第41話
俺は飲み物を持って席に座る。
飲み物は白鳥の抹茶ラテのトールだ。俺は白鳥と合流する直前にサイゼで飲んできた為喉は乾いてないが、席を取る以上何も買わないのは失礼にあたる為、白鳥一押しの抹茶ラテのトールを頼んだ。
俺は容器にストローを刺し、抹茶ラテを一口飲む。
うん、甘くて美味しい。
「美味しいでしょ?」
俺が一口飲んだタイングでそう聞いてきた。
「まあ普通にうまいな」
嘘をついたところで仕方ないため、嘘偽りなく告げる。
「そうでしょ? さあ思う存分飲んで良いよ」
まるで自分がお金を出したかの様な言い草だ。
「金払ったの俺だけどな」
「女々しい男は嫌われるよ? あ、もう嫌われてるか」
「やかましいわ」
「冗談だよ。お疲れ様」
「労いの言葉をどうも」
「まあこれも全部私の台本のお陰だけどね」
毎回一言多いんだよなこいつ。
「なあ白鳥一つ質問なんだが、本当にオラオラ系で行く必要あったのか?」
「ギャルはみんなオラオラ系好きでしょ?」
偏見が過ぎるわ。
「ギャルだからってオラオラ系好きとは限らないだろ」
「そうかな?」
「そうだよ」
「……うーん? でもまあ第一段階は成功したし、結果オーライでしょ?」
「まあ、そうだが……」
「じゃあ次はいよいよ第二段階だね。ホテルに誘おう」
「色々段階飛ばしすぎだろ。それ最終段階だろ」
「仕方ないな……じゃあデートに誘おう」
「まあそれなら良いか──とはならないぞ? 俺にドア・インザ・フェイス・テクニックは通用しないからな?」
『ドア・インザ・フェイス・テクニック』とは最初に過大な要求を提示し、その後に本来の先程よりも小さい要求を提示する事で相手に『まあこれならさっきよりマシだから良いか』と受け入れらせる交渉術である。
だがこの交渉術もタネが割れていれば意味がない。
タネが割れたマジックなど誰も驚かないだろう。
「裸をネットに流すよ?」
そうだった。白鳥に交渉術なんて必要なかった。脅せば済む話だ。
「ああ、やるよ」
人質を取られている以上、そう言うしかない。
断ったが最後、人質をネットの海に流される。
「素直でよろしい」
ホント可愛い顔して悪魔みたいな女だな。
「でも断られたらどうするんだ?」
「断られないから大丈夫だよ」
「その確固たる自信はどこから来るんだよ」
「まあ一回騙されたと思って誘ってみてよ。まず間違いなく成功するからさ」
「ああ、分かったよ……」
「分かればよろしい」
「で、どうやって誘うんだ。今回のプランは?」
「何でもかんでも人に頼るのはどうかと思うよ。たまには自分で考えてみたら? 上司の指示がなきゃ何も出来ない部下は社会じゃ通用しないよ」
「マジかよ……」
急に放置プレイとか鬼畜過ぎる。
「じゃあ行こうか」
白鳥はそう言って席を立つ。
「俺まだ飲み終わってないんだけど……」
「私が飲み終わったから」
暴君かよ。いや、暴君だったよ。
「さいですか……」
人生諦めが肝心である。
「じゃあ行くよ」
「あのゴミは……」
「ゴミはゴミが持つべきでしょ?」
ぶっ飛ばすぞ。
「じゃあ私は先行くから」
本当に先に行ってしまった。
はぁ……仕方ない。
流石にゴミを放置して帰る訳にもいかない。
そんなことをすれば他のお客さんの迷惑になる。
俺は抹茶ラテを急いで飲み干し、ゴミを片付けてから白鳥の後を追った。
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