」
「へぇ、ビールとかウイスキーってどんな味するんですか?」
メルロが気になるのも仕方がなかった、フレデリカのワイナリーにはビールとかウイスキーがない。
その質問にはエレナが答えた。
「ビールは、爽やかな苦味があるんですよ。そして、ウイスキーは、独特の香りがあって、ちょっと刺激的な味がします。」
「へぇ、そうなんですね。じゃあ、僕は赤ワインとビールを頼もうかな。それと、何か食べるものとかあるんですか?」
メルロは試飲したことがある赤ワインと初めて聞くビールが気になったのでそれを頼む事にした。
食べ物に関する質問にはアンナが答えた。
「はい、いろいろありますよ。例えば、ここのオリジナル料理のチーズとハムの盛り合わせや、ピザ、フライドポテトなどがおすすめです。」
「わかりました、じゃあ、チーズとかいうのとハムの盛り合わせとフライドポテトというのも一緒に注文してみますね。」
メルロの呼びかけにクララが答えた。
「分かりました、お待ちしております。」
◇
メイド達は酒場にいる男達に声をかけてみた。
メルロはいつも異性の自分たちばかりと会話しているので、たまには同性とも会話した方がいいだろうとの配慮だった。
「ねぇ、あの人たちに声かけてみようかしら。」
「いいわね、ワインについてのお話しでも聞いてみる?」
アンナとクララは早速行動しようとした。
エレナは少しメルロの事が気になった。
「でも、メルロさんはまだ酒についてあまり知らないみたいだから、大丈夫かしら?」
「え?ああ、そうですね、でも他の人の話も聞いてみたいです。」
エレナの配慮は嬉しかったが、メルロはお屋敷意外の人々との会話に興味を持った。
「じゃあ、声かけてみますね。」
アンナは二人の男性に声を掛けに行った。
「こんにちは、あの、私たちの知り合いがいますけど、一緒に座ってもいいですか?」
「ああ、いいですよ、どうぞどうぞ。」
「はい、どうぞどうぞ。」
二人の男性は、女性が声をかけられた事が嬉しかったらしく快く受け入れた。
アンナはメルロたちを呼びに戻ってきた。
「メルロさん、男性たちが座っている席に移ってもいいって言ってるわよ。」
「え、あ、ありがとう。でも、なんか違う気がするんだけど…。」
アンナが声を掛けた男性は、女性が隣に座る事を期待しているように思えた。
「同性の知り合いができるようになるチャンスですよ、大丈夫ですよ。」
「それに、私たちが一緒にいるから、問題ないわ。」
クララとエレナは躊躇するメルロを励ました。
「うん、そうですね。ありがとう。」
メルロはアンナ達の後ろに付いて行った。
「こんにちは、どうぞ座ってください。」
「ありがとう、じゃあ、座らせてもらいます。」
男性の案内にメルロは応じた。
他のメイド達も開いてる席に座った。
男性の一人がメイド達に声をかける。
「ああ、それにしても、君たちの服装が凄いね。」
「ありがとうございます。こういう場所に来るときは、ちょっとドレスアップするようにしているんです。」
「そうそう、特別な場所だから、普段とは違う感じになれるというか。」
エレナとクララが自分達の服装に関する男性の感想に答えた。
アンナはメルロの飲み物がなくなっている事に気が付く。
「メルロさん、飲み物は何にしますか?」
「ああ、そうですね…。ワインはもう飲んだから、違うのがいいかなと。」
その言葉に男性が答えた。
「じゃあ、僕たちはビールを飲んでるんだけど、それでもいい?」
「ああ、それでお願いします。」
◇
二人の男性はジョンとマイクと名乗った。
メルロはジョンとマイクと話をしながら、彼らの性格を掴んでいった。
二人は酒の進みが早かった。
「ジョンさん、マイクさん、あの、お二人ともお酒はお好きなんですね。」
「そうだよ。酒があると楽しいじゃん。」
「そうだな。でも、飲み過ぎには注意しないと。」
ジョンはメルロの質問に笑いながら答えた。
マイクは一応、酒の飲みすぎには注意しているようだ。
ジョンは楽天的でのんびりとした性格で、マイクは落ち着いていて冷静な性格だとメルロは感じた。
メルロはこの街で住み慣れている住人が普段なにをしているのか気になった。
「お二人はこの辺りの人たちともよく交流されているんですか?」
「そうだよ。ここは俺たちの出身地だから、みんな顔見知りだよ。」
「そうですか、ここはいい場所ですね。」
メルロはジョンとマイクが地元の人たちと仲良くしている姿に感心していた。
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