第20話 自己肯定感が上がる

市街地エリアの入口で出会った青年"真田聡介"。

カフェ店員をしている19才。

高校卒業後に店長からの猛アプローチに負けてアルバイトからそのまま流れで働き続けているらしい。

出身は千葉県。

O型で身長は175センチ。

両親は健在で中3の弟がいる。

なぜここまでの知っているのか。

それは聡介が自分から話したからだ。

彼が自身の情報をここまで話すのかには理由があった。



10分前。

急にやってきて自己紹介をしてきた彼に葵達は若干引いていた。

(え、なにこの距離感バグ男...

顔は良いのになんかヤダ...)

(花さんかなり引いてる...

ここは私が何とかしないと...!)

「えっと...」

葵が1歩前に出た。

「「!?」」

「え!?あ、葵ちゃん!?」

「おい!なんで前に出た!?」

2人が葵の行動に戸惑う中、葵は聡介に近づきながら言葉を続けた。

「わ、私!如月葵です!

よ、よろしくおねがいし」

葵が話終えるよりも早く、聡介はガバッと葵の手を握ってきた。

「よかった〜!警戒されてると思ってたんだよ〜

葵ちゃんだね、よろしく〜」

ボキボキッ!

「っ....!?」

聡介に握られた手から激烈な痛みが走った。

まるで万力に握りつぶされたかのような痛みだ。

「え?あれ!?

なんで!?」

それはこっちが聞きたいところだ。

しかし、当の手を握り潰した本人がこんなにも焦るものなのだろうか。

「おい!どうかしたのか!?」

「葵ちゃん!?なにかあったの!?」

(まずい!2人が!)

あれ?なんでまずいって思ったんだろう...

刹那、葵はあまり良いとはいえない頭をフル回転させた。

そこから導き出した結果がこれだ。

"聡介は能力を無自覚でつかってしまい、私の手を握りつぶした"

完璧だ...!

大和さんの悪意は無い発言と狼狽える聡介という点と点を繋ぎ合わせた見事な推理。

さすが私...!

自己肯定感が上がって仕方がない...!

「だ、だいじ...ょぶ...です!」

完璧な推理から捻り出した言葉がこれだ。

手が痛いなんてもんじゃない。

涙も止まんない...

なんとか痛みだけでも逃がさないと...

ポケットに入っていたボールペンに痛みを移した。

原理は分からないがボールペンの内部で聞いた事のない音がした。

ふぅ、なんとか痛みは消えた。

でもなんとなか見るのは嫌だ。

絶対エグいことになってる...

「ね、ねぇ!葵ちゃん!だいじょうぶ!?」

「だ、大丈夫です、私が説明しますから!

その...大人しくしていてください」

相変わらず頭を抱えてあたふたしている聡介を一旦黙らせ、花と大和の方を見る。

「あの...花さんも大和さんも

絶対に驚かないでくださいね」

その言葉を聞いた花と大和は顔を歪めた。

「その...聡介さんは...」

言い終わる前に花が近寄ってきて後ろに隠していた手を前に出された。

「あ...」

ーーーーー説明間に合わなかった...

「こおおおんのアホーーーー!!!!!」

勢いよく振り抜いた花の右ストレートは聡介の左頬を芯で捉えた。

そして、ぶん殴られた聡介は美しい曲線を描きながら森の中へと消えていった。

花のあまりの豹変ぶりに大和は固まっていた。

「大和」

「は、はい」

「あいつ縛り上げてくるから葵ちゃんの手治してあげといて」

「わかりました」

あまりの怖さに敬語になってる...

「あ、あの花さ」

「葵ちゃん」

花さん怒ってる...

「は、はい...」

「んー、また後で話そっか」

お説教だ...

絶対そうだよ...

顔は笑ってたけど目の奥が笑ってなかったよ...



そして、現在に至る。

縛り上げられ、顔を腫らした聡介が正座させられていた。

「まさか本当に何も知らなかったなんてね

もう5日目だってのに」

「ああ、ここまで何も知らないなんてな」

ボコボコに言われ混んでいる。

「そこまで言われるとさすがの僕も傷つくよ」

「ダメよあんたは傷ついちゃ」

「理不尽だね、あはは」

なんでこの人爽やかに笑ってるんだろう...

葵は治してもらった手でみのりの髪を整えながら3人の会話を聞いていた。

「まぁ何はともあれ、俺の能力が信頼出来るものって改めてわかっただろ?」

「まあね

葵ちゃんはケガしたけど」

ドヤ顔でキメた大和だったがすぐに花に鼻っ柱を折られてガクッと項垂れた。

「葵ちゃん、ほんとうにごめんね

悪気はなかったんだよ」

「い、いえ

気にしてませんし、だ、大丈夫です」

「まあ、敵意はない!味方確定だな!」

あ、大和さん復活した。

「人が多いに越したことはない

多勢に無勢って言葉があるだろ?

俺たちが大人数なら襲われることはそうそう無いことだ

また聡介みたいな平和主義のやつを探してどんどん仲間を増やしていこうぜ」

「そうね、いい考えだと思うわ」

「まあ、今日は仲間が増えたお祝いと骨休めを兼ねてパーッとデパートで楽しもうぜ」

5人となった葵たちはわいわいしながらデパートにはいっていった。


大和の考えは概ね正しい。

こちらの数が多ければ多いほど戦いは有利になる。

よほどイカれた思考の持ち主でない限りはリスクを犯してまで大人数を相手取るようなことはしない。


よほどタガが外れていない限りは

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