第2話 記憶喪失の男

男性は目を覚ますと、知らない部屋にいた。


頭痛がして、なにか覚えていないことがあるように感じる。


すると、若い女性が部屋に入ってきて、男性に話しかけてきた。


「おはようございます。あなた、大丈夫ですか?」


男性は女性の話を聞いているうちに、自分の名前がわからないことに気付いた。


そして、女性の話の意味は何となく分かるが、言葉そのものがよくわからないため、うまく答えられなかった。


「あ、すみません。自分、話は何となく分かるけど、言葉が出てこないんです……」


男性は少し慌てたように話した。


女性は男性の言葉を理解しているようで、少し安心した。


「大丈夫ですよ。私はこのワイナリーの女主人、フレデリカです。あなたがここにいるのは、昨日の夜、酔って倒れていたところを、私が助けたからです。あなたの名前は何ですか?」


フレデリカは男性に親しげに話しかけるが、男性は悩んだ表情を浮かべて答えた。


「すみません、自分、名前が思い出せないんです……」


「あなた、自分の帰る場所や地名がわからないんですか?」とフレデリカは男性に尋ねた。


男性は首を振って答えた。


「すみません、全くわかりません。自分の名前さえも覚えていません。」


フレデリカは驚いた表情を浮かべた。


「そうですか。でも、どうやってこの土地まで来たのか、何か思い出せることはありませんか?」


男性は首をかしげながら考えたが、何も思い出せないと言った。


「申し訳ありません、何もわかりません。」


フレデリカは少し考え込んだ後、男性に向かって優しく微笑んで言った。


「それでは、あなたはしばらく私の所に滞在して、回復することにしましょう。何か思い出せることがあれば、その時に考えましょう。」


そしてフレデリカは続けた。


「じゃあ、あなたに名前をつけてあげましょうか」


「名前? そうですね、自分は……」


男性は考え込んでいたが、何も思い浮かばない。


「そうだ、あなたが持っていたワイン、メルロという銘柄があったじゃないですか。それでどうでしょう、あなたをメルロと呼びましょうか?」


フレデリカが提案した。


「メルロ……いい名前だ」


男性は頷いた。


「じゃあ、メルロで。」


男性は自分の名前を忘れてしまっていたが、フレデリカに名前をつけてもらったことで少し安心したようだった。

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