第53話
今日は桐生とのデート当日。
例のトイレの前に集合してから現地に向かう予定。
俺は余裕を持って家を出る。
30分前に集合場所に辿り着くと既に桐生が居た。
なんかモジモジして落ち着かない様子だ。
「お前いつから居たんだ?」
「二時間前よ」
余裕持ち過ぎだろ。
「何でそんな早く来たんだよ」
「遅刻したらマズイでしょ?」
「だとしても一時間前でいいだろ」
「何よ? 早く来る分には別に良いでしょ?」
「まあ遅刻されるよりはマシだけど……」
「さっさと行くわよ!」
「やけに張り切ってるな……」
「うるさいわね! あんたから誘ったんでしょ!」
「まあそうだけど」
「じゃあさっさとリードしなさいよ!」
「わかったからそう急かすな」
俺がそう言って歩き出すと──
「あたしを置いていくとはどう言うことよ!」
桐生が怒鳴り散らかした。公の場で大声を出せば、当然注目を浴びる。行き交う人々が軽蔑の目で俺を見ていた。
なんで俺が悪いみたいになってんの?
「いや、お前が早くしろって言ったんだろ」
俺は足を止めて振り返ると呆れを隠さずそう言った。
「違う、そうじゃ無いわ!」
桐生はそう言うと俺の横に並んだ。
「ほら、行きなさい」
ああ、恋人らしく横に並んで歩きたかったのか。
「ああそうだな、いくか」
そう言って俺たちは歩き出す。
道路に面した場所に出ると俺は道路側を歩いた。
「あんたもこれぐらいのことは考えるのね……」
「か弱い女の子に歩道側を歩かせる訳にもいかないだろ」
「か、か弱い……? あ、あたしが?」
「ああ、そう見えるが?」
「ふーん……そうなんだ……そう見えるんだ……」
桐生は俯きゴニョゴニョと何か言った。
顔は微かに赤い。
計画通り、だな。
桐生は普段から恐れられている。
そう言う女性ほど女の子扱いされる事を内心望んでいる、と白鳥が言っていた。
「どうかしたのか?」
気遣いふりをしておく。
「な、何でもないわよ!」
顔を真っ赤にしてそう否定する桐生はお世辞抜きで可愛い。
普段からこうしていればみんなに怖がられる事もないだろうに。
俺たちはバス停に着く。
そしてバスに乗って目的地に向かった。
目的地は遊園地。遊園地はデートの定番だ。
「ちょっとここで待ってろ」
「え?」
俺は返事を待たずに歩き出すと二人分のチケットを買って戻ってくる。
「ほらお前の分」
チケットを差し出す。
桐生はそれを受け取るとカバンから財布を出した。
「ちょっと待って今お金を出すから……」
「いや、良いよ。俺から誘ったんだからこれぐらい出させてくれ」
割り勘する男は嫌われる、と恋愛の教科書にも書いてあった。
一回目の拒否は社交辞令だ。本心で望んではいない。
「あんたがそう言うなら別に良いけど……」
桐生は渋々と言った様子で食い下がる。
どうやら本当に出すつもりだったみたいだ。
俺に花を持たせる為に退いてくれたのか。案外良いとこあるじゃないか。
「じゃあ行くか」
「え、ええ!」
俺達は入場ゲートをくぐって中に入る。
中は休日という事もあって賑わっていた。
「何か乗りたい乗り物はあるか?」
「特にはないわ」
じゃあ何で来たんだよ、と突っ込んではいけない。それは禁句の言葉である。
それにこの状況は寧ろ俺にとっては好都合だ。
「じゃあ俺が選んでも良いか?」
「え、ああ……良いわよ」
「そうか、じゃあいくか」
俺たちはそう言って歩き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます