第10話 むり

あ...危なかった〜!!!

あんなトゲトゲしたパンチしてくるなんて...

ほんとに死ぬかと思った...


つむぎがパンチしてきた時、本当に怖かった。

怖くて両手で頭を抱えて下を向いた。

その時、地面を見た葵は思った。

(私の手がこのコンクリートみたいに硬かったらなぁ)

それが葵の能力発動のトリガーだった。

結果、葵の腕はコンクリートのような硬さを付与され、つむぎのグローブを砕くほどの硬さを手に入れたのだ。


「いってぇ!いってぇよぉぉぉ!!!!」

思いもよらぬカウンターを食らったつむぎは腕を押えながら悶え苦しんでいる。

その様子を(エグいのはあんまり見たくないので)薄目で見ていた葵はそーっと距離を取ろうとした。

出来ればスプラッタな場面はこれ以上見たくない...

この間に離れたところから石でも投げて気を失わせれば...

「どこ行こうとしてんだクソアマァ!」

「ひぃっ!」

バレた...

「このままで済むと思うなよボケナスがぁ!」

やばいやばいキレてる!

「あの〜」

「あぁ!?」

「お互い手負いなんでまた今度にし」

ピュン

ピュン?

葵の頬からタラーっと血が流れ始めた。

つむぎの爪が飛んできたのだ。

「もうお前と話しはせん

死ね」

「ご、ごめんなさいっ!!!!」

葵は逃げ出した。

「待てコラー!!」

当然つむぎは葵を全速力で追う。


逃げる葵。

を追うつむぎ。

を遠くから見ている花。

「なんとな〜く分かってきたかな

葵ちゃんの作戦」

いつの間にかビルの上でイキった座り方をしている花は全速力で走っている花を見ながらニコッと笑った。


おいおい、あいつ速すぎるだろ...

つむぎは焦っていた。

運動音痴でヘタレでバカ。

唯一私より上なのは顔くらいだと思っていたアイツにこうも嵌められている。

全てあいつの手のひらの上で踊らされてる気がしてならない。

情けない顔しながら逃げるアイツを追いかけてはいるがどこか追い込まれている予感がする。

ただのお荷物だったアイツのペースに乗せられている。

マジムカつく!

よし、できるだけ苦しませて殺す!

決定!

てことで追いかけるのはやーめた。

まずは身を隠して陰キャ戦法で削る。

そんでサクッと殺ろう。

ちょうどいい感じにビルとビルの間じゃん。

ここから遠距離のあたしが有利だ。

よし...

「バーカ!いつまでも追いかけると思うなボケカス!」

そう大声で言い放ち、つむぎは止まった。

「え!?」

フッ、ちょっとは動揺を隠せよ。

バカ丸出しだよ!

「あ、じゃあ」

は?なんで近寄ってくんの?

バカなの?離れるに決まってんじゃん。

つむぎは葵が近寄ってきた分と同じ分だけ離れる。

離れながら爪を弾丸のように飛ばす。

「死ね死ね死ね死ね死ね」

「いっ!」

葵は痛みで顔を歪ませる。

が、歩みは止めない。

コイツ、さっきみてぇに硬くしてないのか?

「はぁ!?痛くねぇのかよ!」

なんなんだコイツ...

情けなく逃げてたと思ったら今度は涙目になりながら向かってきやがる。

気味が悪い...

葵の体からは血がダラダラと流れている。

大量の爪が刺さっているのだから当然だ。

自分の爪だけど気持ちわりい。

トライポフォビアの人が見たら卒倒モンだな。

なんて考えながら爪を撃っていると急に腕を掴まれた。

「!?」

「やっと...捕まえた...」

そんなに距離を詰められてたのか!

「くっそ離せ!」

「ダメ...

もう終わりだから」

「はぁ!?どういう意...」

つむぎは葵に抱きしめられた。

なんなんだよコイツ!

意味わかんねぇ!

大量に血がついて気持ち悪いし!

やけに生暖かい体も気持ち悪い!

あー!きもいきもいきもい!!

パラパラ...

なんだ?石...?

つむぎがパラパラと降ってくる石に気づいた時には手遅れだった。

揺れる地面と段々落ちてくる量が増える石や瓦礫。

「はぁ!?てめぇ!?」

クソ!コイツまたハメやがった!

しかも私の腕を握ったまま硬くなりやがった!

「ごめんね」

「ふざけんな!なんでお前なんかと心中しなきゃいけねんだよ!離せよ気持ちわりい!」

「ううん、離さない」

「お前なんかと死ぬとか嫌だよ!

死ぬなら1人で死ねよ!」


「えへへ、むり」


2人はビルに押しつぶされた。

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