第22話 そんなこと言わないでよ

夢だとしてもタチが悪い


こんなの嘘だ


「なんで...なんで...」

頬を引っ張っても痛いだけ。

目の前の出来事が現実であることを頬の痛みから嫌でも実感してしまう。

"手遅れ"

嫌だよ...

やっと楽しいって思えてきたところなのに...

「おや?なんで泣いてるんです?」

え?

みのりを殺した司祭風の格好をした男が葵の顔を覗き込んでいた。

「失礼、あなたアレと血の繋がりとかないですよね?

なのになんで泣いてるんです?」

そんなの関係な

「どうして血の繋がりも無いただの肉塊のために泣けるんでしょうか

不思議ですねぇ」

「葵から離れろ!」

大和が司祭風の男に殴りかかった隙に花が葵を抱えて下がった。

「お前!!お前お前お前!!

なんてことしてくれたんだよ!!

みのりがお前になにかしたか!?ふざけんのもいい加減にしろよ!!」

大和の顔は怒りで歪みに歪んでいる。

「"なんてこと"??

ああ、殺したってことですか

変なこと聞きますね

あなた達もその頭が黄色い方以外誰かを殺してるじゃないですか」

「「「「!?」」」」

「分かるんですよワタクシは

なにせ神様と繋がっていますから

特にアナタ」

「え...」

司祭風の男は葵を指さして続けた。

「2人も殺してるじゃないですか

なのになぜ1人目の前で死んだくらいで大泣きするんでしょうか

今更悲しいなんて感情も湧かない頃でしょうに」

なんでそんなこというの...

人の命だよ...

軽く考えたことなんてないよ...

私そこまで酷くないよ...

冷たくないよ。

そんなこと言わないでよ...

葵は涙を流しながら地面に突っ伏した。

「葵ちゃんが2人...?

それに大和くんや花ちゃんも...?」

本当に...?あの葵ちゃんが...?

どうすれば...

たった一言で聡介の頭は疑心暗鬼になってしまった。

(葵ちゃんに知られた...

それに大和も誰かを...どうしたらいいの...?

わからないよ!!)

花は頭の中を整理できずにあたふたしている。

そんな中、1人冷静な男がいた。

大和だ。

みんなパニックになるのは簡単だ。

でもそれじゃなダメだ。

こいつらはにはみのりの分も生きて欲しい。

その為には...

「聡介!」

「えっ」

「お前が1番パニクってないよな...

あいつら逃がしてくれ

頼む」

「なっ、どういうこ」

「すまん!

そいつらに楽しかった!って言っといてくれ!」

そう言うと大和は泣いている葵と狼狽えている花を聡介の方へ突き飛ばし、司祭風の男へと走っていった。

みのりはもういない。

俺が見殺しにしたようなもんだ。

なら生きてるあいつらを逃がすほうにシフトチェンジしたほうがいいよな。

そのほうがみのりも喜ぶよな。

頼んだぞ、聡介。

「おおおらああああ!」

大和の全力で振り抜いた拳が司祭風の男の顔面にクリーンヒットした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る