第24話 冷たい

『...ちゃん』

声が聞こえる。

『あおちゃん!』

私のことを呼ぶ声で飛び起きた。

いつの間にか気絶していたらしい。

「葵ちゃん!」

あれ?聡介さん?

なんで?さっきの声はたしかみのりちゃ...

気づいてしまった。

現実だったんだ...

葵の隣にはみのりが寝ていた。

首にはキャラ物のおおきなハンカチがかけられている。

「これくらいしかできなかった

ごめん」

申し訳なさそうな顔して謝ってる。

聡介さんは何も悪くないのに。

なんで何も悪くない人が謝ってるんだろう。

世界って理不尽だ

私の好きな人たちに...

私に手を差し伸べてくれた人達に優しくない。

今もまた...

あ...

「あ、あの...」

私が質問する前に分かった。

察しがよくなったというか鋭くなったというか。

ならざるを得なかったんだろうか。

聡介さんの右頬の殴られた跡と『ごめん』という謝罪の言葉。

"花さんがここにいないのはみのりちゃんの仇をとりにいったから"だ

あーあ

積み上げたものって積み上げるのは大変なのに崩れる時は一瞬で崩れるんだ。

まだ間に合う

いかなきゃ

立ち上がった瞬間、聡介に手を掴まれた。

「なに...してるんですか?」

「君だけは行かせない

大和くんに頼まれたんだ

せめて君だけでも」

「私、2人殺してるんですよ?」

「....!」

(葵ちゃん...僕が気にしていたことに気づいてたのか...)

「で、でも君は」

「聡介さんが庇う価値なんてない人間なんです

だから止めないでください」

(ダメだ...思いつかない...

頭をフル回転させても葵ちゃんを引き止める言葉が出てこない)

聡介は膝から崩れ落ちた。

あとは...

葵は安らかに眠るみのりの傍に座った。

「みのりちゃん、もっと優しくしてあげたかった

妹ができたみたいで嬉しかった

もっと...もっと...

一緒にいたかった

今まで...本当にありがとう」

そう言い終わるとみのりのポケットから四つ葉のクローバーが描かれた栞をとりだした。

「あった...」

夢の中でみのりちゃんが私に渡そうとしていたもの。

結局渡さずにポケットにしまっていた栞。

みのりちゃんは頭のいい子。

これを渡すと私に仇を取ってほしいって思わせてしまうことを危惧してやめたんだよね。

「...大切にするから」

そう言いながら聡介とみのりを置いて葵はどこかへ歩き出した。




~市街地エリア外れ~


「殺してやる...!殺してやる...!」

「殺すなんて軽々しく言うものじゃありませんよ?

だいたいそのザマでどう私を殺すんですか?」

どうやら腱を切られたようで花は這いつくばったまま司祭風の男を睨みつけている。

「よくも...!よくもよくも!!

返せよ...返してよ...」

「あれ?次は泣くんですか?

最近の若者は情緒不安定で怖いですねぇ」

誰のせいか分かっていないのだろうか。

「なんでよ...」

なんで私たちがこんな目に合わないといけないの...

みのりも大和も...やっと仲良くなってきたのに...

こんな...こんな奴のせいで...!

神の声が聞こえる...?救済...?

そんなくだらない事のために最悪なことを...!

「あんたが死ねばよかったんだ...!

あんたが!あんたが死ね!死ね死ね!」

「無理です」

「死ね!」

このいやらしい笑みが憎たらしい...!

こんなやつが生きててなんでみのりと大和が...!

「花さん、女の子がそんな汚い言葉使っちゃダメですよ」

え、この声...

間違うはずがない。

葵ちゃんの声。

「葵ちゃ...」

伏したまま葵に目を向けた花だったが直ぐに目を背けてしまった。

なにあの冷たい目...

つい目を背けてしまった。

目を合わせるとこっちの心まで凍てつかせてしまうような...

それ程までに冷たい目をしていた。

「すみません、怖かったですよね」

「ご、ごめんね

わたし」

「花さんはちょっと寝ててください」

あれ?声もいつも通りだ。

顔も目も普段と変わらな...

葵に後頭部を小突かれた花は力尽きるように倒れた。


「次、起きた時には全て終わってますから...」

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