第23話 女の子
ああ、この感じ。
もうみのりはいないって訴えかけてくるこの胸の痛み。
喪失感ってこういうことのことを言うんだろうな。
対して長い期間一緒にいたわけじゃないんだよな。
たしか...
この茶番の舞台に来る前から俺はみのりのこと知ってたんだよな。
俺はデパートの屋上ですいかの被り物してショーにでるバイトをしてた。
みのりはみのりの母親とそれを見に来てたんだ。
最初は恥ずかしいって気持ちがいっぱいで観客の顔なんて覚えたりしてる暇なんてなかった。
でも続けていくうちに余裕ってでてくるんだ。
バク転しながらでも観客ひとりひとりの顔を見ることも難しくなくなってきた。
そんな時に違和感があったんだ。
"いつも同じ格好の親子"がいる。
決して汚らしいって意味じゃない。
綺麗なスーツ姿の女性と幼稚園の制服を着た女の子。
その女の子がみのりだ。
毎回シワひとつないスーツでショーを見に来ている。
それも真昼間に。
バイト仲間達も同じ違和感を感じていた。
でも誰も何も知らない。
そりゃただの観客のことなんて知らないよな。
当たり前だ。
ただ、リーダーは違った。
リーダーは事情を知っていた。
俺は今まで生きてきた中で一番必死に頼んだ。
自分でもなんでこんなに必死になっているのか分からなかった。
でもなにか見落としていて取り返しのつかないことになる気がしたんだ。
そしたら渋々教えてくれたんだ。
『あの子は毎回1人で見に来ている』
曰く、スーツの女性はあの子の死んだ母親らしい。
心残りが強すぎて周りにも見えているらしい。
女の子は俺たちのやっているショーを見るために町外れの豪邸から歩いて来ているらしい。
家族も止めたそうだがそうすると自傷行為がエスカレートするようで止めることはできなかったらしい。
そうした結果、デパートのお偉さん方に大金を叩いてこのことを黙認してもらうことになったらしい。
普段は受けないような問題だが、デパート側も憔悴しきった女の子のお父さんの姿を見て同情したようだ。
(なにか、なにかあの子にできることはないのか...)
その話を聞いたあとも俺はショーのバイトを続けているし、女の子も変わらず見に来ている。
変わったことといえばファンサとして手を振ると満面の笑みで手を振り返してくれるようになった事くらいだ。
それだけでも少し救えた気がしたのは俺の自己満なんだろうな...
そして、例の日がきた。
俺たちの国の神が開催したゲームの当日だ。
女の子"みのり"は神に選ばれた参加者の1人だった。
それを知った日から俺は生きた心地がしなかった。
ただでさえ不幸な目にあってるのになんで追い打ちをかけるんだ。
神ってのは救いを与えてくれるんじゃないのかよ...
ついぞ参加者発表の日から今日までみのりの姿を見ることは無かった。
そりゃそうだよな。
参加者に選ばれた人達はみんな追い回されたり監禁されたりして大変な目に遭っているらしいし...
なんて考えていると先輩から声がかかった。
もうショーの時間みたいだ。
なんだかやる気なくなったな...
このまま辞めちまおうか...
まあそんな勇気もないまま舞台に上がると確かに聞こえた。
聞き間違いじゃねぇ。
「すいかしゃーん」
え、みのり...!?
客席から離れたパンダのオブジェから顔をのぞかせたみのりが手を振りながらこっちを見ていた。
え、なんで...?
でも...うれしいなあ。
俺は生き返ったようにイキイキと演じた。
バク転もダンスもいつもよりキレがよかったと思う。
出番が一旦終わって舞台裏に引っ込んだ時「なんかいい事でもあったのか?今日やけに張り切ってるじゃねえか」って先輩に言われたくらいだ。
そのくらい目に見えてご機嫌だったみたいだ。
そして、また出番を迎えた俺が舞台に出た時、みのりは黒服の男に話しかけられていた。
俺は反射的に分かってしまったんだ。
みのりの迎えだ。
あ、こっち見た。
「すいかしゃん!」
「かしこまりました」
その言葉を最後に俺の視界はブラックアウトした。
そして、俺はみのりに選ばれたプレイヤーとして参加者になった。
巻き込まれた形だが、俺はみのりの助けになれることが嬉しかった。
でも...
もうみのりはいないんだよな。
助け...られなかったんだな...
「神様...ああ神様...」
そうつぶやきながら祈りを捧げる司祭風の男の足元では大和がこと切れていた。
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