第42話

 帰り道。

 俺達は横断歩道の前で足を止めた。

 信号は青になっている。


「今日は楽しかったか?」


 俺は待ち時間に不意にそんな質問を投げかけてみた。


「楽しい訳ないでしょ」

「まあ、そうだよな」


 桐生は友達ではない。組長に復讐する為に利用する道具だ。

 だがそう思うと胸がズキズキと痛んだ。

 なんだろうか、この感情は。


「何ボーと突っ立ってるの?」


 その言葉で我に返る。

 信号は赤になっていた。


「行くよ」

「ああ……」


 俺は白鳥の後ろを一歩遅れて歩く。

 揺れる長い黒髪。小さい背中は不思議と逞しく見える。


 ──排気音。


 俺は咄嗟に横を向く。

 前方からトラックが迫っていた。

 だが信号は赤だ。特に焦る必要もない。 

 しかしトラックが減速する事はなかった。

 排気音はどんどん大きくなり、トラックが視界一面を覆う。


「白鳥──!」


 俺は咄嗟に白鳥を突き飛ばしていた。

 気付いた時には体が勝手に動いていた。

 直後激痛が俺の全身を駆け巡る。

 痛いなんて次元じゃない。

 体が動かない。

 血を流し過ぎた影響だろうか。

 白鳥が俺の顔を覗き込んで泣いている。口がパクパク動いているが、何も聞こえない。どうやら俺はここで死ぬみたいだ。

 だが自然と後悔はない。父だって同じ状況なら同じ事をしただろう。

 ならこれは誇り高い死だ。

 後の事は白鳥に託そう。

 そこで俺の意識は途切れた。

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